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ゲーマーズHIGH!!  作者: 御目越太陽
隔離された世界での未確定の未来
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おぼろげな戦意

 ゲームは初心者の遊人から始まった。


 遊人はまず場に公開されているカードを確認した。コストの高いレベルⅡとⅢ(裏面がそれぞれ黄色と青)のカードはどうせすぐには手を出せないので軽く流し見る程度に、とりあえずレベルⅠ(裏面が緑)のカードをじっくり検める。


 色の偏りはなかった。赤のみ出ていなかったがそれ以外は宝石のコストもいずれかの色を一つか二つずつで合計四つあれば買えるものだ。


 ならどれでも良いか、と安易に宝石トークンに伸ばしかけた手を遊人はぴたりと止めた。どれでも良くはない。貴族タイルがあるのだ。どうせ買うなら貴族タイルの条件に含まれているものが望ましいはずだ。場のカードは買われる度に引き直されるため頻繁に変わるが、貴族タイルはゲーム開始時ランダムに選ばれたプレイヤー人数+一枚で固定のため変わらない。


 改めて貴族タイルに視線を向ける。緑と赤が含まれているのが四枚中三枚、その他の色はそれぞれ四枚中二枚まで含まれている。


 遊人は最も安い緑のカードを買うために白と青と赤の宝石を一つずつ取った。次の手番で黒い宝石を取れば三巡目で買える。


「ふむ」とつぶやいたのは次手番の喜子だった。彼女はどうも遊人と同じものを見ていないらしく、少し考えた後青を二つ取って手番を終えた。


 いきなり競合は避けられたかと遊人が安堵したのもつかの間、三番手の金井先生は彼が目をつけていた緑のカードをキープして黄金トークンをもらった。


「さあ、次の手番どうぞ」


 にこやかに促され、遊人は机上に視線を戻した。動揺が顔に出ていたらしい。何気ない風を装ってこの手番を考える。


 と、遊人は金井先生のキープによって新たに補充されたカードがあることに気づいた。色は赤で、コストは白二個の青緑黒を一個ずつ。さっきのより一つ分多いが一手番目の宝石を二つも活かせる上、赤なので貴族タイルを取るのにも潰しが利く。遊人は白緑黒のトークンを一つずつ取って手番を終えた。


 再度手番が回ると、喜子は白緑赤のトークンを一つずつ手にした。これまでに取った宝石とコストが合致するのは黒のみ。なるべく被らないようにして他者からの妨害を避け、最短で欲しい宝石をゲットする作戦なのかも知れない。手番で手に入れた宝石を無駄なく使えているのだからそれほど非効率でもなさそうだ、と遊人は思う。


 彼にとって問題なのは次手番の金井先生だった。一手番目の緑キープは明らかに遊人と同じく貴族タイルを狙ってのものだ。それだけに、またキープを選択して遊人の貴族獲得を妨害することが予想できる。


 しかし、遊人の心配は杞憂に終わった。先生が二手番目に取ったのは普通に黒赤緑を一つずつ。遊人の赤狙い、喜子の黒狙いを見越してそれ以外の青か白どちらかを取る作戦だろうか。黄金を使えば次の手番にはどちらにも手を出せる状況だ。


「相楽くんの番ですよ?」

「あ、はい」


 喜子の声で遊人は考えるのを中断した。何にしたって、今度は買いたいものが買えるんだ。


 遊人は赤以外の宝石を五個場に返して狙っていた赤いカードを獲得した。喜子も同じく黒を買い、二人が手放したために場には一気に宝石が帰ってきた。


 当然三番手も続くものと思われたが、先生はそうしなかった。帰ってきた宝石を三つひょいひょいと手元に持って来て手番を終える。


「買わないんですか?」


 遊人の素朴な質問に先生は肯いた。


「二人とも買ったばっかりで手元が寂しいし、慌てて買う必要もないでしょう」


 場には新たにめくられたカードが二枚あった。そのどちらも宝石三つで買える割りの良いカードだが、遊人と喜子は手持ちの宝石を放出してしまったので次の手番にすぐ購入することが出来ない。対して先生は黄金を含めて宝石を七つ保持している。遊人たちがどれを狙ってどの宝石を取るか見てからその選択を横取り出来るのだ。


 負けん気が遊人にキープを選ばせた。緑二個赤一個で買える黒のカードをキープして黄金トークンを一つ手に入れる。しかし、引いてきたカードがまたしても三つで買えるタイプのもの、それも貴族獲得に有利な赤だった。


 喜子はキープを選ばず宝石を取り、先生はコストの安い赤のカードを買う。


 手元には未だキープの緑に場の青も買える十分な宝石。


「なるほど、手加減なしっすね」


 遊人の言葉に、先生はもちろんと肯いた。


「そう簡単に課題を免除させるわけにはいかないからね。それに手加減なんてのは相手を見下してるのと同じだよ。勝負事ってのはやっぱり対等な立場で、真剣にやるから面白いんだ。そう思わない?」


 遊人は先生の穏やかな視線に不可視の火花を見た。二人の狙いは青緑赤のカードを三枚ずつ購入することで手に入る貴族タイルに違いなかった。


「私は楽しめれば勝ち負けにはこだわりませんけどね」


 闘志を燃やすあまり返事を忘れていた遊人の代わりに喜子は答えた。


「でもまず一番に楽しもうって考えたら、自然と真剣に、全力で、ってなりますよね。その結果が勝利につながるならもういうことなしです。やっぱり勝てたら嬉しいし、楽しい気持ちも増しますもん」喜子は不意にその純真な目を隣の後輩へ向けた。「相楽くんはどうですか? 勝敗と楽しさだったら、どっちが優先ですか?」


 まっすぐな問いかけは遊人を困らせた。


「いや、まあ、どうっすかね。よく分かんないっすけど」


 返した言葉は半分が本音だった。正直彼自身にもどんな気持ちでこのゲームに臨んだらいいのか判断出来ない部分があった。やるからには勝とうという意志はある。何よりも課題の免除は魅力的だ。反面、こんなゲームごときで、負けてもリスクのない遊びなんかでマジになってどうすると冷めた感情も皆無ではなかった。


 ただ、頭の片隅には「先生にあのタイルを渡すのは嫌だな」とぼんやり思う気持ちがあった。もちろんいまいち考えの読めない喜子も警戒したいところだが、目的の被る相手に比べれば脅威の度合いも低い。貴族タイルは早い者勝ち。狙いが異なるなら競争にはならないし、後追いしたところで一点にもならないのだ。


 特別勝敗を意識しているわけではなかった。楽しさを実感しているわけでもなかった。それでも、視界は自然と卓上に絞られ、思考はゲーム以外のことを意識の中から追い出そうとする。そのおぼろげな気持ちに向き合うことが、遊人にとって苦ではないのだった。


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