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ゲーマーズHIGH!!  作者: 御目越太陽
隔離された世界での未確定の未来
2/25

あるお馬鹿の一学期

                 10:34(今さらだけどテスト明けたわ}


古拓

{おー)10:35

古拓

{おめでと)10:35

古拓

{うちも昨日最終日だった)10:35


なっくん

{俺らもそうよ)10:36


つっちー

{そっち今日何の日?)10:37


                          10:37(球技大会}


なっくん

{一緒か)10:38

なっくん

{球技大会なう)10:38

つっちー

{古拓は?)10:39


古拓

{遠足)10:39

古拓

{バスなう)10:40


なっくん

{遠足とか草)10:40

なっくん

{高校生ですよねw)10:40


                      10:41(おやついくらまで?}


古拓

{なんかちょっと遠い運動公園的なとこに連れてかれてる)10:41

古拓

{何をするかは分からん)10:41

古拓

{おやつは特に制限ない)10:42


なっくん

{やっぱちげーわ北西はw)10:43


                        10:43(意識高いよなw}

                10:44(球技大会なんて子供の遊びですか}


古拓

{いや意味分からん)10:44

古拓

{学校で済ませたかったわい俺だって)10:45


                 10:46(つか土日さぁ…暇なんだけど}

                         10:47(遊ばない?}


古拓

{あー土曜模試だから日曜なら)10:48


なっくん

{悪い)10:49

なっくん

{日曜模試やねん)10:49


つっちー

{じゃあ土曜ね)10:50


                    10:47(おけ。どこ行く?}


古拓

{コラ)10:50

古拓

{ナチュラルに俺をハブんな)10:50


つっちー

{嘘嘘w)10:51

つっちー

{まあすぐ夏休みだし)10:51

つっちー

{休み入ってからでもよくね?)10:52


なっくん

{せやな)10:53

なっくん

{つっても俺部活あるから)10:53

なっくん

{あんま時間ないと思うけど)10:53


古拓

{俺もちょっと夏期講習が)10:54


つっちー

{出たよw)10:55


なっくん

{さすがっすわマジで)10:55

なっくん

{発言から偏差値がにじみ出てるもん)10:55


古拓

{うるせー)10:56




 遊人は誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。眉根を寄せて周囲を見回し、黒板の上にあるスピーカーに注意を向ける。するとすぐ、念を押すように同じ声が同じ内容の連絡を繰り返した。


『一年二組、相楽遊人くん。聞いてたらすぐ職員室の金井のところまで来て下さい』


 やはり聞き間違いではなかった。が、呼び出しを食らうような心当たりもなかった。遊人は侘びのメッセージを入れてスマホを鞄に押し込み、教室を出た。


 程なく到着した職員室はがらんとしていた。球技大会の審判等にでも駆り出されているのか、椅子に座って作業している教員は十人も見当たらなかった。遊人はその中に自分を呼び出した人物を見つけた。


「何なんすか急に?」


 挨拶もせずがりがり頭をかきながら遊人は尋ねた。少し迷惑そうな雰囲気すらある。大変無礼な態度だったが担任の金井銀一郎先生は柔和な微笑で答えた。


「迅速な対応で助かるよ」


 言ってA4のプリントを差し出す。テスト前あたりに提出した進路調査票、もちろん遊人が書いたものだ。


「進学希望なんだって?」金井先生はボールペンの尻で自身のこめかみを小突きながら尋ねた。

「はい」遊人は肯いた。「それが何か?」

「いや、希望については問題ないよ。僕が問題にしてるのはその下」


 遊人は目線を下げた。卒業後の進路を書く欄の下に「二年次の希望コース及び専攻クラス」を記入する欄がある。遊人は迷いの無い字で進学コースとだけ書いていた。


「まさか知らないってことはないと思いたいんだけど、うちの学校、どの学科も進学コースってのはないよ」


「はあ」生返事で答えた遊人はすぐに真顔で尋ね返した。「はい?」





 遊人の通う私立楽学館高等学校は国内でも珍しい普通科のない複合専門高校である。設置学科はスポーツ科、音楽科、デザイン科、演劇科の四つで、遊人が滑り止めに受けたのはデザイン科の一般入試だった。


 図工や美術の授業以外で絵筆を取ったこともなければ水彩画と油絵の違いすらもおぼつかない彼が、滑り止めとはいえ何ゆえそんな特殊な学校、そんな学科を選んだのかと言えば、やはり彼自身の調子乗りで楽天的でちょっと、もとい、大分足りない思慮に原因があるといえる。


 さかのぼる事半年ほど前、いまだ中学三年生の彼らは年が明けてすぐ受験戦争の前哨戦とでもいうべき私立高校の入試を控えていた。


 試験日程の早さや公立に比べて全体的に低めの偏差値、それに伴う試験問題の簡易さもあり、スポーツに力を入れている等のよほど強い思い入れがある者を除いて「私立と言えば滑り止め」というのがこの界隈では常識だった。


 だからといって気を抜いて良いものでもなかったが、本命に自信がある者ほど保険の選択が雑になるのは若さゆえの必然といえる。


 市内トップ校志望の古橋が「俺は私立受けない」と背水の陣を表明すれば、マイペースな高橋も「近いからここでいいや」と一番近場の学校を選び、つられた土田までもがよく調べもしないまま「じゃあ俺もそこで」とあっさり決めてしまう。


 そんな雑な空気が当然遊人の選択にも影響を与えた。当時絶賛調子乗り中だった遊人は学校が用意した資料を何気なく流し見て、この楽学館高等学校に目を留めたのだ。


「なんだここ演劇科とかあるじゃん。ここ入ったら女優志望のかわいい子とかと仲良くなれんじゃね?」


 まことに馬鹿丸出しの発言だったが、この時遊人の馬鹿を止める者は周りにいなかった。むしろ「おう、いったれいったれ!」などと彼の馬鹿を後押しする始末である。戦う前に負けることを考えるようなプロレスラーがいないように、銀メダル目指してオリンピックに臨むアスリートがいないように、本命を一義とする受験生にとって滑り止めはいまいち緊張感を持って取り組めない、言わば予行演習のようなもの。願書に記名を求められた彼の両親にしても、まさか自分たちの息子が本命の受験に失敗するとは考えてもいなかった(それほど彼の書類上の学力は高かった)。


 そんなわけで、彼はお馬鹿な乗りのままこの楽学館高等学校を受験し、デザイン科の一般枠で見事合格を果たした(演劇科は実技や小論文など専門の受験対策が必要だったので断念した)。この結果が彼の心にいらぬ自信を芽生えさせ、勉強への熱意を一層おろそかにさせたことは皮肉という他ない。本命の方で順当に滑ってしまった遊人は遺憾ながら、やむを得ず、楽高生となり、あれよあれよという間に今最初の夏を迎えようとしていた。




「ロングホームルームの時間なんかに何度も説明したね」金井先生はペン先を出し入れしながら続けた。

「卒業生の半分以上はたしかに進学してるし、難関大学志望者のために課外で補習授業を実施してはいるけど、あくまで個々人の努力にゆだねているので学校側として積極的に進学の道を用意してるわけじゃありません」


「えーっと、つまり」


「進学希望は大いに結構だけど、その熱意は二年まで取っておこうか。一年次は受験対策の補習やってないから」


 金井先生は遊人の手からプリントを取り上げて続けた。


「とりあえず今は口頭でいいんでアートコースかスキルコース、どっち選ぶか決めてくれない? ちなみにアートコースは後期の終わりに実施される実技試験に通らないと入れないので、そのつもりで考えるように」


「それ、ほぼ一択じゃないっすか」


「そうなるね」微笑んで、先生は紙面にペンを走らせる。「じゃあスキルコース希望ってことで出しとくよ。専攻は後期の間中に決めればいいから、お疲れ様でした」


「……お疲れっした」


 遊人は軽く会釈して踵を返した。入学からの三ヶ月を振り返るたび感じる徒労感も、天を仰いで吐きたくなる溜め息も、全て己の浅慮が招いた結果なのだからやる方ない。


 しゃーない、しゃーない。切り替えていこう、切り替えて。伸びをしながらそのまま職員室を出ようとした矢先、


「相楽くん」と再び金井先生に呼び止められる。


 遊人は足を止めて振り返った。金井先生は椅子から立ち上がり、眉毛を八の字に寄せながら相変わらず口端を微かに上げていた。


「まだ何かあるんすか?」


 遊人の問いに、金井先生は微苦笑のまま尋ね返した。


「何も聞かないけど、大丈夫なのかな?」

「何がです?」

「スキルコースって何やるところですかとか、専攻はどんなクラスがあるんですかとか」

「あー、何やるクラスがあるんですか?」


 遊人は頭を掻いて尋ねた。見るからに面倒くさいといいたげな態度を彼の担任は誤解しなかった。


「取ってつけたような聞き方だな」先生は苦笑した。「どうせ三月までにはよその学校に編入するかうちを辞めて高認試験の勉強始めるかするから関係ないと思ってるんでしょ」


 遊人は返す言葉に困った。前者に関しては全くの図星だったのである。先生は諭すような調子で続けた。


「僕としてはどちらもお勧めしない。理由は」


 金井先生はちらと周囲に目を配り、人差し指を口元に当てた。


「場所を変えて話そうか」


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