第三章断章 対魔師レスファン――復讐への執念
対魔師、ブレゲ・アームストロングの屋敷。
同じく対魔師であるレスファンは屋敷に調査で来ていた。
「全員、くまなく探せ。吸血鬼だと思われる証拠を一つでも多く集めるのだ!」
対魔師Aランクのレスファンだったが、この度、ブレゲ・アームストロングの行方不明に合わせてSランクへと昇格したが、その心持ちは重い。
彼の空席によって得た出世など、歓迎する気持ちにはなれなかった。仲間の死亡による出世も、悪名高い男の席に座ることも、中々考え物である。
「しかし――協会側はブレゲ殿が死亡しているとの考え、か」
ブレゲ・アームストロングが最後に安否を確認したのが、つい二日前。街中で吸血鬼の女二人を捕まえたと高々と宣言する迷惑行為をしていた。
しかし、ブレゲの言う吸血鬼の姿は屋敷内で見つからない。かわりにあるのは、謎の血液。人間のものだとすれば、致死量だと聞く。
レスファンが調査に出発する際には、すでに死亡しているものだと協会側は結論づけていた。
「レスファン様。協会から電報が届きました」
背の小さな対魔師が、小さな紙を見せつける。
「報告せよ」
「タダチニ、シボウヲカクテイサレタシ。タイマシキョウカイ」
「電報まで使って伝えることではないだろうに」
「いかがなさいますか?」
金品の強奪がない。地下牢には何者かがいた痕跡……数滴の血液が落ちていた。怪しい証拠があるにはある。
しかし、対魔師協会はこの事件を早く終わらせて欲しそうだ。協会側がブレゲの安否に関してどう考えているのか、レスファンは想像してみる。
彼は吸血鬼に殺されたのはほぼ間違いないだろう。大々的なアピールをしていたこと、二人組の女性を捕らえたと証言する対魔師もいるので、恐らくこの二人が主犯だろう。現在は調書と似顔絵を描いている最中だ。
では、解決を急ぐ理由はなにか。急げば協会側が得をする理由はなにか。
たとえば、協会側の重要人物が今回の犯罪に関わっていたら、協会は間違いなくもみ消す。
だが、犯人は協会の人間とは思えない。吸血鬼が協会に入り込めるとも思わない。
では、ブレゲ・アームストロングが死亡することで得をするのは、誰か。
それは、金の力でブレゲ・アームストロングの言うことに従わざるを得なかった協会だ。
協会側には、ブレゲ・アームストロングによって下げられた名声がある。
彼が起こす不祥事を協会側は黙っていることしかできないのだから、彼が死亡したと結論に至れば、最も利益を得るわけか。
「諸君! ブレゲ・アームストロングの死亡は間違いないものだ! 本日は撤収を行い、後日、屋敷と家財を協会が回収する!」
指示を出せば、対魔師たちはそそくさと撤収の準備を始める。
さすが、対魔師ランクSというべきか。
Aランクでは、数名で構成された小隊のリーダーだった。Sランクとなると師団規模を操作できるとは。
確かに、大出世ではあろう。しかし、
「現場からは遠のく、か。皮肉だな」
両親を殺した吸血鬼共を根絶やしにする。
そう誓って対魔師協会に入った。
多くの吸血鬼たちを殺害し、血に汚れた己の手を見つめる。
「まだだ。まだ、吸血鬼は生きている。この世にいる怪物は全て僕の銃と剣で殺す。復讐すると誓った剣で四肢を切断し、心の臓を銀の弾丸で撃ち抜く。必ずだ、吸血鬼……!」
全ての吸血鬼を殺してこそ、復讐は完了する。
奴ら怪物は市井に紛れ、多くの悲劇を繰り返そうとする。だからこそ、自らの手で裁かなければいけないのだ。
――何が“すまない”だ。吸血鬼め!