第五章断章 シロガネ――ボスへの忠誠
シロガネは刀を何度も納めては抜いて、ブラムを斬ろうとする。
それが粛正者たるシロガネの仕事。
「ボス! ボスゥウウウウウ!」
――そんな叫びで正気を取り戻せば苦労はせぬな。
自虐し、刀を納刀する。
ユーナギはボスを相手に時間稼ぎを行い、負傷しているらしい。
リリーは気でも触れたのか、木と話をしている。
もう、この戦いに退路はない。ここでボスを倒さねば、リリーもユーナギも助からない。二人を助けるために、ボスを斬る。活人だ。
「ボス! 今から、あなたを斬ります! お覚悟を!」
シロガネは、シロガネを構える。思えば、刀と同じ名前を持つというのは、些か面倒ではある。
子供の頃に吸血鬼の屋敷から盗みだした刀。吸血鬼の友人へと送られたこの刀を、シロガネが盗みだし、最後には活人鬼の恩人に向ける。
だが、それは使命なのだ。この刀は人を救うために存在する。斬ることで人を救う、活人のために。
「居を合わせ、呼吸を合わせる。抜かせず、掴ませずに斬る……!」
刀に仕込まれた火薬をイメージし、ピストルが弾を放つイメージを抱きながら、剣を抜く。
だが、手に伝わるのは固い物を叩いた鈍い痛みのみ。
「くっ、ボス……! これでどう止めればいいのだ……!?」
かつて、ボスは暴走した時、この刀で止めるように言っていた。剣術も磨いた。
だが、どれほど刀を抜いても、刃で切り裂くことができないのだ。
これでは……暴走など止められない。
拳を何度も何度も鞘で受け止め、捌ききれなかった拳が顔や腹部に鈍い一撃となり、それでも倒れずに捌き続ける。
誰がどう見ても、一方的な戦い。血が飛び、全身が悲鳴を挙げる。だが、逃げるわけにもいかない。
「ボス……あなたのお陰でオレは帰るべき家が手に入った。あなたのお陰で誰かを救うための力を得た。あなたのためなら、悪にも染まろう。オレの願いにも通ずるなら喜んで協力しよう」
――そんな言葉を投げかけてどうすると言うのだ。戦闘中に舌を噛んだらどうする。
また自虐しながらも、止まらない。シロガネだって、リリーと同じくらいには諦めが悪いのだ。
「あなたの願うならば、どんな悪人だって殺そう。あなたが望むのなら、あなたの命だって奪おう。だから――お覚悟を」
活人。人を生かすために命を奪う。殺しで誰かを救う。
こうして暴走する人間を止めるのもまた、殺しで誰かを救う行為。
「でなければ――誰も救えぬ!」
ここで止めなければ、多くの命を……リリーを殺すことになる。
それだけはここで止めなければならない。何よりもリリーを殺したくないのはボスの願いなのだから。




