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第四章断章 ユーナギ――依頼


 ユーナギはボスの部屋に呼び出されていた。

 仕事の失敗は当然なので、恐らくスルーされるだろうが、問題はもう一つ。ユーナギの本来の仕事だ。

「ボス。呼ばれて帰って来て只今参上!」

「ユーナギ。頭に響く。声を抑えてくれ」

「はいはーいと」

 シロガネすら知らぬもう一つのユーナギの顔。ボスは静かに、決して誰にも聞こえぬように口を開いた。

「他の暗殺者は見つかったか?」

「八月のバーンアウトは鉄の街で消失ロスト。行方を追ってるけど、ダメだね。元々陽炎みたいな人だし。お母さん……七月のフミヅキ・ヒサメは元から殺しは嫌いだもん」

「さすがは、七月のフミヅキ・ヒサメの娘。暗殺者の情報ならすぐ手に入れられる、か」

 ユーナギは指を一つずつ折っていく。義理の母親、七月のフミヅキ・ヒサメは殺しを否定する凄腕の武人。だが、それ故に教える戦い方は暗殺者を多く排出してきた曰く付きである。

 かく言うユーナギも彼女に育てられてきた暗殺者である。最も、ユーナギは母の意思を継ぎ、暗殺否定派なのだ。暗殺者なのに。

「六月のマリー・ジューンちゃんは、とんでもない相手と戦って負傷、四月のシノヅカ・エイプリルフールちゃんは嘘と本当を巧みに混ぜてくるから、ボスの“依頼”はできないかも。十二月のクラウス・グランフェルは引退しちゃったし」

「やはり、シロガネに頼むしかない、のか」

 ボスは苦しそうに胸を押さえる。痛むのだろう。心が。

「一月のムツキ・ユーナギ。頼みたいことがある」

「ガッテン。エイフェンド帝国の活人鬼の仕事に外れはないもんね!」

「東の国の友よ。どうか、来るべき時まで“例の仕事”を頼む」

「……いいの?」

「シロガネには迷惑をかけ続けた。あいつが引き返せないほどに闇に染めたのは俺だ。あいつは、その闇すら、自ら望んだと俺を励ますがな」

「ボス……」

「それと、もう一つ。追加の仕事がある。リリーに渡して欲しいものが」

「リリーヴェル嬢にぃ? なんだろ?」

 期待にソワソワしている演技をする。こうしてトボけた暗殺者を演じるのも業界で生き残るためのコツ……とは誰かが言っていた気がする。

「コイツだ」

 果たしてそれは、ボスの命とも言える代物だった。


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