第九節 イブキの大冒険
第九節 イブキの大冒険
このお話は、謎に包まれたイブキの生態をほんの少しだけ明かしていく物語である。
イブキの朝は早い……訳でもなく普通。朝7時起床である。
「よお、起きたか?」
松本が作った朝ご飯を食べてから始まる日々である。
「いっただっきまーす!」
今朝の朝食は、食パン、目玉焼きにベーコン、レタスといった、何の変哲もない朝食だった。
「今日もベーコンが美味いぜ‼」
上機嫌で朝食を食べるイブキ。ふー、と溜め息をついた様子の松本。
「行ってきまーす‼」
イブキは松本と一緒に登校する。イブキは中学校へ、松本は高校へと――。いつもの三差路に着いた。
「束の間の別れだ。苦しゅうない」
「何を言ってやがる」
言葉を投げ掛けるイブキに、返す松本。そのままイブキは中学への道を辿る。
塀の上に猫が居た。
「おっ! 発狂―参上―猫さんだー。皆の人気者―」
歌い出すイブキ。
すると、
「にゃぁー」
不快に思ったのか、猫は逃げ出した。
「あっ! 待てコラ」「シュタッ」
イブキも塀に登り、追いかける。
が――、曲がり角で撒かれてしまった。
「ちいいいぃぃいい‼」
イブキは酷く憤慨したようだった。
「まあいい‼ これで遅刻は免れたぜ」
塀の上のまま、イブキは学校を目指した。都立あーだこーだ中学校、ここにイブキは通っていた。
「ちわー」
「あっ、イブキだ」
「おはようイブキ!」
女子生徒にあいさつを交わすイブキ。
「この前の月曜日のダウンタウン見たー?」
「……寝てたわぁー」
「あはははははは」
「にゃははははは」
「くすくす」
イブキの返しに笑いに包まれる一同。
「うるせぇよ」
「! ! ?」
いきなり、後方から声が。
「朝からピーチクパーチクうるせぇってんだよ」
男子生徒だった。
「ぎろり」
男子生徒を凝視するイブキ。
「なんだよ?」
男子生徒がイブキに言う。
「イキがり星人が! クソでも拾っときな! ぺっ」
そう言ってイブキは唾を吐いた。
「っのやろっ‼」「ダッ!」
ダッシュで男子生徒が近付いてきた。
「どきな!」
近くに居た生徒をずんむと押しのけて、イブキもまた、走り出した。
「待てっ! っのやろう‼」
吠える男子生徒。
「悔しかったら追いついてみやがれ、バーカ!」
挑発しながら、逃げるイブキ。イブキは、中学二年の女子生徒にしては、50m走のタイムは秀でていて、7秒0の俊足だった。対する男子生徒は帰宅部で、7秒1と平凡な速さだった。当然、追いつけるはずもなくその差は開いていった。
そして――、
「ガラガラ!」
イブキはとある一室に侵入していった。
「しめた! 馬鹿め、袋のネズミだ‼」
男子生徒はこの状況をチャンスと見た。
と、次の瞬間――
「コイツに追っかけられてまーす。助けて下さーい」
そこは職員室だった。
「! ! ! ‼ ⁉」
男子生徒は青ざめた。
「キミ、どういう事かね?」
「えっとあー、その……」
教師に問いただされ、しどろもどろな男子生徒。
「チラッ」
イブキの方を見る。すると、
「ニタァ……」
イブキが凶悪な笑みを浮かべていた。
「バブチッ」(っのやろぉおおおお‼‼‼)
頭の血管が今にもはち切れそうな男子生徒。
「大変だったね。君は教室に帰りなさい」
「ハーイ! 失礼しまーす!」
イブキは教室へ帰るコトとなった。すれ違い際、
「命拾いしたな……」
男子生徒が強がりを言った。
「ツ――ン」
イブキは全力でそれを無視した。
「こら、何か文句があるのかね?」
教師が問う。
「イイエ、ナンデモアリマセン」
炸裂寸前の男子生徒は我慢しながら声を振り絞る。
教室――
「でねでね、『えっとあー、その……』とか言っちゃってんの。まぢウケるー」
「アハ!」
「きゃはははは」
イブキが中心となって話をしている。どうやら、先程の男子生徒の様子を語っている様だ。
「なんかあったら、アタイに任せな!」
「ホント、頼りにしてるよー」
女子生徒の中でも盤石の地位を築き上げている様子の、イブキだった。
数学の授業が始まった。
「下一桁が5で終わる二桁の数の二乗の計算だな、これには面白い法則があるんだ」
教師が何かしら数学の法則を話し始めた。
「例えば15の二乗。これは10と20の間にある数字だから10かける20で200になる。それに25を足して225これが答えになるんだ」
「せんせーそんなウソっぱちはいいから教科書進めましょー」
イブキは辛辣な言葉を言い放つ。
「まぁまぁ、ここに電卓があるから、計算してみると良い」
教師は電卓をイブキに渡した。
「……(計算中)」
225と出た!
「! ! ‼ ⁉」
イブキは驚愕した。目玉が飛び出そうだ。
「(効いてる効いてる)……どうだね? 面白いだろう?」
「せんせー! 何ですかこのドナル〇マジックは⁉」
「ははは、数字にはこういった面白みがあるんだ。25の二乗は20と30の間だからかけ合わせて600、25をたして625となる」
「……(計算中)……! マジだぁああ‼」
発狂するイブキ。
――そうこうするうちに授業は終わり、放課後に。部活動に勤しむ生徒を尻目に、イブキはそそくさと帰宅しようとしていた。
「せいぜい青春の汗を流してろよ、ボーイズアンドガールズ……アタイにスポーツや部活動は似合わないぜ」
家路を辿る。途中、公園に差し掛かった。すると、
「あー! イブキだぁ!」
「何⁉ イブキだってー?」
「本物だー! イブキだー‼」
公園で遊んでいた小学生が呼びかけて来た。
「こら! イブキ様とお呼び!」
イブキは呼び捨てされるコトが不服だったらしい。
「何の用だ? キサマら」
小学生が近寄って来る
「お話してよー、イブキ……様?」
「チッチッチ、そんな頼み方じゃダメだな。もう一度だけチャンスをやろう」
顔を見合わせる小学生達。
「せーのっ! お話して下さい、イブキ様―‼」
声を合わせて懇願する。
「苦しゅうない、顔を上げろ」
「上げてるよー」
「黙れ、さえずるな」
悪ノリのイブキ。率直に返されたのを不服とし、一刺し入れた。
「まぁ良い、わらわが一つ、話を授けてしんぜよう」
「わーい!」
小学生は期待に胸を膨らませた。イブキは話を始める。
「題名、アクモールランプ。ある日、学校でアルコールランプを用いた授業があった」
「それでそれで?」
「準備としてアルコールランプに火をつけたのだ。すると、アクマという男子が、まるで初めて火を見つけた猿の様な眼差しでランプの火を見つめていたんだ。その見方が悪かった」
「うんうん」
「顔を横向きにして、机にくっ付くくらい顔をランプに近付けていたんだ。アタイは危険を察知したんだ。余りにもランプと顔が近すぎたからな。それで言ったんだ」
「ゴクリ」
「危ない! 燃えるぞ、と。しかし時すでに遅し。言葉を言い放った数秒後に、アクマの髪はランプの火がついて燃え始めたんだ」
「なっ、なんだってー!」
ざわつき始める小学生達。
イブキは人差し指を立て小学生達を制止した。
「……うわっちぃ、アクマはそう言って熱さを感じ、髪の毛をはたき火を消したんだ。そして、どうなったと思う?」
「ゴクリ」
息を呑む小学生達。
「ヤツの燃えた髪の毛が、チキンラーメンの様になって机の上に落ちていたんだ……!」
「ぎゃはははははは」
最後の落ちに小学生達は笑った。