第八節 老婆
第八節 老婆
松本宅でイブキが何かを探していた。
「無いのなら、探してしまえホトトギズってね!」
「ゴソゴソ」
「あっ! あった‼」
イブキは鍵を手にした。
「ここの段の……と」
「ガチャ」
戸だなの鍵を開ける。
「デッデデーン! 貯金箱ー‼」
松本が管理している金庫の様なモノをイブキは発見した。
「何円あるかなー? コントローラ買えるかなー? ぼけもんgo back home買えるかなー?」
「おい、何をしている?」
ジャラジャラと金庫を揺らしていたイブキがハッとする。松本が学校から帰ってきた!
「だ……誰かと思えば、松三郎じゃないか」
「俺は松本だ」
動揺を隠せないイブキに、冷静な松本。
「ほう……金庫の在り処に辿り着いたか……誉めてやろう。しかし、その金庫の鍵がどこに在るのかは分かるまい」
「⁉」
イブキは気付いた。戸だなの鍵以外、自分は持っていないコトに――。
「や、やるじゃあないか。松三郎」
「松本だ」
松本はそっと返した。
「だがな、松三郎。私はこんな武器も持ち合わせているのだよ!」
イブキが持ち出したのはチェーンソーだった。
「チュイ――ン‼」
チェーンソーの電源を入れ、構えるイブキ。
「このっ!」
「トンッ‼」
イブキの首元に手刀を入れる松本。
「かはっ!」
気絶するイブキ。
「……い……おい! ……おい! 起きろ」
松本の声で、気を取り戻すイブキ。
「おっ、お金は……? ぼけもんgo back homeは……?」
松本は暫くだんまりだった。そして、遂には口を開く。
「悪かった」
「⁉」
「チェーンソーを持ち出す程追い詰められていたんだな、お前は。仕方ないから買ってやるよ。コントローラも、新作ゲームも」
次第に目の色が鮮やかになっていくイブキ。
「ヤタ――‼ ぼけもん、ゲットだぜ!」
二人はゲロに向かった。途中、トイレに行きたくなったイブキ。ファミリーメイトに立ち寄った。
(全く、行く前に済ましとけよな)
松本は雑誌コーナー辺りで待つ事とした。すると、
「向こう見ずで無鉄砲、そして品出しとレジ打ちの速さが俺の強みだ‼ 俺がコンビニ店員とは何かというモノをしっかり教えてやるぜ‼」
威勢のいい声が、レジ付近から聞こえて来た。
「ハイ! 勉強になります‼」
抜刀セツナとアルバイターミツシゲだった。ミツシゲはコンビニバイトを始めてまだ間もない様子だった。
「それにしても大変だな、まだ中学なんだろ?」
「いいえ、お金が必要なんで仕方ないです」
「⁉」
松本は耳を疑った。
(中学……だと……?)
「品出しは、だな。この機械を使って……」
「ハイ!」
仕事を教える抜刀と、仕事を教わるミツシゲ。
(中学でバイトか……頑張れよ……)
松本は心の中でエールを送った。
「ガチャ」
「おっまたせー! 松次郎‼」
「松本だ」
イブキがトイレを済ませてきた。
「改めて――、ゲロへGO――‼」
「はいはい……」
イブキはスッキリしたのか、元気いっぱいだった。途中――、
「爪を切ってくれ。駄賃をやるけぇ」
老婆が二人の行方に立ち塞がった。
「何言ってやがんだ、BBA?」
いつになく喧嘩腰のイブキ。
「ほっほ、威勢が良いのう。ひとまず、爪を切ってくれ。駄賃をやるけぇ」
「あーんだとぉお⁉ ヤんのかBBA‼」
「待てイブキ」
松本はイブキを制止する。
「やっと名前で呼んだか、松三郎。大人しくしといてやろう」
大人しくなるイブキ。
「イブキ、本当にお金を出すなら、軍資金として使える。婆さん、いくらくれるんだ?」
松本が老婆に問う。すると老婆は口を開いた。
「ほっほぅ、話を聞いてくれるのはお前さんが初めてじゃわい。今まで話しかけた者は皆、ワシを無視した。酒を飲んでいて、酔うた様に見えたようじゃ。まぁ、酒は飲んでおるがの。今日もワシは泣きっ面に蜂ならぬ、空きっ腹に酒を入れて居るでの」
「御託はいいから、早よ金出せやオッラ――ン‼」
イブキが暴れ出しそうだった。
「stay!」
それを制止させる松本。
「婆さん、俺らもそんなにアンタに構ってられる時間は無いんだ。手短かに頼むぜ?」
「ほっほぅ、駄賃か? 二千万両じゃ」
「⁉ にせんまん!!?」
イブキは驚愕した。
「待て、動揺するな。恐らく昔の言い方で、今で言う二千円だ」
松本は冷静だった。
「チッ! シケてんな。ぺっ!」
唾を吐くイブキ。
「まぁいいじゃねぇか。爪を切るだけで、コントローラの半額以上貰えるんだから。本当に爪を切るだけで良いんだな?」
「ほっほぅ、頼む」
爪と爪切りを差し出す老婆。少しばかり緊張する松本。
「パチン……パチン……」
「痛くねぇか?」
「ほっほぅ、良いぞ」
おもむろに爪を切っていく。そして――、
「これで全部だ。足の方はいいか?」
松本は老婆の手の爪を全て切ってのけた。
「ほ? 手の爪だけで良いぞ。それ、駄賃じゃ」
老婆は二千円札を松本によこした。
(まーたレアなものを……偽札じゃねぇだろうな)
少し疑いながら受け取る。
その時――、
「パシャパシャパシャッ!」
パパラッチャーバカアキ、参上‼
「またかっ⁉ くっ‼」
動揺する松本!
「この写真を学校でばら撒けば、お前の命も無きも同然ナリよー」
語尾がコロ助なバカアキ。走り出す。
「待てっ‼ くそっ!」
追いかける松本。
短距離走が苦手な松本。50m走は6秒8だった。それに対し、バカアキは7秒2。当然、追いついた。
松本は口を開く。
「さて、どう落とし前をつけてもらおうか……?」
返すバカアキ。
「どうもこうもねぇさ。……俺は馬鹿だからよう」
「…………」
「…………」
「前と同じコト言ってんじゃねぇえええ‼」
「ゴッ‼」
ぶん殴られるバカアキ、宙を舞う。
「ドシャア」
地に落ちたバカアキは許しを請う。
「し、しーましぇーん」
しかし――、
「謝るだけなら子供でもできる」
「‼」
松本は許さない。
「その一眼レフをこっちに渡せ。破壊する」
「! プルプル……サッ」
バカアキは不本意ながら一眼レフを渡してきた。
「ふん‼」
「ゴシャァア‼」
一眼レフは破壊された。
「ど……どうかお許しを」
再び許しを請うバカアキ。
「……」
暫く口をつむっていた松本だったが遂に口を開く。
「許さない……」
「キエ――‼」
まさかの言葉に発狂するバカアキ。しかし――、
「だが、気は変わった」
「エ――?」
「もう二度とするんじゃねぇぞ、こういうコト」
松本の言葉に、首を縦に振るバカアキ。
「じゃあな」
「じゃーなっ! ぺっ‼」
去り際に言葉を残した松本に、
去り際に唾を吐いたイブキ。
暫く歩き、二人はゲロに辿り着いた。
「あった‼ チントン堂すねっち! ……中古?」
店頭の真ん前に置いてあったのは、新機種ゲームの中古だった。
即断、そして即決だった。
「店員さーん、これお願い」
松本は今回の買い物で数万円使ってしまった。
帰り道――
「go back home! go back home!」
上機嫌のイブキ。
「!」
突如、立ち止る。
「まつもーん。どうして、据え置き機は中古にしたのー?」
「五千円も安くて済むんだ。当然だろう?」
「そんなコト言っちゃってー」
「シュタッ!」
おもむろに松本の財布を奪うイブキ。
「おい!」
「な……諭吉が十と、いち、にー、さん……こんなに!」
財布の中身を見て驚愕するイブキ。
「ジロリ」
松本を見る。
「……今月の生活費だ」
二人は距離を置いて家路を辿った。