第七節 死合(しあい)
第七節 死合
顔をしかめるBBA、シゲミはというと……。
「グッ」
ガッツポーズをしていた。実はBBAが布団に入った幻覚を見てからというものの、BBAが嫌いになっていたシゲミ、この状況を是としていた。
(もっとBBAを攻撃すると良い……)
完全に暗黒面に落ちたシゲミ、悪巧みすら浮かべていた。
「トンッ」
「トスンッ」
「ババン‼」
「ぶへらっ」
若僧は、一人でレシーブ、トス、アタックを決めていた。もはやルール無視である。次々とBBAの顔面にアタックを決めていく。BBA達は若僧のアタックを受け止めることができなかった。若僧とBBAとでは運動能力が違う。断然違う、それは断チであった。若僧は、悪い意味で試合を楽しみ過ぎていた。そして――、
「ババン」
「ほっ?」
遂にはシゲミにもその魔の手が及んだ。若僧とは反対側のチームに居たシゲミ。顔面にアタックを受ける。
「! ! ‼」
鼻がツーンとするシゲミ。
「こ……これはルール違反じゃないの?」
職員に質問するシゲミ。看護婦さんら職員はゲラゲラ笑っていた。
「! ! !」
口をすぼめるシゲミ。完全に我を失っている。すると、
「はーい! ここでチーム変更だよー!」
看護婦さんがチームの変更を告げる。
(――しめた!)
シゲミは辛うじて使えるその脳みそを最大限使い、策を練った。
(あの若僧と一緒のチームに入れば、いいんでしょ? そうでしょ?)
若僧の動向を見定めて、シゲミは移動した。そして――、
「ババン」
「ぶほっ」
若僧は自分と反対側のチームのBBAの顔面めがけてアタックを繰り出していた。
(これで良い……)
シゲミは安心していた。若僧の数十センチ前で。しかし、
(なんか飽きて来たな……)
若僧はBBAの顔面にアタックを繰り出すのに少しばかり飽きていたようだった。
(! あ、今めっちゃ面白いコト考えてん)
若僧は何か閃いた様だった。
「トンッ」
「トスンッ」
「ババン‼」
「ほっ⁉」
若僧は自分のチームに居た、シゲミの後頭部に向けてアタックをかましてきた。余りにも強いアタックを後頭部で受けたシゲミは、目玉が飛び出しそうな感覚に陥った。
「これ! 止めるでない! これ、止めろ!」
完全に激昂しているシゲミ。後ろを向く。若僧はレシーブやトスすらせずに、ボールを持ち、待ち構えていた。
(若僧が狙ってくる――)
刹那、シゲミの脳裏をよぎったのは目の前にあるボールを叩き、若僧からボールを奪う! といった作戦だった。
「ほっ‼」
手を振りかざすシゲミ。
「スカっ」
空振りした、そして――、
「ニヤリ」
笑みを浮かべる若僧。
(来る――、)
身構えるシゲミ。コンマ数秒反応が遅れる。次いで――
「ババン‼」
強烈なアタックがシゲミの顔面を襲う…………‼
「ほっ‼」
見事に顔面にヒットする。
「とーんとんととん」
風船バレーのボールは二度三度、床をはねていた。
「あはははははは」
「クスリ」
「クスクスクス」
次第に風船バレー会場は嘲笑の渦にまみれていた。
「今度という今度はもー許さんのじゃけぇのう‼」
いきなり饒舌になるシゲミ、咄嗟に若僧の胸ぐらをつかむ。
「? 何? 何のつもり?」
若僧は冷静であった。プルプル震えるシゲミ。もう右手は硬く握られていた。
(! コイツ……)
シゲミの右手に気付いた若僧、瞬時に――
「ぺっ」
シゲミの顔面に唾を吐いた。
「もぉおおおお! もくもくもぉおお‼」
視界を遮られたシゲミ、暴れ出す。
「行っけぇええええええ‼」
ノリノリな看護婦さんの指示で、強面の看護師さん達が出動した。
「もくもくもぉおおお!」
暴れるシゲミ。
「腕だ! 腕と脚だ‼」
看護師さん達はシゲミの四肢を塞ぐつもりだ。
「もぉおおおお」
数分後、シゲミは隔離室に居た。看護婦さんが来た。
「もー、ダメだよげみっち。あんなに暴れたから三日程は部分開放できないよ?」
「あの若僧は? あの若僧はどうなったん?」
シゲミが問う。看護婦さんは答える。
「ああ、あの子ね。ルール上そこまで違反してないし、無罪放免だよ。てか、人のコトはいいから、自分のことで反省しなさい! 胸ぐらをつかんじゃあダメでしょ」
「くぅん」
社会の厳しさを知る、シゲミであった。
数日後――、
「めんどくせぇな、ここに来るのはよお」
松本が病院に来た。受付を済ます。
「ああ、……で」
隔離室まで進んできた。ちょこんとシゲミが座っていた。
「よお、ざまぁねえな。これがお前が昔よく言ってた逆戻りってやつか?」
「これ! それを言うな、それを言え」
松本に返すシゲミ、しかし――
(意味わかんねぇな相変わらず……)
松本には伝わっていない。
「(まぁいいか)おい!」
「! ! ‼」
「最近何かあったのか? 何でもいいから話してみろ」
松本が話を切り出す。
「バッ、バレーボールの大会があった。そして、若僧が居た」
「それで?」
片言のシゲミに、返す松本。
「ババン‼ ババン‼ ほっ‼ ぶへらっ‼」
「! ! ‼ ⁉」
意味不明な言葉の応酬に返す言葉が無い松本。そして胸ぐらを掴む動作をするシゲミ。
「! あー、わーったわーった。つまりムカついたから暴力沙汰になりかけたってことだな?」
「大体正しい」
松本の見解に答えるシゲミ。
「面倒事は嫌だからよう、大人しくしておいてくれよ?」
「くぅん」
シゲミは悲観に暮れていた。分かって欲しい。アイツが顔面や後頭部にアタックを決めたから……事の発端はアイツが悪い意味で試合を楽しみ過ぎていたから……。
「くぅん……」
シゲミは哀愁が漂っている表情をした。
「キモいから止めろよ、そのくぅんとかいうの」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミはブラックアウトした。余りにもショックだったらしい。
「おーい! 看護師さん‼ おー……」
気を失う最中、少しばかり聞こえるのは松本が叫ぶ声だった。――、
「シゲミさん、シゲミさん!」
シゲミは意識を取り戻し、気を取り戻した。
「アイツは……? あの若僧は……?」
「もう! いつまでもバレー大会のコト引きずらないで、前を向いて生きてかないと!」
看護婦さんがたしなめる。
「あと……」
「?」
看護婦さんが何か言おうとしている。
「松本君、またお金払って帰って行ったよ」
(…………)
「まだお金なくなってないからね!」
(……金が、ある……)
金の亡者のシゲミ、ニタリと笑みを浮かべる。
「こら!」
「ベシッ!」
「汚い笑顔を見せない!」
チョップしながら看護婦さんは言った。
松本宅にて――、
「なぁお前」
「ピコピコピコピコ」
「なんだい? 松五郎⁉」
松本とイブキが会話をしている。イブキはゲームをしながらである。
「(……人称が)風船バレーやっててムカつくコトってあるか?」
「ピコピコピコピコ」
「ふ――、特に、ないんじゃね?」
「だよな(……やっぱり俺は間違ってなかった)」
果たして、シゲミが松本に理解される日は来るのか⁉ 今後の展開に、乞うご期待‼
「てか、松衛門。コントローラは?」
聞こえないふりをする松本。
「泣いてもいい?」
イブキの要望、コントローラと新作ゲームが購入される日は来るのか⁉ 今後の展開に乞うご期待‼