第六節 コントローラと新作
第六節 コントローラと新作
これは、松本がまだ停学しているときの話である。
「ピコピコピコピコ」
イブキと松本がゲームをしている。そして――
「よだれを垂らす攻撃! 格闘タイプ、フェアリータイプ、ホモ‼」
イブキが叫んだ。
「何⁉ ひわいな技を‼」
松本もノッてあげている。松本が使っているぼけもんのHPは4分の1になった。
「ガッシャン」
「!」
松本はコントローラを破壊した。
「……うぅ」
涙ぐむイブキ。
「……うぅ。うわーん、うわーん」
泣き出してしまった。
「…………」
松本は無言だった。しかし、
「タラり」
次第に溢れ出る汗が、彼をポーカーフェイスでいられなくしていた。
「うわーん! ぼけもんできなくなった――‼」
泣き叫ぶイブキ。
「……」
流石に困り果ててしまう松本、口を開く。
「……買ってやる」
「うわーん、うわ⁉」
「コントローラくらい、買ってやると言ったんだ。今すぐにでもいい、行くぞ」
ぱぁあっと次第に表情が明るくなるイブキ。
「ゲロ行くぞ! 松五郎‼」
「……(ふう、やっと泣き止んだか……)」
安堵の表情を見せる松本。
「? どうした松三郎、ゲロ行くぞゲロ」
「何でもねえよ。てか、また人称安定してねえぞ」
二人はゲロに向かった。
――ゲロ到着、店内にて
「コントローラ、コントローラはと……!」
何かを発見するイブキ。その目に映るのは――。
「なっ! 何――――‼ ぼけもんgo back home発売中だとぅおお⁉」
イブキの咆哮、からの
「……チラ……チラ」
視線を松本にやる。
「タラり」
再び松本の顔から溢れ出る汗。
(まずい……新作を買ってやる分にはさほど問題は無いのだが……)
「チラ……」
値段を確認する松本。
『6800円税別。対応機種チントン堂すねっち』
(据え置きの新機種だと! ! ! ! ?)
「……チラ……チラ」
依然として松本に視線をやるイブキ。
(据え置きの機種を含めて、3万強程度か……しかし、)
イブキを凝視する松本。
(問題なのは値段じゃない……!)
「わぽっわぽっ……ぽぽっ。ぽっ」
奇声を発するイブキ。
(問題なのはっ! コイツを図に乗らせる事! 際限なく金が使えると、勘違いさせてしまう事!)
「タラり」
松本の顔から溢れ出る汗。
「…………」「わぽぽっ。わぽっ」
暫くの間、二人の間に沈黙の時が流れた。
「…………」
「…………」
そして、松本は口を開く。
「……ダメだ。コントローラ以外、買わない」
「ガチョーン! ガチョーン! ガチョーン‼」
イブキに絶望と衝撃の波が打ち寄せてくる……! ――そして、
「そうか、それならこちらにも考えがある」
イブキが身構える。松本もまた、身構えた。
(! 考えがあるだと? ……なんだコイツ……何をする気だ……?)
そして、
「痴漢で――す‼ この大男に、痴漢されました――‼」
叫ぶイブキ。
「‼ ‼ ⁉」
「痴漢で――す‼」
「なっ⁉」
完全に虚を突かれる松本、続けざまに――
「パシャパシャ‼」「スキャンダルの臭いがしたぜ?」
シャッター音と共に現れたのは、パパラッチャーバカアキ! ! !
「何のマネだ⁉ キサマら‼」
叫ぶ松本。
「んー? 痴漢冤罪脅し」
「えーっとねー、おままごと」
答えるイブキとバカアキ。
(ろ……ろくな奴がいねぇ……)
絶望する松本。しかし――、
「ガッ‼ ガシャン!」
バカアキの一眼レフをとりあえず破壊しておいた。
「キエ――――‼」
一眼レフの残骸を抱きかかえて、バカアキは逃走した。
(さて、お次は……)
「チラッ。チラッ」
(…………)
「痴漢で――す‼」
松本をチラ見した後、再び叫び出すイブキ。
「ひそひそ」
「あらやだ」
「まっ……」
どこからともなく現れた団地妻達の視線が痛い。
(……ゴクリ)
そして――、
「ダッ‼」
松本はダッシュでその場を離れる。
(ここを凌ぐには、この手しかない……!)
「あっ‼ 痴漢‼‼ ……じゃなくて、松本‼‼‼」
「ひゅうぅうう(風の音)」
一人取り残される、イブキであった。
――夜、松本宅にて。
「ぽぽぽーん、ぽーんぽーん(泣き声)‼ まつもん、コントローラも買ってくれへんかったー!!」
「……お前が変なコトするからだ」
泣きわめくイブキに、返す松本。
「まつぞう――?」
「人称を変えるな」
「ふ――」
松本が大きく息を吐く、そして――
「いいか? あの時、あの場面でお前が痴漢痴漢て言ってその次にどうなるんだ? 脅しにはできるかもしれないが、他に何のメリットがお前に生まれるんだ?」
説教を説く松本。それに対し、
「パタン」
耳を閉じるイブキ。
「おい、聞けよ!」
「あーあー、聞こえない聞こえない聞こえない」
今度は手まで使って耳を塞ぐ。
「聞いても聴いても中身が無い、聞いても聴いても中身が無い」
「謎の呪文を唱えるな!」
ツッコミを入れる松本。
「兎に角! だ、しばらくはコントローラも買ってやらないからな」
「そんなー。……ケチー。ケツー」
「さわっ」
おもむろに松本の尻を触るイブキ。
「こら、やめんか!」
「……ケチ―。ケツ―」「さわっ」
「……ケチ―。ケツ―」「さわっ」
「……ケチ―……」
――ここは精神病棟。
「私、jk」「さわっ」
「‼ ‼ ⁉」
シゲミは驚愕した。BBAにしりを触られた気がしたからだ。
「‼」
いの一番に自分の臀部を確認するシゲミ。……何も無かった。
(ほっ)
幻覚だった。そこへ、
「ゲミシの旦那ー、今日も部分開放だぞ!」
看護婦さんが来た。
「今日も三時間なの?」
シゲミが問う。
「ん? あー、少し長めにとってくれるかも」
答える看護婦さん。そうこう会話を交わしていくうちに、ヘッドギア先輩が現れた。ヘッドギア先輩、顔に呪われたようなアザがある。エクソシスト呼んで治してもらう必要がある。良くコケるのでヘッドギアを装着している。
「ほっ‼」
顔のアザに怖じ気付くシゲミ。
「こら! ゲミシ。怖がらないの! 危害を加えてくる訳じゃないんだから」
「ほっ」
頷くシゲミ。すると、
「ピンポンパンポン。本日は、風船バレーのバレーボール大会です。皆さん、こぞって参加して下さい。会場は、ホールで行います」
アナウンスが鳴った。
「おっ、ちょーどいいじゃん。ゲミシ、参加しなよ」
「ほっ?」
風船バレーに参加する事となったシゲミ。少し緊張している。
「男女均等に分かれてねー。ボールは、柔らかいから痛くないよー」
スタッフが説明を行っている。
「……ほう? 柔らかいから、痛くない、ね?」
「‼ ‼ ‼」
シゲミの後ろで、つぶやく者が。若僧だった。何かあからさまに企んでいる若僧に、シゲミは只、震えるしかなかった。そして――、
「ピピ――!」
風船バレーが始まった。
「おっおぉ」「とすん……」
「あっあぁ」「たゆん」
患者達が力弱くボールに触れる。そこで――、
「ハイ――――‼‼‼」
「ボッカァ――‼」
そこには全力でボールにアタックする若僧の姿があった。
「ババン」
「ぶほっ」
患者のBBAの顔面にhit! BBAはよだれを垂らしながら衝撃を受けていた。