第四節 写真はエビデンス
第四節 写真はエビデンス
「てめぇは……あの時の……」
(回想)学校にて――
「号外だよー! 号外‼」
(回想終了)
2年が口を開く。
「ふっふっふ。今回の一件を、この方に写真に収めてもらったのだよ。これをPTAに拡散するとどうなるか……分かるだろう?」
「くっ」
松本は苦渋の表情を浮かべる。
(あの馬鹿野郎……とんでもねぇ事をしやがる……それを更にPTA……だと……?)
怒りを顕わにする松本。バカアキの胸ぐらを掴む。
「てめぇ! 自分が何をしたか分かってんだろうな?」
バカアキはビビりながら言う。
「分かるはずがねぇさ」
「あぁ⁉」
「俺は馬鹿だからよう」
「…………!」
(確かにコイツは……どうしようもねぇ馬鹿だ……だが……)
とりあえず一撃食らわしとく松本。
「ゴッ‼」
「しぇええええ‼」
相当痛かったらしい。のたうち回るパパラッチャーバカアキ。松本は更に口を開く。
「さて、どう落とし前をつけてもらおうか……?」
返すバカアキ。
「どうもこうもねぇさ。……俺は馬鹿だからよう」
「…………」
「…………」
「二回言ってんじゃ、ねぇええええ‼‼‼」
殴打を繰り出す松本。
「パリィイイン‼‼‼」
バカアキは窓ガラスごと教室から放り出され、宙を舞った。
「さてと……」
松本は続ける。
「その画像のデータ、消去してもらおうか?」
「嫌だと言ったら?」
「死んでもらう!」
松本は2年に向かって行った。しかし、
「ダッ‼」
2年は逃げ出した。
「このっ‼」
松本はそれを追いかける。
実は短距離走が苦手な松本、50m走は6秒8を記録していた。それに対して、短距離走が得意な2年、50m走では5秒8の俊足だった。
「向かって来ないのかぁ! この腰抜けがぁあ‼」
松本は叫ぶ。
「腰抜け? ふふ、違うな。これは巷では、スマートと言うのさ」
松本を軽くあしらいながら2年は更に走る。数十メートル走っただろうか。松本と2年との差は開く一方で到底追いつける兆しすらなかった。遂には学校を飛び出して走り続ける二人。
「何だ何だ?」
「男同士が追っかけっこしてるわ」
校庭に出た頃にはちょっとした騒ぎにもなっていた。更に校庭を後にし、走り続ける二人。
「くっそ! 待ちやがれぇ‼」
通学路の十字路、そこを曲がった途端、
2年の姿は無かった。
立ち止まる松本。
「ハァ……ハァ……クソ!」
2年の姿を見失い、途方に暮れる。
「今更……帰りづらいな」
松本は学校へは戻らず、家に帰った。
翌日――、
「さあ、これはどういう事か話したまえ」
松本は校長に呼び出され、会議室に居た。数名のPTA(?)も居る。
(やられた……!)
松本は愕然としていた。例の暴力沙汰の写真が、PTAに開示させられていたのだった。
「暴力を振るったのは松本君、君で間違いないね?」
校長が問い掛ける。
「…………」
松本は何も言えなかった。
(畜生、あの馬鹿と2年さえいなければ……こんな事には……!)
「何か言ったらどうかね?」
校長が問う。
「バッ」
突如として右手を上げる者が。寺岡である。
「少々小話を」
「!」
「⁉」
「今回、私はねぇ、本を書こうと思っておる次第であります」
「!」
「⁉」
「本と言いましても、何についてか、それは植物についてのモノとなります」
「…………」
「それでですね」
「こ、この様な暴力、本来ならば警察沙汰にもなり兼ねないんだよ、松本君」
寺岡を無視して会話は続く。
「反省しているのかい?」
「…………」
暫く黙り込んだ後、口を開く松本。
「……アレは俺じゃねぇ」
「⁉」
「植物の成長とは、太陽の光……」
寺岡は話し続けている。
「ガタッ!」
PTAの内の一人が立ち上がった。
「うちの子のリョースケちゃんがボロボロになって家に帰ってきたのですよ。誰にやられたのか聞いたら松本だって、あなた自身が行った蛮行ではないのでしょうか?」
「くっ!」
「何も言えないのですねぇ。これは、黒ではないでしょうかねぇ?」
会議室のすぐ横の廊下。そこにリョースケは居た。
(かーちゃん! 言わないでくれよ‼ チクったコトがバレたらどんな制裁がまっているのやら……)
そこに――。
「ザッ」
「何か言ったらどうですの?」
「ガラガラガラ‼」
「!」
会議室の戸が開いた。現れたのはタカマサと渡辺紗希! リョースケも居た。
「てめ! リョースケ……!」
それを見逃さない松本。
「stay」
渡辺紗希は松本を制止させる。そして続けた。
「私は見ました! リョースケ君が松本君の財布を物色している所を……!」
「!」
「⁉」
PTAの女は言う。
「そんな……まさか。ね、リョースケ君?」
「……」
リョースケは顔をうつむかせた。
「まだあります!」
渡辺紗希は言う。
「松本君が教室で……寝てました……」
「!」
「その時、リョースケ君達が大音量で、スマホの動画を見ていたのです。それで、松本君が寝られなかったから……つい……」
「それで……?」
PTAが問う。
「それだけ……です」
渡辺紗希はネタが無かったからそこで黙り込んだ。見かねたタカマサが吠えた。
「いいか⁉ 確かに松本は正当防衛とは言えない、過剰防衛ともとられる行動をとってきた。そこだけを見れば松本が悪い。だがな、松本をそうさせた原因があるんだ! 財布を取られたらどうする? お前らだって怒る筈だ! 俺だって怒る‼ 寝込みを邪魔されたらどうなる? 怒っても仕方ないだろ⁉」
「ぐぬぬ……」
何も言い返せないPTA会員達。
「パン!」
校長が手を叩いた。
「ではこうするとしよう。松本君は警察には通報しないかわりに1週間、1週間の停学処分だ」
「1週間で済むの⁉」
渡辺紗希は歓喜した。
「よし!」
タカマサは拳を握った。
「……」
松本は少しの間無言だった。校長は問う。
「いいな? 松本」
「仕方ねえな、それでいいよ」
松本と校長は熱い握手を交わした。
「ありがとうな、二人とも」
松本は渡辺紗希とタカマサに声を掛けた。
「ふふ」
「へへ」
二人は微笑んだ。
「覚えてろよ、リョースケ」
松本はリョースケにくぎを刺しておいた。
「こらこら」
校長はたじろんだ。
会議室での一件はこれにて終演を迎える。
自宅へ帰る松本。イブキが既に帰っていた。
「やっほー! お帰り松太郎!」
イブキが陽気に言う。返す松本。
「ハ〇太郎みたいに言うなよ。ふー、学校でやっちまった。1週間、停学だ」
「おー、松次郎とぼけもんバウトができるぜ! ぼけもんを貸してやるから勝負しな!」
「へいへい、やってやらあ」
夜は更けていった。
翌週――、
「ガラガラガッシャーン!」
松本が通う教室内。椅子やら机が飛び交う。
「てめぇらうるせえんだよぉ! 寝られねぇじゃねぇか!」
吠える松本。
(まるで成長していない……)
渡辺紗希は一人、思った。