第二十節 特別教室
第二十節 特別教室
『性の乱れ特別教室』
とある日のとある昼下がりのコト。黒板にそう書かれてあり、謎の授業が始まった。
「えー、まぁ三大欲求にも含まれる性欲、ですが、最近それを持て余す輩が居るとの事で特別教室を行いたいと思います」
「ざわざわ」
「性欲だってよ」
「やだー何か卑猥ー」
ざわつき始める教室内。
「えー、静かに。ひとえに性欲といっても、それはストレス解消ともとれるんだぞ? 小学生はしないだろ? 且つ、三大欲求なので満たされなければ、死ぬ。だから、ストレス解消も性欲に含まれるんだ。それはさておき、先程言った性欲を持て余す輩の所為でとある事件まで起きているんだ。なぁ、松本心当たりは無いか?」
「! ! ! ‼」
恥ずかしさのあまり血の気が引いていく松本。
「うそー」
「やだー松本君がー?」
周囲の反応を聞いて、正気を取り戻す松本。
「おい! 糞先公‼ 俺が何をしたってんだ?」
「スッ」
右手を上げ、松本を制止する教員。
「まぁ、それも正しい反応だな。松本、お前は悪くない……しかし松本、何か心当たりがあるんじゃないか? お前が被害者側の話で――だ」
「!」
少し考え込む松本。ハッとなる。
(回想)
「れすー」
(回想終了)
松本は吠えるように言う。
「皆! 誤解を招いたかも知れないが聞いてくれ‼ 俺はあんな貧相な体、頭の中お花畑、謎のツンデレ、この三つが当てはまるあの女には一切興味が無いんだ! 信じてくれ‼」
「シーン」
(何だ……? その反応は……)
唖然とする松本。
(心中、察するぜ……)
タカマサは教室の隅で思う。
「まぁいいだろう松本。とりあえず座れ」
教員は続けて言う。
「まず、性行為についてだが……具体的に、何をするか分かるか? 松本」
松本は名指しで辱めを受ける。
「せ……せ……」
「んー? 何だ?」
「性行為をする……」
「ガクッ」
教室内の生徒は虚を突かれた。教員は気を取り直して言う。
「まぁ、一般的に外性器と内性器が交わる事を指す。生殖行為とも言う時があるな」
「……」
松本は無言だった。しかし、
「ドゴゴゴゴゴゴ」
松本の表情は怒号に満ちていた。
(このヤロウ……今更中坊が習う内容を……それと、俺に恥をかかせやがって……!)
いつの間にか立ち上がっていた松本。殺伐とする松本の周囲。
「まぁまぁ、そう怒るな。先生はお前の身を案じて言っているんだぞ?」
「⁉」
教師の言葉に、動揺する松本。そして教師は続ける。
「ド直球に言うとだな……お前がレイ〇されないか、先生は心配しているんだ。だから……」
「ゴソゴソ」
何かを懐から出す教員。近藤だった。
「今日はこれの付け方を学んでもらう」
「‼」
松本は驚愕した。おとぎ話でしか存在していないと思っていたモノが、目の前に現れたのだ。松本に構わず、教師は続ける。
「まぁ女子達は直接的には関りの無いものだから、女子達は女子達用の方をあちらに居る先生から教わってくれ」
教室の後ろの方に突如現れたのは女教師島津さん。
「ハーイ! いきなり飛び出てババババーン! 女の子の味方、島津さんだゾ‼ 女子の皆はこっち側を向いてね! 女の子用の、近藤さんのつ・け・か・た、教えちゃうぞ!」
「おい、あっちの方が面白そうだぞ」
「後ろだ、後ろの方見ようぜ」
騒ぎ始める男子達。
「こらこら、男子。男子達は前側を向くように。さもないと、留年させるぞ?」
「……」
無言で前側正面を向く男子達。
「じゃあ、始めるぞ」
教師が手にしていたのはポコ〇ンの簡易的な模型と、近藤だった。
「コレの装着方法、分かるやつは居るか?」
「シーン」
静まり返る男子達。
「えーとじゃあ、松本。こちらへ」
「ハイ」
松本は返事をしたものの席から動かなかった。
「来いと言っておるんだ」
「ハイ」
「何かわからない事でもあるのか?」
「ハイ」
「そうか、何が分からないのか言ってみろ」
「ハイ」
「だから、何が分からないのだ?」
「ハイ」
「ハイが分からないのか?」
「ハイ」
「ダメだこりゃ」
「ハイ」
「じゃあ仕方ないなタカマサ前へ出ろ」
「……お、オレ⁉」
タカマサは驚愕した。恐る恐る前出るタカマサ。自分の想像だけでポコチ〇の模型に近藤を装着していく。
「コレで……どうだ?」
「……」
「……?」
静寂が教師とタカマサを包み込む。
「正解だ」
「っし‼ ! 違うぞ! そういう意味じゃないぞ‼」
教員の判定に一瞬、喜ぶが、恥ずかしさのあまり何かを否定するタカマサ。
「まぁこんなトコかな? 島津さんそっちはどうだ?」
「でね? その時の彼氏が言ったのよ……あっハイ! こちら、女子生徒の方終わりました」
教師が話し掛けるが、元カレの恋バナをしていた島津さん。
「じゃあ、今回の授業はこれで終わり! 最後に、皆に男子は男性用、女子には女性用の近藤を配るので、時と場合と所を選んで使うように!」
「……」
松本は絶句した。
(使う用途がねぇ……)
休憩時間になる前、
「トントン」
渡辺紗希が松本の背中を叩いた。
「!」
「松本君、これ。私、使うコト無いから!」
去って行く渡辺紗希。
(どういう意味でなんだろう……?)
数日後――、
「タタタタタタタ」
後ろ美人、Kがまたしても松本の背後を襲おうとしていた。
「れすー。れすれすー」
右ストレートをぶち込む! が――、
「ひょい、ブン‼」
空振りに終わる。振り返る松本。
「れ……」
神妙な面持ちの松本。話を切り出す。
「や、……やあ。き、……今日はプ……プレゼントがあるんだ……」
「! 何れすかー⁉」
「バッ」
松本は何かを差し出す。男性用と女性用の近藤だった。
「時と場合と所を選んで使ってくれ。じゃあな」
松本が去って行ったあと、Kは――、
近藤さんを食べ始めた。
「噛み切れないれすー。あとゴムの臭いがするれすー」
「スキャンダルの臭いがしたぜ!」
そこに現れたのは、パパラッチャーバカアキ‼
「パシャパシャッ‼」
相棒の(?)一眼レフでその現場を写真に収めた。
「……知ったな?」
「ヒエッ」
バカアキは恐怖で凍り付いた。
「誰かぁーお助けをー‼」
そこに、バカアキを命の危険から救い出す者が
……来なかった。
「! ! ! ‼」
バカアキはその後、ぐちゃぐちゃにされた。
松本は一人黄昏、もの思いに耽る。
(高校生になっても色んな事があり過ぎて、騒々しい毎日が過ぎていくな……)
松本の頭の中に、色々な人物が浮かび上がる。2年、バカアキ、リョースケ、タカマサ、シゲミ、渡辺紗希、臼井すい、立野、K、Y、セキズ、フタエ、延安、老婆、そして――、
(まぁアイツが居りゃあなんてことない、な)
最後に思い浮かんだのはイブキの笑顔だった。自宅のアパートに帰る松本。
「ただいま」
「お帰りなさいませマツモト〇ヨシ様」
「俺は松本だ」
イブキととりとめのない会話を交わす松本。
「ふー、今日もくたびれたぜ」
松本は制服のボタンを外す。
「松五郎―そんなコト忘れてゲームしようよー」
ゲームをせがんでくるイブキ。
「俺は松本だっつーの。まぁいい、やってやるか」
「よし、勝負だ‼」
松本と不愉快な仲間たちのどうでもいい日常は、これからも続く。
完




