第二節 日常
第二節 日常
「ガラガラガッシャン‼」
椅子が飛び交う教室。
「パリィイイン‼」
遂にはガラス窓が割れた。
「うるせぇんだよ‼ てめえ等‼」
松本が吠えた。
マスク着用、黒髪短髪、身長185cm、体重100㎏、金持ちで少し不幸。
「黙れ」
おっと口が過ぎたようだ。
「てめえ等の所為で、寝れねえじゃねぇか‼」
「ゴッ‼」
松本は男子Aに殴打を繰り出す。
「ガハッ‼」
「パリィイイン‼」
男子Aは窓ガラスとともに落下していった。
「瞬発力と切り替えの早さ、躊躇と容赦の無さが俺の強みだ……!」
松本は更に吠えた。
「シーン」
教室は静まり返った。
(おい、どうするよ)
(知るか馬鹿)
(また怒らしちまったよ、鬼を)
「(うるさくなくなったな)よし、もう一回寝る!」
松本は再び寝始めた。そして――、
教室の男子生徒達は塵取りとほうきで教室を掃除し始めた。
放課後――
「あっ‼ マツモト〇ヨシ――‼」
「うるせぇ、俺は松本だ‼」
イブキと松本は三差路で再会した。
「えーとねぇ、えーとねぇ! 今日はねぇ! 学校でねぇ」
「何だ?」
「何もなかった」
「ズコー」
ずっこける松本。
「なら言うなよ……」
「とう!」
急にジャンプし、松本の肩に乗るイブキ。
「っとと、危ねぇな、相変わらず」
「キサマもな! マツもん!」
謎の切り返しをするイブキ。
「何がだ? (またコイツ、人称を変えやがった)」
「目が危ない!」
「……言うなよ」
「哀愁漂ってんな」
「黙れ」
二人は家路を辿る。
松本宅にて――
「ひゃっほ――‼ 今日もお風呂がアツいぜ――‼‼‼」
お風呂に入るイブキ。
「うるせぇな」
宿題をしている松本。
「ピンポーン」
突如としてインターフォンが鳴る。
「ん?」
「カサッ」
ドアの郵便受けに、何かが入った。起き上がり取りに行く。
「何? 『果たし状』?」
延安からだった。
「『今日の日付が変わる頃、高架下にて待つ』だと……」
「バタン! ふきふきふっきー」
風呂から出て、体を拭くイブキ。ドア越しに松本と話す。
「よっ‼ まつごろう‼ 何かあったのかい?」
「何でもない」
松本は返す。
「ピンポーン」
「カサッ」
再び郵便受けに、何かが入った。手に取る。
「『バーカ! バーカ! あーほ! ビビってんのか? まつごろう?』……」
怒りを顕わにする松本。
「イブキ、ちょっと出かけてくる」
「どこへ行くのだ?」
「……喧嘩だよ」
「俺は16の頃からビビった事ぁねぇ。それを……あのヤロウ……‼」
高架下に着いた。しかし、延安の姿は無い。
(そういやアイツ、二つ目の文を渡したとき、どこにいやがったんだ?)
延安は二つ目の文書を送ったとき、案外近くにいたため、相当ビビっていた……!
そして、5分後。
(来やしねぇ……)
その時、
「ぬかったな松本ォオオ! 死ねぇえええええええ‼」
延安が背後から金属バットで殴りかかってきた。
「ガッ‼」
「ゴッ‼ ……カラン」
手首を逆に殴り、バットは数メートル飛び、延安の手を離れた。
「あ……。え? ……」
「お前、分かってんだろうな?」
「あ……はひ?」
松本は畳み掛ける
「お前と俺、分かってんだろうな?」
「は……?(訳分らん)」
「分かってんだろうな⁉ ああん⁉」
「ゴッ‼」
拳を繰り出す。延安の顔面にヒットし、延安は宙を舞った。
延安、死す‼
「パシャパシャ‼」
それを激写するは、パパラッチャーバカアキ!
「いい画が取れたぜ。フ――」
タバコも無いのにふかすバカアキ。
「てめえは! ……」
一旦冷静になる松本。
「いくらだ?」
「ふぁ?」
「いくら積めばいい?」
「え、ちょっとー」
「金だよ、金」
おもむろに財布から札束を出す松本。
「20で、いいか?」
「わーい、怪しいお店行きたい放題だー」
松本はバカアキとアツい握手を交わした。
翌日、学校にて――
「号外だよー! 号外‼」
バカアキは、
やった。
「あのヤロウ……‼」
松本は怒りを顕わにした。
「てめえ! 話が違うだろ⁉」
バカアキの胸ぐらを掴み、問い詰める松本。
「い、いや……誰も言わないなんて言ってないし。『怪しい店に行きたい放題だ!』って言っただけだし……」
「バブチッ‼」
「ゴッ‼ ガッ‼ ゴッ‼」
バカアキは、松本の三連撃を喰らって、果てた。
「しぇええええ‼‼‼」
と思ったらやっぱり生きてて、走って逃げた。
お腹――、
彼はこの状況を是としなかった。そして考える。
(ダメだ……こんな事ではダメだ、そうだ! 何か……何か面白いコト言わないと……)
「お腹君!」
「ぽんぽん!」
彼は叫び、お腹を叩いた。けれども、目立たなかった。彼が皆から認められて、皆でお腹を叩く日が来るのも、遠くない。
「待て‼ っのヤロ‼」
松本はバカアキを追った。
「しぇええええ‼‼‼」
「ガシャン!」
「!」
途中、バカアキは何かを落とした。松本は気になったので追う事を止め、それを拾ってみた。
一眼レフカメラだった。
「あのヤロウ……高価なものを落としやがって……」
手軽に諭吉をドブに捨てるヤツのセリフでは無い。
(そうだ……)
松本は頭に血が上って悪巧みを考えた。
流石の松本もそうなる。俺だってそうなる。
松本は一眼レフの中身、データを勝手に開いた。
「……これは‼」
そこには20枚のミルタンクが保存してあった。
「ミルタンク……ミルタンクだと……‼」
更に何かに気付く。
一眼レフにはシールが貼ってあった。
「これは……‼」
ミルタンクだった。ミルタンクへの並々ならぬ愛情。いや、執念を感じ、松本は追う事を止めた。
(関わってはいけない)
「回復力と瞬発力、そしてお風呂での水かきがアタイの取り得だ‼」
――夜。
イブキが風呂に入っている。
(どこかで聞いたことのあるセリフだな……)
松本はもの思いに耽っていた。
(ミルタンク――)
「ガッチャ‼」
「‼」
「よう! まつざえもん! 今日ものぞきをしなかったコトを褒めてやる!」
「キサマの様な貧相な体を覗く趣味は、毛頭無い」
「‼」
流石のイブキもショックだった。
「アタイ、傷付いた‼ サヨナラ、まつざぶろう‼」
のび太ばりに家出するイブキ。
「はいはい……(ミルタンク……)」
数分後、電話が鳴った。
「ピロリロリン!」
「ガチャ」
出てみる。
「はい、もしも……」
「俺だよ、俺」
「流行りのオレオレ詐欺か? 悪いが俺に、孫はいない」
「ちげえよ、この声を忘れたのか?」
「お前は…………誰だっけ?」
「ズコー」
電話元の男はずっこけた。
「延安だよ、の! ぶ! や! す! イブキの身柄を預かった」
「!」
「返してほしくば……」
「おい……!」
「へあっ⁉」
「お前、死んだんじゃあなかったのか?」
延安は少し呼吸を整えてから答える。
「死の縁より舞い戻ってやったのさ」
ニタリ、と笑う。松本は問う。
「確か、『延安、死す‼』って」
「黙れ。メタ発言はよせ、イブキがどうなってもいいのか?」
「‼」