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松本という漢  作者: 時田総司(いぶさん)


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第十八節 親と子の縁

第十八節 親と子の縁



(あれは俺が中学に上がる頃の事だった)



松本、いつものアパートの一室に座り、考え事をしている。

(あの時、何も知らない俺を、アイツは呪いのラインが入った部屋に入れやがったんだ)


(回想)

「ここが僕の新しいお家?」

松本がシゲミに話し掛けている。

「そうじゃ、ここで暮らせ、ここで暮らすな。アウン、ここで暮らすな、ここで暮らせ」

(?)

シゲミの謎の言葉の数々に疑問を持つ松本。

(回想終了)


(もっと早く気付けば良かったんだ。……いや、無理もない……か? あの部屋に住むようになってから鳥のフンが肩に落ちて来たり、住宅街では花鉢が目の前に落ちて来たり、隕石が突如として落ちて来たりした。全て! あのオッサンが‼ 罪を問われるほどに鈍感な所為で‼‼‼)

突然立ち上がる松本。

「どうしたい? いきなり立ち上がりおって……しかも、その表情で」

イブキが話し掛けてきた。

「ちょっと、出掛けてくる」

返す松本。


「どこへ行くんだい?」



「便所の様な、肥溜めみてぇな、病院だ‼」



その頃、精神病棟――、


「今日からここね」




「ガチャ! ガチャン! ガギィン‼」




鍵のかかる音が……。シゲミの隣に、新しく特別隔離室入りした者が入ってきた。

「お隣さん? 無事なの?」

シゲミが問う。



「こげ茶色……こげ茶色ぽっぽ、こげ茶色」




「⁉」




隣に入ってきた者の謎の言葉に愕然とするシゲミ。


(こやつ……まともではない……)


唇を鋭くさせる。


「こげ茶色……」




「カチャ……」


「!」


特別隔離室への廊下、その廊下の扉が開いた。



「このヒトもダメですね……」

「ああ、仕方ない……」



看護師さん達が話している。どうやら、新しく特別隔離室入りした者が、もう一人居る様だ。




「コンコンコーン」




「!」




その者が奇怪な言語を発する。


「コンコンコーン」


奇怪な言語を発しているのは立野の母だった。



説明しよう! 立野とは、危ないクスリの売人と関わり、危なくなったので電話番号をはじめとする松本の個人情報を売り、逃げ出した者のコトである。現在、山〇組系暴力団の怒りを買い、東京湾に沈められている。

第十四節参照。


その立野母は、シゲミの目の前をゆっくり、ゆっくりと歩いて通り過ぎていった。


「コンコンコーン」

「何言ってるの?」


看護師さんが問う。


「コンコンコーン」



「埒が明きませんね」

「よし、あのおもちゃでも持って来よう」


看護師さん達が持って来たのは、犬のぬいぐるみの様なおもちゃだった。スイッチを入れる。


「コンコンコーン」


「ピピッ」


マイクが作動するそして――、




『コンコンコーン』




犬のおもちゃが鳴いた。


「コンコンコーン」

「ピピッ」

『コンコンコーン』


「ハハッ。こりゃいいや」


看護師さん達はご満悦の様だった。立野母は特別隔離室の一室に入った。そして更に、



「ガチャ! ガチャン! ガギィン‼」



特別隔離室の扉が閉ざされる。


「コンコンコーン」

「ピピッ」

『コンコンコーン』


「何が起きているの? どうしたの?」


シゲミは数部屋離れた所に居る、立野母の様子が気になって仕方がない様子だ。そうしている内に、



「トンテンカントンピー」




「⁉」




特別隔離室区域の奥の方から謎の声が……。


「トンテンカントンピー。トンテンカントンピー」


「なっ、なんなの?」


シゲミは激しく動揺した。


「トンテンカントンピー…………」




(お、終わった……)

謎の声は謎のまま終わった。しかし、その声の主は尋常じゃないほど常人じゃないという事だけは分かった。



「シゲミさーん」


「!」


看護婦さんが来た。

「面会ですよー、お子さん? ですかね。とりあえず、松本んさんが来ましたよー」

面会室に向かうシゲミ。左右には看護師さん達が腕を掴んでいる。

「逃げ出さないで下さいね」

笑顔で言う看護師さん。その笑顔が怖い。

「くぅん」


面会室に着いた。

「では、ごゆっくりー」

看護師さん達は去って行った。面会室には松本が待ち構えていた。

「よぉ、逆戻りどころではなくなったな。聞いたぞ? 特別隔離室に入ったってな」

「これ、逆戻りじゃない! 逆戻りじゃ!」

激昂するシゲミ。

「まぁいい。そっちの事よりこっちだ。久しく会っていないが、とんでもない事が起こったぞ? 山〇組系暴力団を名乗る連中に、銃口を向けられた」



「! ゴクリ」



息を呑むシゲミ。

「それと、頭の中お花畑な女……女じゃないか、何と言うか、女を偽った生命体に、ボディブローを喰らわされて、気絶したりもした」


「よぃん」


シゲミは謎の言葉で答えた。


「ここまで不幸になったのも全部……」



「ゴクリ」


「あの呪いのラインが入った部屋に、入ってしまったからだ! つまりは、俺をあの部屋に入れたてめぇの所為だ! シゲミ‼‼‼」



「あぅん……」



怯んだシゲミ。数秒、時間が経つ。



「!」



何かに気付くシゲミ。


「これ、呼び捨てとは何だ! 訂正せい、訂正するな! 訂正するな、訂正せい」


怒りを抑えつつ、返す松本。

「何言ってんのか分かんねぇよ、じじい。それにな」


ため息をついてから更に続ける。


「礼儀がなって無いと言ってるヤツは、自分が相手の言葉を聞きたくないと言ってるだけだ。相手の言葉を聞かないための言い訳を言ってるだけなんだぜ?」



「くぅん……あぅん……よぃん……」



シゲミは論破された。


「グッ」


拳を握り、勝ち誇る松本。

(おっと)

拳を少し解く。

(まだ終わっちゃいねぇ、最後まで気を引き締めろ……)

口を開く松本。


「これから、今まで以上の不幸が俺を襲うなら、この病院へ払う治療費諸々の経費は払えなくなる。そうなるとお前は住む場所を無くす」


「くぅん」

震えるシゲミ。


「まぁ、自業自得と言うヤツだな。他人を不幸にした分だけ、自分にもその業が返って来る。それと、逆戻りしてスタッフさんに迷惑かけんなよ? これ以上、気違ってんじゃねぇぞ」


(気違う……?)

シゲミは松本の言葉に疑問を抱いた。


「じゃあな、これからはどうなっても知らんからな?」


凶悪な笑みを浮かべて、松本はシゲミの両肩に手をやった。

「シャー」

シゲミは漏らした。小の方を……。


「チャ……バタン」


松本は面会室を後にして、帰って行った。

「ガチャ」

「終わった様ですねー」

看護婦さんが現れた。


「わっ、くさ! 変な臭いがするー。あ、濡れてる!」


漏らしているのが看護婦さんにバレた。

「何やってんのー。ほら、どいたどいた」

「くぅん……」

「ガキみたいなコトしないようにね?」



「! ! ! ‼」



シゲミはブラックアウト……しなかった。

しそうでしない、ギリギリの所でとどまった。

何とも中途半端でもどかしく、苦しい思いをした。



一方で松本――。

「ブワッ! バタバタ」

突風に煽られる。


(春一番……か……)


時は20××年、5月中旬の事だった。

毎度の如く、いつも思うのは、松本は実は馬鹿なのでは……?

「黙れ」

おっと口が過ぎたようだ。


一連の流れを観察していたバカアキぼそりと呟く。

「タイトル、『親と子の縁』、痛々しい上記事にするにはいたしいな、致し方なし」



果たして、松本とシゲミが和解する日は来るのか⁉ ……多分、来ないでしょう

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