第十五節 台風ファック、雨強ス。ちな今トーキョー。ベッドin
第十五節 台風ファック、雨強ス。ちな今トーキョー。ベッドin
――その日は台風だった。
「ヒィヤウィイイイイイイイイイイイイイ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼」
イブキが窓を開けて叫んでいる。
「学校も休みだぜェエエエエエエエエエエ‼‼‼」
更に叫ぶ。
「やかましい‼」
ツッコミを入れる松本。頭を抱えるイブキ。そっと目を開ける。
「静かにしてりゃあ、何もしねぇよ」
そこにはいつもの松本の姿があった。
「マツモーン」
飛びかかるイブキ。
「サッ」
それを避ける松本。
「ドンガラガッシャーン」
イブキは倉庫にぶつかり、辺り一面、物だらけになった。
「チッ! また面倒なことを」
「お前が! 避けたんだろ⁉」
「お前が! 飛びかかったんだろ⁉」
「お前が!」
「お前!」
「お前!」
「お前!」
無限ループって怖いよね。
――数分後、
「ハァハァ。もういい、一緒に片付けるぞ」
「ラジャー」
松本とイブキは和解したようだった。
そうしている内に
「ぐ……うぅ」
イブキが悶絶していた。
「どうした?」
松本が問う。
「お腹の調子が……悪いノデス! SM散、SMさん、SM嬢」
「SM配合散な、しかもそれは医師の処方が必要だ。市販の胃薬でも買って来るわ」
松本はどうやら買い物に出かける様だ。
「早めの対応を頼む……ゼ……」
イブキは息絶えた。
「はいはい、わーったわーった」
様に見えたが、仮病だった。
「今日もまつもんが手厳しいぜ!」
涙目のイブキ。
場面は変わり、精神病棟――。
「カッ‼ ゴロゴロ‼ ゴシャーン‼」
雷が鳴り響いている。ブルブルと震えるシゲミ。
「シゲミさん、本日は急患の方が居られて、部屋を交代して欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
医者が問う。
「うーん、んんぅ」
考え込むシゲミ。
「うん、とYESと捉えてよろしですね?」
「はっ……(何を馬鹿なことを)はい……」
実はイエスマンなシゲミ。承諾してしまう。
「では、移動しましょう。特別隔離室に……」
「!」
シゲミは耳を疑った。
「特別隔離室? 何が特別なの?」
「いいから……!」
三人がかりで移動させられるシゲミ。
「くぅん」
その表情は悲しみに満ち満ちていた。
辿り着いたその場所は殺伐とした隔離室だった。壁には無数の文字が血で描かれており、周囲は異臭で満ちていた。
「わたしがここで暮らすの?」
「いいから入った入った」
質問するが、軽くあしらわれる。
「カッ‼ ゴロゴロ‼ ゴシャーン‼」
「ヒエッ」
雷に怯えるシゲミ。
「じゃあ、3日後の風呂までここに居て下さーい。じゃあ」
「ガチャ! ゴチャ! ガギィン‼」
幾重にも重なる鍵が、厳重に閉められた。
「! ! ! ‼」
シゲミは驚愕した。その空間は只々、雷の音だけが鳴り響いていた。
30分後――、
「喉が渇いた……」
辺りは静寂に満ちていた。
「あのぅ……水は……」
「シーン」
何の返事も無い。
「くぅん」
するとどこからか声が聞こえて来た。
「オッサン、声を出したところで無駄だぜ?」
どうやら、別室の特別隔離室に居る人物からの声のようだった。
「ここでは朝昼夕の食事の時間か、その間のテキトーな時間しか水すらもらえない。漢字の適当じゃあない、カタカナのテキトーだ。ここ、重要な?」
「くぅん……どうしたらいいの?」
「ひたすら、耐えるんだ……!」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミはブラックアウトした。
「……四つ、……パン四つ、……ピーターパン四つ!」
いつしか聞いた、タケモトの声が聞こえて来た。
(部……部分開放の時間が来た!)
心躍らせるシゲミ。目を覚ます。
しかし、
「ピーターパン四つ!」
隣の部屋から声が聞こえただけだった。
タケモト、特別隔離室入り! ! ! !
「ほっ?」
シゲミは全てを理解した。しかし、その現実を受け入れることができずにいた。
「お母さん死んだ!」
タケモトは叫ぶ。
「それは気の毒だったのぉ」
シゲミはタケモトの心中を案ずる。
「お母さん見限った!」
「⁉ 亡くなったの? 見限られたの?」
いつしかと同じセリフを言うシゲミだった。
「ピンクランドセル‼」
時間は刻々と過ぎていった。
(喉が渇いた……)
シゲミは限界の様だった。
「あのぅ……喉が渇いたのですが……」
シゲミは他の特別隔離室に居る患者に助けを請う。
「喉が渇いたのか? オッサン」
「くぅん」
「そういう時は、寝るか座禅を組むかするんだな」
「⁉」
シゲミは我が耳を疑った。
(寝るか、座禅を……)
シゲミは驚愕した。驚きを隠せずにいた。
「ね、寝ます……」
座禅を組む自信が無かったシゲミは、寝ることとした。横になる。
「スースー」
呼吸を整える
――が、寝られない。
(喉が渇いた……)
カピカピになったシゲミの呼吸器官は音を上げていた。
(喉が渇いた……どころじゃないわい、喉が痛い……)
シゲミの喉は乾き過ぎてカピカピになり、くっついていた!!! 限界を超えたシゲミ。
すると――、
「ガチャ」
特別隔離室の廊下の扉を開く者が。
(た、助かった!)
「み、……水」
「タタタタタタタタ」
物凄い速さで歩いていく看護師さん。職務怠慢である。その看護師さんは、形だけの見回りを済ませ、特別隔離室の廊下から出ていった。
「! ! ‼ ⁉」
発狂寸前のシゲミ。
(後で課長さんに訴えてやる……)
数分して、シゲミはあるコトを思い付いた。
(よだれを飲もう……‼)
よだれを口の中で溜めるシゲミ。
「たらーん」
シゲミは一心不乱によだれを溜め続けた。
そして――、
シゲミのよだれは口の中で数mlにも増えていた。
「ゴクリ」
それを一飲みするシゲミ。喉の渇きは何とか癒えた。しかし、
「オヴゥェエエ」
よだれを大量に飲んだのは初めてのシゲミ。気持ち悪くなってしまった。
(も……もう無理)
「ヴェエエエエエエエ‼」
特別隔離室のトイレに逆流するシゲミだった。
場所は変わり、松本邸――。
イブキがのたうち回っていた。
「松本はまだか―⁉ 松本はまだか―⁉」
松本が薬を持ってくることを切に願うイブキ。
「ピンポーン!」
インターフォンが鳴る。
「あ、やっとか!」
期待に目を輝かすイブキ。ドアを開ける。
「こんにちはー。○○教会の者ですがー」
宗教の勧誘だった。
激昂するイブキ。
「俺は宗教なんかに興味はねぇよ、二度と来るんじゃねぇよ!」
「バタン‼」
勢いよくドアを閉める。
その頃、松本は――。
「ビュオー」
突風に煽られる。
「バキッ! バサバサバサ」
傘がおしゃかになった!
「合羽にすりゃ良かったか、クソッ」
手にはマツモ〇キヨシの買い物袋が。どうやら薬を買った帰りらしい。
「あー、めんどくせぇ‼」
おしゃかになった傘を投げ捨てる。
(走って帰るか……)
松本は、台風吹き荒れる嵐の中、走り出した。
そして――、
「ガチャ」
自宅のドアの鍵を開ける松本。
「帰ったぞ」
「まつもーん!」
松本に飛びつくイブキ。
「おい、大人しくしやがれ。薬はこれだ」
3秒で薬を服用するイブキ。
「薬が効いて来た様な……気がするゼ!」
「タタタタ」
走り出すイブキ。そして、
「サッ! フワッ! パタン!」
「スヤァ……」
布団を敷き、寝始めた。
「やれやれだぜ……」
松本は一人、そう思った。




