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松本という漢  作者: 時田総司(いぶさん)


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第十四節 今生の別れ

第十四節 今生の別れ


「すいさん、ちょっくら来てくれ。〇×公園の近くに居る」




松本は臼井すいを呼び出した様だった。


「今、何と?」


黒服の内の一人が口を開いた。


「素晴らしい、彼にも丁度用事があったところだ」


黒服の内のもう一人も続く。

「…………」

松本は暫く無言だった。そしてついに口を開く。



「お前らは、どうあがいたって俺達には勝てねぇゼ?」



「⁉」


一瞬、動揺する黒服達。しかし、瞬時に冷静になる。

「つ……強がりを……。佐藤さん、あなたを人質に取れば、彼をも服従させる事など容易なのですよ?」

「どうやって人質にするって?」

返す松本。


「コレを使ってね……!」


黒服はチャカを取り出した。




「パァン! パァン! パァン!」




銃声が鳴り響いた。しかし、松本は平然としている。そして、お決まりのお家芸かの様に、事が終わるのを見届けた。



「ヒュー。半端ない命中力だな、臼井さん」



またしても臼井すいが黒服達のチャカを全てピストルで破壊していた。


「全く……」

臼井すいが溜息をつく。

「抗争や暗殺業で鍛えたピストルのスキルだ……。俺が来るのが遅かったら……どうするつもりだったんだ? これからは一人で出歩くなよ?」

「はいはい、さーせん、さーせん。あいにく俺は、16の頃からビビったこたぁないんでね」


現在、松本は15歳である。本当は松本は馬鹿なのでは……?


話を戻そう。



「臼井……! キサマ、なぜ佐藤さんを守った⁉ お前が佐藤さんを守ったところで何のメリットも無いハズだ‼」




黒服が問う。


「ご生憎さま。一般人(かたぎ)の仏は出さない様にするのが、俺のモットーなんでね」


臼井すいはそっと答えた。



「しかし、」



黒服は言う。

「二度も我らの前に現れるとは、な。迂闊だったろう? これでお前がここ周辺に潜んでいる事が分かった‼」


ふー、と溜息をついた臼井すいは言う。

「また寝床を変えればいい」


「クソッ! 裏切り者がぁあああ!」


突進していく黒服達。それを


「ガッ‼ ゴッ‼」

「ドッ‼ ガッ‼」


松本は拳、臼井すいは蹴りで対抗していく。


「がぁ!」

「がはぁ!」


次々と倒されていく黒服達。遂には、立っていられるのは一人だけになる黒服。


「くっ! しかし臼井! 佐藤さんが一般人(かたぎ)では無い事は明らかだぞ‼ 佐藤さんは薬の売人をやっている‼」


叫ぶ黒服に、今度は松本が、溜息をつく。そして言った。




「俺は松本だ」




「⁉」


黒服は驚愕した。




(え? ちょ、おま、えええええええええええ⁉)




錯乱状態の黒服。


「学生証でいいか?」


ごそごそと学生証を財布から出す松本。

「ほれ」

学生証にはしっかりと松本という文字が。そして、松本の写真が堂々と印刷されていた。

「確かに松本だ。しかし、何故……佐藤さんでは……?」

困惑している黒服に、話し掛ける松本。


「これは推論だが、話させてもらう。以前、立野というクソ野郎が佐藤と名乗り、薬の売人をしていたんだ。いや、していたはずなんだ。そして深入りし過ぎた奴は、恐れをなして俺の携帯番号やらの個人情報を盾にし、俺を売りやがった。で、あんたらは俺を佐藤と認識して電話をかけてきたり、チャカで脅したりすることになったんだ」

「成程……それなら話の辻褄が合う。(ていうか、なんで誰も顔を覚えていなかったんだ?)」


自分たちの非を認めざるを得ない黒服。


「し、しかし!」


臼井すいに目をやる黒服。



「臼井さん、アンタは第三者じゃあ無い。元は組のモンじゃあないか!」




「……」




だんまりの臼井すい。


「どうしてアンタは組から抜け出そうとした? どうして組から逃げ出そうとしたんだ⁉」


黒服の言葉を聞き、口を開く臼井すい。



「……たくなってな」



「何⁉」




「家庭を、築きたくなってな。このまま足を洗って」




「何だと⁉」


激昂する黒服。

「臼井さん、アンタほどこの業界に首を突っ込み過ぎた人間が、タダで足洗えると思うか⁉ 薬も売ったこともある! 人も殺したことだってある! 指の一本や二本落とす覚悟が必要だぜ⁉ 今の時代でもな!」


「そうか……」


呟き、考える臼井すい。


「……仕方ない、組に戻るか」



「⁉ アンタ! 良いのか⁉ 家庭を築くってのは……!」



問う松本。返す臼井すい。


「今の俺は、傷付くのも傷つけるのも嫌いでな。穏便に事を済ますにはこの方法しかあるまい」


「……良いん……だな?」


さらに問う松本。




「『良くはないが、仕方ない』といった処か……?」




臼井すいに返す松本。


「分かった、仕方ない……な」


「松本君と言ったか?」



「!」



初めて松本を名前で呼ぶ臼井すい。



「『良くはないが、仕方ない』この様な事で溢れかえっているのが社会だ。大人になった時に思い知るだろう。負けるなよ、社会に。……じゃあな」




「待ってくれ!」




松本は臼井すいを呼び止める。


「?」


「今回、何故俺が佐藤というヤツと間違えられていたかは分かった。しかし俺がすぐ黒服達に捕まるのは、何故か分かっていない。はっきりとしてもらおうか?」

両手を軽く上げ、手のひらを見せる臼井すい。その後、黒服を見る。


「じ、GPSだ。とある情報筋に協力してもらって、松本さんの携帯のGPS機能から探知させてもらっていたんだ」




「‼」




松本のこめかみに血管が浮かび上がる。




「くそったれ‼‼‼」




「ダーン!!!」




松本は持っていた携帯を地面に叩き付けた。


「めきょ」


携帯は破壊された。


「いいのか? 数万円は高校生には重たいだろう?」


臼井すいが問う。


「金ならある、くそ! doc〇moめ‼ 何がNT〇だ。ふざけやがって‼ そうだ……ソフトバン〇にすれば……!」

「この前、通信障害があったぞ?」

名案が思い浮かんでも、臼井すいに水を差される松本。

「し、仕方ねぇ! 次もdoc〇moにしといてやらぁ! 義理で‼」

興奮気味の松本。そっと臼井すいが話し掛ける。


「そうだ、これからの君の身の安全について話そう」


「!」

「君の風貌や行動範囲は、顔写真や携帯のGPS機能で察知されている」


「そ、……そうだ!」


食い気味の松本。


「そこで俺は今回、ある条件を付けて俺はこの組に戻ろうと思う!」


「どんな条件だ⁉」


問う松本。


「今後、組合の人間は、この町には一切近づかない、その条件が満たされないのなら、俺は組には戻らない。良いな? 黒服」

「え……ええ、この町に居るメリットは大してない。それに対して臼井さんが組に戻って来るメリットは果てしなく大きい。まさにローリスクハイリターンだ」

臼井すいの問いに答える黒服。


「決まり……だな。じゃあな、松本君。今生の別れと言うヤツだ。達者でな」

「おう、アンタもな」


別れを交わす臼井すいと松本。



そして、――




山〇組系暴力団の怒りを買った立野はコンクリートに固められて東京湾に沈められた。

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