第十一節 松本の噂
第十一節 松本の噂
「おい知っているか?」
「なんだ?」
セキズとフタエが話している。
「松本のコトだよ。マ、ツ、モ、ト!」
「それがどうした?」
フタエが問う。
「いやぁ、アレだよ。小学生の時から175あったらしいぜ」
「背がか?」
更にフタエが問う。
「そうだ。そんで恐れられていたらしい」
「……そん時からかよ……」
その瞬間、
「カチッ」
「スキャンダルの臭いだぜ!」
一眼レフの電源を入れつつ、バカアキが現れた。
「んだ⁉ てめっ!」
激昂するセキズ。
「まぁ待たれ」
「あ?」
ごそごそと何かを取り出す。
写真だった。
「こ、これは……?」
口を開いたのはフタエ。それは幼い顔をした巨人を写していた。
「コイツぁ若かりし頃の松本よぉ……」
「何……だと……」
「ウソ……だろ……?」
バカアキの言葉に、恐れをなすセキズとフタエ。その写真は明らかに周りの小学生と横に居た母親よりも身長がでかい松本の姿があった。
「ふいィ――。ひとまず、78kあったゼ? 体重はよう」
葉巻でもないのに爪楊枝でふかすバカアキ。
「ななじゅう……」
セキズとフタエは口をそろえて驚愕する。
「つーわけで、この写真はお前らにやる。その代わり、スキャンダルが起きたら有無を言わず話してもらうからな」
バカアキは去って行った。
「嵐の様なパパラッチャーだったな……」
「……おう」
呆然とするフタエに、返すセキズ。
すると、
「ピー、ピー」
フタエの顔面から謎の音が聞こえ始めた。
「何だお前、どこから音出してるんだ?」
セキズが問う。
「の、喉か鼻だ。自分でもよく分かんねぇ」
返すフタエ。
「良く聞かせろ、ノドか? ハナか?」
「ハナダ」
フタエのこの一言で、ぼけもんのハナダ〇ティーが出来たというお話は、次の機会に……。
「へっくしょん……へっくしょん!」
教室の松本がくしゃみをする。
「ずず……(風邪でも引いたか?)」
再びお話は校庭へと回帰される。
「それにしてもゴツい小学生だなぁ」
「何人かヤッてそうだぜ?」
フタエとセキズは口々に言う。
そこに、
「嘘から出たマコトだよ」
「‼」
「⁉」
イブキが現れた。
「何だてめぇは⁉ その制服、ここのモンじゃあねぇな⁉」
「いつからそこに居やがった⁉」
叫ぶフタエとセキズ。
「嘘から出たマコトだよ」
「‼」
「⁉」
「昔々、松本という大きな大きな子供が居ったそうな」
「何か始まったぞ」
「……聞いてみるか」
「その子供は、宿題を漏れなく素早く済ませる、マジメなお子様だったそうな」
「宿題……?」
「まぁいい、聞こう」
「夏休みの宿題は7月中に全て終わらせ、普通の平日だと、この様な有様だったそうな。
(回想)
ゲームをしておる松本。『おい、宿題は?』と問う父。『一時間前に終わらせた』」
(回想終了)
「な、何かムカつく」
「マジメを通り越してねぇか?」
呟くフタエとセキズ。
「ところがある日、事件は起きた」
イブキが話を切り出す。
「このような事件がな」
(回想)とある公園、ボールをついている松本。そこへ――
「キャハハハハハハ」
かけっこをしている女の子が現れた。
「ガッ……ズデン」
何かにつまづいてこける女の子。
「ああ――ん」
泣き出してしまった。
「キミ、大丈夫か?」
松本が近付く。
「ああ――ん」
女の子は泣いてばかりいた。
すると、ひそひそと周りに居た団地妻たちが話し始めた。
「やだ、あの大きな子、女の子を泣かせてるわ」
「ひどいことするわね、許せないわ」
それを耳にした松本。
「ち、……違うんだ。僕じゃ、僕じゃない」
「ウソまでついて、まぁ……罪は重いわよ?」
「違う、違うんだ……」(回想終了)
「事件の一部始終はこんなトコかのう。……ひとまず言えるコトは、『嘘から出たマコトだよ』」
「マジか……」
「そんな事が……」
息を呑むフタエとセキズ。
「……知ったな?」
振り返るとそこには松本の姿が。
「あっああっ……」
うろたえるフタエ。一方のセキズは、
「ダッ」
ダッシュでその場を離れる……!
「良くも知ってくれたな? どう料理してやろうか……」
身構える松本。
フタエのとった行動は!
「フタエのキワミ、イェエアァ――――!!!」
特攻するフタエ。しかし、
「ガッ」
頭部を殴られる。
「アァ――――!!!」
「ゴシャア」
吹き飛び、壁にぶつかる。
「ああぁん」
喘ぎ。喘ぐな。
「さて、お次は……」
松本が視線をセキズにやる。すると、時すでに遅し。セキズは既に数十メートル先を走っていた。
「ダッダッダッダッダッダッダッダ」
更に走って遠くへ行くセキズ。50メートル走は6秒4の実力を持つセキズ、6秒8の松本を置き去りにしていく。そして、
(フタエ、悪い。俺は傷付くのも傷付けるのも嫌いだ……だから……‼)
「ガチャガチャ」
校舎に辿り着き、ドアノブを開けようとする。
しかし、
「ガッチャン」
ドアノブに異変が……‼
「しまった! 閉まってしまった‼」
叫ぶセキズ。迫り来る松本。
(終わった……フタエを裏切ったからバチが当たったんだ……)
走馬灯がよぎるセキズ。すると、
「ガチャ!」
「こっちだ‼」
いつしかの二年がセキズに助け舟を出した!!!
「バタン!」
校舎に隠れるセキズと二年
「ダッダッダッダ」
「サンキュな」
走りながら礼を言うセキズ。二年は走りながら返す。
「礼を言うなら!」
「ガッシャン!」
ドアが松本によって破壊される。
「真の意味で助かってから言うもんだろ?」
「ああ、済まない」
二年に返すセキズ。
と、ここで
「スキャンダルの臭いがするゼ‼」
パパラッチャーバカアキ、推参‼
「! またてめぇか⁉」
「パシャパシャ」
怒る松本をよそに写真を撮りまくるバカアキ。
「! 止めねぇか‼」
「ブワッ」
拳を振りかざす。しかし、
「スイ――」
「……残像だ」
松本が殴ったのは、バカアキのシャドウだった。バカアキ自身では……ない!
「このっ!」
「ブワッ‼ ブン‼ ブワッ‼‼」
バカアキに攻撃を繰り出すも、全て、すんでのところで避けられる。
「な、何か知らんが、あのバカのお陰で逃げ切れそうだ……‼」
「いい機会だ! 走るぞ‼」
セキズと二年は会話を交わす。
「スイ――」
さらに避け続けるバカアキ。
「回避の術……とでも言っておこうか……? この間本屋で見た技だ……物語は、こんな感……」
瞬間、
「ゴッ‼」
話に集中し過ぎたバカアキ。松本の一撃を喰らう。
「ぶへらぁ!」
鼻血を出すバカアキ。
「ゴキッ……ゴキッ」
腕を鳴らす松本。
「よう……さっきはよくもコケにしてくれたな……?」
「しぇ――、しぇ――ましぇん」
怒りモード突入の松本に、呂律が回っていないバカアキ。
「これでも喰らえ‼‼‼‼」
一方、二年とセキズは……。
「ハァ……ハァ……ここまで来れば問題無いだろう……」
「でもよぉ、明日学校で出くわしたらどうすればいいんだ?」
「そこは問題無い!」
大きく出る二年。
「?」
「アイツは、なぜかは分からないが、自分なりのルールを持っている。今日の敵は今日滅殺するという……な」
「それって……?」
問い掛けるセキズ。
「明日になればあの怒りも無くなっているというコトだ」
「ふい――、危ないところだったぜ――。(済まない、フタエ。そしてよく分からんあのバカ……)」
その頃、松本は
「ハァハァ……これで許してやるよ」
そこにはズタズタになったフタエとバカアキ、そして一眼レフの残骸が残されていた。




