第一節 シゲミの大冒険
第一節 シゲミの大冒険
「バリバリバリバリ」
シゲミの一日は、朝一番の公開グソから始まる。
「ほっ」
ケツを拭くシゲミ。
「おはようございまーす。やだ、臭い。スゴイ臭いですね。ゲミシさん」
看護婦さんが来た。ここは隔離室である。
「これ、ホントを言うな。嘘を言え。嘘を言うなホントを言え」
激昂するシゲミ。
「はいはい。(ホント意味わかんねえなコイツ)朝食もってきましたよ」
格子対応だったため、柵格子の部屋にある扉、その扉の下にある中くらいの穴から朝食は差し出された。
「ご飯じゃ。食べんといけん」
『衣食住』
――その意味をシゲミは履き違えていた。
「まず衣服の衣、寒いじゃろ? 寒いと『食』の食べ物を取りに行けれんじゃろ? 服を着る。次、あったかくなる。食べ物を取りに行く。最後の『住』寝る」
正にニートの事である。そんな事はさて置き、朝食を食べ終えるシゲミ。看護師が来た。
「すごーい。全部食べたの? 今日は部分開放してあ・げ・る!」
「⁉」
看護師の突然の言葉にシゲミは驚愕した。
「よーし、レッツラゴー‼」
促されるままにシゲミは隔離室の外に出る。
「救急車ピョーン‼」
「⁉」
シゲミは驚愕した、そこに立っていたのはタケモトだった。
「これは何なの?」
「ああ、気にしなくていいから」
質問も軽くあしらわれる。
「ハゲナッツ!」
シゲミはザビエルヘッドだった。少し気になる。
「気にしない、気にしない」
看護師さんはなだめる。
「ピーターパン四つ」
――――暫くすると、排便タレオが現れた。
「あ、ああ」
「⁉」
シゲミは再び驚愕した。
「流して……」
「コラッ! たれっち! また隔離室行くよ?」
「いや、いややぁ……」
看護婦さんに注意され、いやいやをする排便タレオ。
(こいつは社会の為にならん。排除するか……?)
実は戦闘狂のシゲミ。右の手刀が煌めく。一方その頃。
「ガバッ」
ここは別の家屋、とあるアパートである。身長185センチ、体重100kgの男が横たわっていた。
「また、あの夢か……。コイツにバレねえようにもういっちょ、寝直すか」
漢、いや、男は二度寝を決め込む。そして、物語の舞台は再びシゲミへと転換される。
「ああ、あぁ」
排便タレオ、死す。
「パシャパシャ‼」
そこに出くわしたのはパパラッチャーバカアキ。
「これ、写すでない。これ、写せ」
シゲミは完全に混乱している。いや、錯乱していると言っても過言ではない。
「いい画がとれたぜ」
バカアキはご満悦の様だ。
「こら、またですか? 渡辺クン! そろそろ、務所行きになりますよ?」
「キエ――――‼」
看護婦さんの言葉に、錯乱状態のバカアキ。
(看護婦さん、gj)
シゲミは気を取り戻した。部分開放の時間は、シゲミの場合3時間である。さらにシゲミは進んでいった。
「ピーターパン三つ」
タケモトはUターンしてきた。
(へ、減ってる……!!‼)
シゲミは驚愕した。
更に追い打ちをかけるようにモリトノリミチが現れた。
「シャ――」
小便を垂れている。歩きながらである。揺れている。モノが。歩きながらだから。
(蛇の道……!)
シゲミは思わず口をすぼめた。確かにそれは蛇をかたどった、蛇の道。その小便は完全無欠の蛇であった。だが同時にそれは小便だった。そう、ただの小便なのだ。さっきより鋭く口をすぼめるシゲミ。モリトノリミチは患者、しかし、シゲミもまた、患者である。
「シャ――」
シャア=アズナブル。その言葉のルーツは、ここから来たのかもしれない。そのお話はこの物語の少し後で話させて頂く事とする。
「ピンポンパンポン」
アナウンスが鳴った。
「シゲミさんシゲミさん退寮の準備ができました。荷物をまとめてさっさと出ていきやがれ。あっ、間違った。部分開放、おっわりだよー」
シゲミの部分開放、完!
「もう終わりなの?」
不満そうなシゲミ。
「ゲミッち、文句言わない! ささ。はいる、はいる」
ベッドに腰掛けるシゲミ。
「ほっ」
続いてベッドの中に入ろうとする。すると、
――BBAがシゲミのベッドにいた。
「あっ」
「えっ」
「私、17歳」
「はっ⁉」
そこに居たのは明らかにBBA。しかしシゲミには17歳という音、音色が聞こえた。
「私、jk」
「ほっ!」
「女子高生」
「!!!!!!!!」
シゲミは常軌を逸した現象に我が耳を疑った。
「女子高生」
「‼」
シゲミはブラックアウトした。
――翌日、シゲミは心地よい朝を迎えた。
「私、――」
「! ! !」
幻聴だった。布団の中を調べるシゲミ。何も居ない。
「ほっ」
「ゲミッちぃ! 朝ごはん終わったら歯ぁ磨いといてねぇー‼」
朝食後、歯を磨くシゲミ。
(昔、誰かが言っていたな。上の歯6回、下の歯8回磨く、と――。あれ? 上の歯だっけ、下の歯だっけ?)
説明しよう、歯磨きは通常、適量磨けば良い。磨き過ぎると、かえって虫歯になる事もある。
シゲミは上の歯か下の歯か分からなくなった。ましてや6回か8回か分からなくなった。そして――、
「全部10回磨く! 大は小を兼ねる!」
当然虫歯になった。
時を同じくして、松本の家では。
「ぷーわぷわぷー。ぷーぷー」
イブキが鳴いていた。
説明しよう。イブキとは女? とおぼしき生命体で中性的な容姿をしており、妖精である。お風呂が大好き。
「こら、やめないか!」
松本はたじたじだった。
「火事、起こしたろ」
「⁉」
松本はイブキの言葉に耳を疑った。
掌から何かを出す。
「ヤメロー‼‼」
人差し指だった。
「ターン‼」
エンターキーを押す。
「こーれだからネット炎上は止められないゼ!」
「ズコー」
松本はずっこけた。
「まあいい、学校行くぞ。これから新学期だ。お前は中2だったな?」
松本は高校1年生、イブキは中学2年生だった。
「こーれだから厨2病は止められないゼ!」
「パシッ」
「黙れ」
松本はイブキの頭を叩いた。
「……泣くぞコラ」
いつもの通学路を、二人は歩く。松本はアスファルトの上を、イブキは塀のうえを。
「普通に歩けないのか? お前は」
「あーなた、おまえー」
「こら、昭和の演歌歌手に怒られるぞ!」
「ちっ! これだから男は」
とりとめのない会話を交わす二人。
「アタイこっからこっち」
「じゃあな」
一つの三差路を隔てて、二人はひと時の別れを告げる。
「待たせたな」
松本の目前に延安が現れた。
延安、ヤンキー。弱そう、人質を取り武器を使う。卑怯。176cm、58kg
「今日の武器はなぁ……コイツさ!」
メリケンサックだった。まーたベタなものを。
当然の如く無視する松本。
「おい、ちょまてよ!」
「…………」
肩を掴まれても気にせず進む。
「あの日、俺らは誓ったろ⁉ あの日、えーと何だっけ?」
「……と言うか、お前、誰だ?」
「ふぁ?」
一瞬、
延安の心臓が止まったように延安の時間は止まった。余りの打たれ弱さに、激昂した松本が延安の胸倉を掴む。そして
「お前は誰だと言ってるんだ‼」
「分かりません、言えません、ごめんなさい」
ハッとなる松本。
「なんだそりゃ?」
怒りは収まった。そうして松本と延安は初めて一緒に学校へと登校した。