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手遅れです。勇者様

作者: キミマル。

昔々、魔王が誕生し世界に危機が訪れようとしていました。

神は世界を救うべく異世界から勇者を召喚しました。勇者は仲間たちと共に様々な冒険を乗り超え、ついに魔王の下へ辿り着きます。


ところが勇者は、後一歩のところで魔王に倒されてしまいました。


これは『勇者の子孫たち』のお話。

春でも日が暮れると、吹く風はまだ冷たい。そんな中を俺は、友達のションとアッティーと並んで帰路についている。


「ディーン、なんか嬉しそうだな」

「そうか?」

アッティーに言われて、自分の顔がニヤケていたことに気づた。


「明日から学校に通うんだもんね。僕も楽しみだよ」

「うん、緊張もするけどね」


ションが嬉しそうに言う。ニヤケていたのは、それだけが理由ではないが同意しておく。


その年で13歳になる子供たちは、学校に通うことが義務化されている。

俺たち3人は明日からこの地区の学校に入学する。


「明日は8時にここで待ち合わせで。じゃあまた」

「また明日!」

「うん、またね!」


挨拶を交わし二人と別れて、足早に家へと向かう。俺の気持ちが高ぶっているのは入学式を控えているからだけではない。


俺の家には友達の2人にも言っていない秘密がある。


魔王に倒されてしまった勇者には妻と子供がいた。

妻と子供たちは正体を隠しながら、魔王を倒すべく勇者の刻印と使命と力を代々に受け継いできた。このことは魔王側に知られてはいけない、秘密となっている。


俺は勇者の子孫なのだ。


我が家では学校に入学する前夜に、「召命の儀」を行い神から勇者の刻印と使命と力を授かる。その日が今日だ。俺は小さい頃からこの日を楽しみにしていた。遂に俺も勇者になれる。

遠くの方で家の明かりが見えてきた、俺は走った。




その日の夜。

居間は蝋燭で照らされていて、俺は床に片膝をついて座っていた。俺の前には父さんがいて少し離れたところで母さんが感慨深そうな表情で立っている。


「これで儀式は終わりだ。左肩を見てみなさい」


召命の儀式は思ったより呆気なく終わった。

袖を捲って左肩を見ると不思議な模様の痣ができていた。


「それが、勇者の刻印だ。おめでとうディーン、今日からお前も勇者だ」

「おめでとう!ディーン!」

母さんが目に涙を浮かべながら俺を抱きしめた。


嬉しさと気恥ずかしさで俺は何も言えなかった。


「ディーン、勇者の刻印と一緒に『勇者の目』も開かれたはずだ。今まで知覚できず、見ることができなかった魔族や魔物の姿が見えるようになる。奴らは耳がいい者や目がいい者、爪や牙が鋭い者や皮膚が固い者など様々だ。今まで大人しかったからと言って、油断はするなよ」

「それと勇者の刻印は、他の人には見られないように注意すること。約束よ」


両親から忠告を受けたが、これは毎日聞いていることだ。明日の待ち合わせもあるので俺はすぐに寝ることにした。


「わかったよ父さん母さん。明日は入学式だからもう寝るね」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」


自分の部屋に戻りベッドの中へ入った。

明日こっそりションとアッティーに見せてやろう。そう思いながら刻印の入った左肩をさすって、目を瞑った。




翌朝はいつもより早く目が覚めた。朝食を食べた後、学校の制服に着替えて鞄を肩にかけ、家を出た。

待ち合わせ場所には十分ほど早く着いたが、既にションとアッティーの姿がある。

また顔がニヤケないよう心がけながら、俺は走って二人のもとへ向かった。




教室の中の風景をみて俺は固まってしまった。

全員、自分と同じ制服を着ている。

全員、自分と同い年の子供だ。

全員、自分とは違う特徴をもっている。


長い耳や鋭い爪や牙が生えている者、皮膚がトカゲのように固そうな者もいる。


全員、魔族だ。


今までと見える景色が全然違う。これは『勇者の目』が開いたからだろう。

しかし、俺はまだ混乱していた。自分がこれから何と戦わなければいけないのか理解できずにいた。

そのときションとアッティーが話しかけてきた。


「ディーン、俺達3人同じクラスだ。これからもよろしく」

「よろしく、ディーン。あれ、もしかして緊張してる?」

「あぁ……」


そう答えるのが精一杯だった。

2人の口には小ぶりだが確かに、鋭い牙が生えていた。

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