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ユニゾン・ハート  作者: 赤魂緋鯉
花奈Side
2/8

花奈Side 2

 中学3年の夏、私とゆかりは同級生の子達とバンドを組んで、ラジオ番組主催のコンテストの予選に出た。

 私たちのバンドは、大賞候補の一角だ、と言われていた。司会の人が言うには、音源審査で5本の指に入っていたとか。

 

 曲の冒頭は、リードギターゆかりのソロなんだけど、その段階からもう客席がざわつき始めた。

 ゆかりに先導されながら、ボーカルとベースとドラム、それとリズムギターの私も全力でそれに付いて行く。


 演奏は過去最高レベルに上手くいって、アウトロに入る前から、観客が歓声を上げ始めた。


 だけど、私はそれに気をとられて、一瞬だけ気が緩んだせいで、最後の4小節で完全にコードを間違えて、全部台無しにしてしまった。


 それでも拍手を浴びながら、私達は舞台袖に引っ込んで、控え室に向かった。


「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

「まー、ライブなんだし、そんな事もあるって。花奈」

「私もちょっとだけ間違えたし、気にしない気にしない」


 何度も謝りながら、泣きじゃくる私へ、肩に手を置くゆかりと、その横にいるベースの鈴木(すずき)さんが優しくそう言ってくれた。


「頑張ったんだから大丈夫だよ」

「そうそう。それに、まだ落ちたって決まってないじゃん?」

「うん……。ありがとう……」


 2人が慰めてくれたおかげで、なんとか立ち直りかけたとき、


「幼なじみだと何しても許されるんだー。ずるーい」

「せっかく完璧だったのにさー、最後にぶっ壊わすとか最悪なんですけど?」


 ボーカルの吉見(よしみ)さんとドラムの佐藤(さとう)さんが、私をキッと(にら)み付けて、きつい口調でそう言ってきた。


「あ……。え……っ」


 弱っていた私には、その氷の様に冷たい声が心に深く突き刺さった。


「花奈!?」


 パニックになった私は、過呼吸を起こしてへたり込んだ。


「落ち着いて! 大丈夫だから」


 ゆかりは私の背中を撫でて、落ち着かせようと声をかけてくれて、


「ちょっと! その言い方は無いでしょ!」


 鈴木さんはその2人にそう言い返した。


「別に本当の事言ってるだけなんですけどー?」

「そいつがミスったんだし、このくらい言われても当然じゃん?」


 だけど、彼女達はそう言って、(とげ)のある強い口調で私を責める。


「まあまあ3人とも。ちょっと落ち着こう?」


 険悪な雰囲気の3人へ、ゆかりはそう言って仲裁に入ったけど、


「そうやってさ、甘やかしてるから失敗するんだよ」

「またミスされても堪んないし、もっとまともなの探さない?」


 私への当てつけの様な口振りで、彼女達はゆかりへそう言う。


「ふーん。そんなこと言うんだ。じゃあ、私も厳しいこと言って良い?」

 

 そんな彼女達に向かって、ゆかりは今まで聞いたことの無い様な、とても低い声を出した。


「佐藤さんのドラム、リズムがずっとズレてて、(すご)くやりにくかったんだけど」


 自分の足元に置いてたボイスレコーダーを、ゆかりは佐藤さんに渡した。


「う……っ」


 さっきの演奏を聴いてみると、私は必死で気がつかなかったけど、確かにバスがずっとバラバラだった。


「それと吉見さんは、ずっと音程がうわずってたよ」


 吉見さんには、その楽譜を見せながら、レコーダーの音に合わせてゆかりが歌った。

 結果はもちろん、ゆかり本人が言ったとおりになった。


「いや……、その」

「自分たちだって完璧じゃないのに、偉そうなこと言わないで」


 それは普段、ゆかりが絶対言わない言葉だ。このとき多分、彼女は大分怒っていたんだろうと思う。


「ほ、ほら、その、ライブ感って――」

「言い訳しないでもらえる?」


 引きつった顔でそう言いかけた吉見さんは、ゆかりは突き刺すようにそう言う。


「で、でも! 私たちまだアマチュアなんだし、ちょっとぐらい――」

「じゃあなんで、花奈にあんなこと言ったの?」

「えっと、その、あの……」


 必死に自分を擁護(ようご)する2人に、ゆかりはもう我慢の限界が来たみたいで、


「もういいよ。――私、このバンド辞めるから」


 幻滅した声と顔で、2人に三行(みくだり)半をたたき付けた。


「じゃあ私もそうするね。――あんたらとはやってらんないわ」


 鈴木さんもそれに賛同して、ベースを片づけ始めた。


「花奈さんごめんって。私が悪かったから!」

「きつい言い方してごめんね? ちょっと気が立ってたんだ、私」


 バンドの要に抜けると言われて、2人は慌てて私に謝ってきた。


「ゆかり……っ」


 彼女達の必死な様子が怖くなって、私は顔を逸らして、私のギターを片づけてたゆかりに抱きついた。


「花奈を馬鹿にするのもいい加減にして!」


 (おび)える私を抱き寄せたゆかりは、2人へ声を荒らげてそう言い放った。


 私が怒鳴ったゆかりを見たのは、後にも先にもこの1回だけだった。


 片付けが全部終わると、


「じゃあ帰ろう。花奈。鈴木さん」

「……うん」

「オッケー」


 私たち3人は、呆然(ぼうぜん)とする後の2人を残して、結果発表も聞かずに会場を出た。




 その後は、審査員の人が大目に見てくれて、バンドは予選を突破したと聞いた。


 2人は慌ててメンバーを(そろ)えて出たけど、ゆかりのパートを()けるわけが無くて、評価は散々だったらしい。


 でもそんなことは、この先、私に起こったある事に比べたら、ずっと小さな事だった。

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