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中編 光のある場所

大体の方向性が決まってから一週間経った。

歌詞はなかなか思いつかなかったけど、とりあえずお兄ちゃんが書いた歌詞で大体歌えるようになってきた。

せっかくだから作曲した人にまずは聴いてもらうのがいい。

そこで私はお兄ちゃんの部屋に行って歌を披露した。

渋い顔をしたりニヤリとしたり腕組をしたり落ちつかない様子だったが、わりと真剣に聴いてくれた。

「どう?お兄ちゃん?」

お兄ちゃんは険しい顔をしていたのでダメ出しされるかと思ったのだが、

急に表情を明るくさせて「すごくいい!!」と言った。

「アイドルっぽさじゃなくて早苗らしさがよく出ていたよ」「ちゃんと自分のものにしてる」

どうやら褒めてもらえたようだ。

私はアイドルに憧れる気持ちはあるけれど、どうしても自分っていうものが前面に出てしまう。

でも、よくよく考えるとアイドルとはこうあるべきという基準は曖昧だと思う。

アイドル大好きなお兄ちゃんも「アイドルは自分の個性を前面に出したときにこそ輝く」と普段から力説している。

そんなお兄ちゃんから良い感触を得られたので少し自信がついたかもしれない。

それにしても結局は褒めるのに、わざと渋い顔をしたりして意地悪だなぁ。

お兄ちゃんなりの照れ隠しなのかな?

ああ、そういえば、そろそろ期末テストがある。

歌のことばかり考えていられないな。

ひとまずはテスト勉強もしなくちゃね。

そして7月の期末テストが終わり、私たちは町内文化祭の準備に再び集中した。

夏休みの宿題もあるかぁ。

いろいろと忙しい。

とにかく期末テスト期間は文化祭の練習を中断していたので、なかなか皆で集まれなかった。

テストが一段落したということで皆で集まってみた。

歌詞については皆あまりよい考えが浮かばなかったのか、もしくはお兄ちゃんが書いた歌詞が良かったのか、そのままでいいんじゃないかという結論になった。

タイトルは綾子ちゃんが真っ先に提案した。

「光のある場所」

おーー!!。

さすが綾子ちゃん。

なんか良い、良いですぞ!!

朋絵ちゃんも「いいね」と言う。

綾子ちゃんのセンスに惹かれたのでタイトルは「光のある場所」に決定した。

その後はソロパートとサビを通しで何回も練習した。

最初はダンスも歌も3人で合わすのが大変だったけど、やればやるほど噛み合ってきたので本番までには仕上がりそうだ。

そして最後の宿題は衣装について。

まずは朋絵ちゃんから大胆な提案があった。

「夏だから水着がいいよ」「スク水ね」「中に着ておいて3曲目で洋服をパっと脱ぎ捨てて水着になるの」

と教育委員会から睨まれそうな、いや一部のお客さんが狂喜しそうなアイデアだった。

「それはダメだよ!」綾子ちゃんは否定した。

「洋服を脱ぎ捨てるのはダメだよ」「1曲目から水着じゃないと」

「スク水はマニア向け過ぎるから3人別々な水着にしなきゃ」

「もちろん最低1人はビキニで」

おいおい水着の否定じゃなくてそっちかい!!!

小さな頃から習い事をしていたお嬢様キャラの朋絵ちゃん、学業優秀な綾子ちゃん、元気だけが取り柄の私。

大胆なことを言い出すのは私のキャラだと思うのだが、これは仕方ない。

2人が普段は猫かぶってるのを私は知っている。

だから、私たちしかいない時は、教室では見せない顔をするし、大胆なことを急に言い出すこともある。

2人がそうきたのならば、私は敢えて平凡なアイデアを出してみた。

「おそろいのTシャツにしようよ」

「ユニット名とかニックネームとか書いたりしてさ」

平凡すぎかなと思い、2人の反応をうかがうと、「それいいかも!」と、あっさり賛同してくれた。

「ただ、白いTシャツだとブラが透けるわね」「じゃあ白いTシャツの下に水着だね」

朋絵ちゃんは水着にまだこだわっていた。

「水着は冗談として」「3曲目にオリジナル曲だからそのときに衣装チェンジすると面白いと思う」

水着の件は冗談だったのか。

「逆に、大きめのTシャツを用意して3曲目にそれを上から着るのはどうかしら?」

綾子ちゃんが現実的な提案をする。

「あっそれはいいかも」私と朋絵ちゃんはそこそこ同意した。

「私の妹に舞台の横でTシャツを持たせておいて2曲目が終わったら渡してもらえばいい」

「それで結局のところユニット名を決めないとね」

綾子ちゃんが妹の了解をとっているのかは知らないけど、たぶん無理やり手伝わせるのだろう。

手伝いの件は綾子ちゃんに任せるとして、ユニット名かぁ。

そもそもユニット名は私たちには無く、去年は「町内会アイドルです」って言ってたな。

「真乃川ガールズとかどうよ?」綾子ちゃんが具体的なネーミングを自信満々で言う。

ちなみに私たちの町は真乃川(まのがわ)という。

シンプルでいいかもしれない。

私たちは「真乃川ガールズ」で即決した。

「ねぇ、Tシャツに文字を書くならマジックとかで手書きにしようよ」「お金もかからないし手作り感があっていいじゃん」

「それでさ、3曲目を歌う前に自己紹介するのよ」「私たち真乃川ガールズです!ってね」

朋絵ちゃんがなんだか楽しそうに言うので皆それで納得した。

そんなわけで今年の8月は「真乃川ガールズ」としての初のオリジナル曲を披露する。

軽いノリで始めて、軽いノリでパワーアップした私たち。

それでもいい。

10年後や20年後に楽しい思い出として心に残っていたらいい。

私は真乃川の町が好きだ。

好きだからずっとこの町に居続けるかもしれないし、何かのきっかけで離れるかもしれない。

それでも今楽しいことをすれば、真乃川で過ごした思い出になる。

私は、そして私たちはたぶん今この瞬間の青春を生きながら、未来の自分に思い出をプレゼントしようとしてるのかもしれない。

そんなことを考えつつ、練習を重ねて、真乃川町文化祭を迎えようとしていた。

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