表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編 町内のアイドル

毎年、私が住む町では町内文化祭が開催される。

のど自慢大会や早食い競争など毎年恒例のものはあるけど、わりと自由なイベントだ。

そういうイベントなので単なる個人的な趣味の発表みたいなものさえある。

町内の有志が集まって参加の申し込みをすれば簡単に参加出来る非常にゆるいイベントだ。

私はこの町に住む中学2年生。

名前は花山早苗(はなやまさなえ)

私は町内文化祭を毎年楽しんでる。

のど自慢大会には小学生のときからずっと参加してる。

あと、私はアイドルに憧れている。

去年は仲良しの友達と町内アイドルユニット(?)を結成して、踊りながら3曲も歌わせてもらった。

そうはいっても衣装はそれぞれバラバラの普段着だったし、踊りも歌もたいしたものではない。

これじゃアイドルになれるわけない。

でも、とにかく友達と一緒に何か面白いことをしたかった。

周りから見れば、夏休みに中学生がはしゃいでるだけなのだろう。

そうだとしても、この町内文化祭は精一杯楽しんだ人はみんな主役になれる。

町内の人たちはみんな優しい。

下手でも一生懸命やればいい。どんなことでも楽しむことか大事。この町は大人も子供も大体はそう思ってるようだ。

町内文化祭では他の人もわりと好き勝手に楽しく自己表現してる。

商店街のおじさんたちが漫才やコントをしたり、なんだかわからない造形物を展示する高校生もいる。

公序良俗(って言うんだっけ?)に反することや危険なこと以外は何でもありのイベントなのだ。

今年もまた8月の下旬に町内文化祭がある。

私は去年と同じく町内アイドルユニットとして参加することを既に申請していた。

やるからには去年よりパワーアップしたい。

今は学校の中間テストが終わったばかりの6月の中旬、文化祭については約2ヶ月間でいろいろなことを考え、そして練習をするつもりだ。


「早苗!曲が出来たぞ!」

お兄ちゃんが私の部屋を軽くノックしてきた。

私のお兄ちゃん(花山春彦(はなやまはるひこ))は大学2年生。

大学ではアイドル同好会に入ってるのでアイドルに関しては詳しい。

実は去年もいろいろなアドバイスをもらっていた。

お兄ちゃんは単なるアイドル好きなのだが、個人的な趣味で作曲もしている。

DTMとかいうんだっけ?

コンピュータを使って曲を作ることが出来る。

去年は人気アイドルグループの曲をカラオケに合わせて歌ったけど、今年は自分たちのオリジナル曲をやりたいと思っていたので、お兄ちゃんに曲作りを頼んでおいたのだ。

とはいっても、お兄ちゃんはバイトや大学の授業もあって意外と忙しくて、1曲くらいしか作れないと言っていた。

だから今年も3曲やる予定だけど、オリジナル曲は1曲にすることにした。

早速お兄ちゃんの部屋のパソコンの前に座り完成したばかりの曲を聴いた。

「すごいじゃん!これ好きかも!」

私が好きな感じの曲だ。

私は派手な曲よりも落ち着いた曲のほうが好きなので、

お兄ちゃんにも予めそう伝えておいた。

それに、あまりにもハイテンポな曲だと私も友達もダンスが大変なので、

ゆったりした感じにしてほしいとも要望していた。

「で、歌詞はどうする??」

「え?歌詞はないの??????」

「一応書いたけど早苗たちが作詞出来るならそのほうがいいかなって」

「そうかぁ」

言われてみればたしかに、全部お兄ちゃん任せでは私たちらしさがないかもしれない。

そうはいっても作詞なんて出来そうにないので、お兄ちゃんが書いた歌詞をベースにして自分たちの言葉を少し入れていくことにした。

「あとはダンスと衣装だなぁ」

「それな」

「去年の素人っぽさというか初々しさもよかったけど何か一工夫あるといいじゃん」

「それなぁ」

私もたしかにそう思うのだけど、何をどうしたらいいか見当つかないので、

お兄ちゃんのアドバイスに対して「それな」で返すしかなかった。

「衣装はともかく曲はオリジナルだから何かそれっぽいダンスを考える必要はあるね」

お兄ちゃんはアイドル好きだからといって自分の考えを押し付けることはなく、いつだって私の意志を尊重してくれる。

だから、いろいろと話をしたけれど、

結局は「あとは自分たちのやりやすいようにしたらいいよ」と言ってくれた。

ちなみに私たちの町内アイドルユニットは3人。

私はアイドルへの憧れと勢いだけでやってる感じはあるけど、他の2人は特技を持っている。

ユニットは私と福田綾子ちゃん(ふくだあやこ)と下平朋絵(しもひらともえ)ちゃん。

綾子ちゃんは国語が得意科目で学力も校内トップクラス、趣味は読書、もしかしたら作詞が出来るかもしれない。

朋絵ちゃんは小学生のときにバレエや日本舞踊を習っていてスポーツも得意、運動神経がよくてダンスもかなり上手い。発想もユニークな子なのでダンスの振り付けを考えてくれるかもしれない。

かなり他人任せだけど、このメンバーならやれるんじゃないかと、そんな気もしている。

とにかく明日学校に行ったときに相談してみよう。

曲と仮の歌詞はお兄ちゃんが私のスマホに早速転送してくれた。

お兄ちゃんが書いた歌詞はいい感じだったが、タイトルが「早苗に頼まれた曲(仮)」だった。

これはさすがにタイトルくらい自分たちで考えないとなぁ。

それとも遠まわしに自分たちで考えろと言っているのかな??

いずれにせよタイトルを考える必要はある。

そして次の日。

私たちは歌やダンスの自主練習を中間テストが終わった翌日から毎日やっていた。

町内文化祭を精一杯楽しむ為に、張り切って頑張っている。

今日の練習を終えた後、お兄ちゃんに作ってもらった曲を皆で聴いた。

そして、いくつかの点を話し合った。

曲に関しては概ね「いいじゃんこの曲!」という反応だったのっで、これでいくことにした。

問題は、独自のダンスと歌詞を考えること、そして衣装をどうするかだ。

もちろん曲のタイトルを考えるのは最低限必要だ。

とりあえず衣装の件は後回しにした。

ダンスは朋絵ちゃんが一旦考えてくれることになった。

歌詞とタイトルは皆で少しずつ考えることにした。

お兄ちゃんから貰った曲と仮の歌詞を皆のスマホに送って今日の練習とミーティングを終わりにした。

そして、曲のデータを皆に渡した次の日。

もともとやる予定だった人気アイドルグループの曲を練習した後、昨日私が話した件について再び皆で話し合った。

朋絵ちゃんは早速アイデアを考えてきてくれていた。

「サビ以外は1人ずつ歌うことにしたらいいと思う」

「歌っている人は歌に集中して残りの2人は自由気ままに踊る」

「サビは3人で手を横に大きく振ればいいと思う」

「雑な感じがするかもしれないけどシンプルでしょ?」

「それいいね!」私と綾子ちゃんは口を揃えて同意した。

私は「サビで一体感を出すのはいいと思う。見てる人も手を振ってくれるかもしれないし。」と言った。

綾子ちゃんは「踊りながら歌うのは正直苦手なので、そのほうが私にはいいかな」と苦笑しつつ賛同した。

そんな感じでダンスについてはおおよそ決まった。

自由気ままにというのがどんな感じになるか予想がつかないけど、それもまた私たちらしさである。

「サビ以外は1人ずつ歌うとしたら、どこを誰が歌うか決めないとね」

綾子ちゃんが早速具体的な話に踏み込んだ。

「1人ずつ順番に歌えばいいと思う。」「順番はジャンケンかクジ引きで」

朋絵ちゃんはまたもやシンプルな提案をしてきた。

そして、あっさりと私たちは同意した。

朋絵ちゃんいわく「早く決めたほうが歌を覚えたり練習する時間を長く取れる」と。

「それもそうね」私たちは納得した。

「歌詞は思いつかなかったら、早苗のお兄ちゃんの歌詞のままでいいし、自分のパートのところを自分で考えたらどうかな?」

綾子ちゃんは歌詞について提案した。

「歌詞全体がバラバラになっちゃうかもしれないけど一旦そうして後から調整すればいいし、それがいいよ」

私がそう言うと朋絵ちゃんも「うん、そのやり方でいこう」と頷いた。

早速パート割りをクジ引きで決めた。

私が出だしを歌うことになった。

「最初が私かぁ、これって責任重大?」

「そんなことないよ、私が途中から挽回するから」

「それフォローになってないし!」

私たちはそんな軽口を叩きつつ、なんだかワクワクしていた。

「それぞれのパートの歌詞は夏休み前には作っておこうよ、タイトルと衣装のこともそれまでにある程

度は考えよう」

「夏休みに入ったら一気に仕上げていこう!」

課題が明確になり、話はだいぶまとまってきた。

「もちろん期末テストも頑張らないとね」優等生の綾子ちゃんがつぶやくと、

「ああああああああああ、それなぁ」と私と朋絵ちゃんは苦笑した。

両方頑張るぞー!

柄にもなく私は心の中で決意した。

声に出して言えないところが私の自信の無さである。

帰宅して歌詞を考えてみた。

身内びいきというわけではないが、お兄ちゃんが書いた歌詞もなかなかよい。

アイドル好きなお兄ちゃんだからアイドルっぽい歌詞なのかと思いきや、町に対しての想いとか私たち3人の絆とかも感じさせる歌詞だった。

仮歌というわりには真剣に書いてくれたのがよく分かる。

メロディも私たちが歌いやすそうな感じに仕上げてくれている。

「よく見てるなぁ」と思い、失礼ながら怖くなるくらいだ。

妹である私のことは知り尽くしていても不自然ではないけど、綾子ちゃんや朋絵ちゃんのことも観察してるのだろうか。

そりゃたしかにウチによく遊びにくるし、

去年の町内文化祭で録った動画を何回も見てから曲を作ったと言ってたけどね。

お兄ちゃん、ひょっとして女子中学生が大好きなのか?

そんなことはないか!?

さすがにそれはないかな?

きっと3人の唄い方のクセや出せる音域を研究していたのだろう。

それよりも自分の役目を果たさなくてはいけない。

メロディを覚えて歌詞やタイトルも考えないとね。

あとは衣装か。

どんな衣装がいいかという問題もあるけど、衣装を買うお金があるのかどうか。

やっぱり衣装の件は後回しかな。

去年と同じように私服でもいいかもしれないしね。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ