アラーム音
久しぶりに投稿します。どうぞ暇潰し程度に読んでください。
ピピピ、ピピピ
控えめなアラーム音が耳の中に侵入してくる。耳から頭に行き、ピンボールのように頭の中を跳ね回る。ああ、まだ寝ていたい。寝ていたいが、この頭の中で跳ね回るアラームに抗うよりも、素直に起きてこいつを止めた方がいいだろ。
時刻は朝の6時。いつもなら歯を磨いて顔を洗い、スーツに着替えてから朝飯を食べる。事実、今もその通りに行動している。体に染み付いた、一連の行動だ。
そこに無駄は無く、変える理由も余地も無い。6時40分、いつもと変わらない時間にドアを開けて、バス停に向かう。もうこのバス停を利用して5年に経つ。つまり、今の会社に5年いることになる。
バスに揺られていると、目的地のアナウンスが聞こえてきた。これから僕はボタンを押してそこで降りる。それから会社まで歩き、自分の席に座り、昨日から残していた書類を整理して、お昼を食べて、また仕事をして……。
ふと、ボタンに伸ばした指を引っ込めた。このまま乗り続けると何処に行くのだろうか。いや、知っている。このバスの終点には、私用で何度か行ったことがある。そこから先にも行ったことがある。でも、その先は? そこにはさらに先があり、海がある。その先にもまた陸があって、町があって……。
ピピピ、ピピピ
アラーム音が俺に起きろと訴えてくる。まだもう少し寝ていたい。後五分、五分だけでいいから寝かせてほしい。いや、起きよう。ここで寝てしまうと確実に遅刻する。
何か夢を見ていた気がする。降りなければいけないバス停で降りずに終点に向かう夢だ。まだ中学生の自分には関係なさそうな夢だ。
制服に着替え、朝飯を食べて今日の時間割りを揃えて、準備万端。おっと歯を磨かなきゃ。
自転車に跨がり、ヘルメットをしっかり締め、出発。出るのがちょっと遅れたが、飛ばせばまだ十分に間に合う。
ペダルを漕ぐ足に、確かな重みを感じる。頬に感じる風が前から後ろに吹き抜けていく。自分は今、確かに生きて、走っている。その当然のことが、すごく特別なことに思えてくる。
まだ走っていたい。いつまでも止まること無く走りたい。走ったその先には何もないかも知れないけど、この瞬間をいつまでも感じていたい。いつまでも、ずっとずっと……。
ピピピ、ピピピ
アラーム音が朝を告げる。私はむくりと起き上がると、窓のカーテンを開けて朝日をいっぱいに浴びる。去年高校生になったのをきっかけに始めた、超健康的な習慣だ。
奇妙な夢だった。夢の中の私はサラリーマンだったような気もするし、懐かしき中学生だったような気もする。数多く見てきた夢のように、見ている間は鮮明に見ていたのに、起きるとそれは曖昧になってしまった。
っと、早く支度して学校に行かなきゃ。今日は日直だから朝の仕事があるもん。
いってきまあす。
私はまだ家にいる母にそう言って、外に出る。ここから私の一日が始まる。
私は朝の時間が好きだ。洗い立ての空気が鼻腔をくすぐる、こそばゆい感じ。優しい光で包んでくれる太陽。耳を澄ませば風のないしょ話まで聞こえてくる。
いつまでもこの時間を感じていたいと思う。限りがあるからこそ気持ちがいい、何て私は言わない。この時間を引き伸ばすことは出来ないかなあ。長い長いこの一瞬をずうっと、ずうっと……。
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。布団の中から手を伸ばしてスマホの目覚まし機能を止める。
妙にリアルな夢だった。夢の中で僕はもうバスに乗っていて、本来降りるバス停で降りずにどこかに向かって行っていた。
違う、それは僕が見ていた夢じゃない。俺だ。そう、俺が見ていた夢だ。こうしちゃいられない。まだ私は時間割りを揃えていない。早く目的のバス停で降りて時間割りを揃えないと、今日の僕は日直だから朝の仕事がある。早くしないと、早くしないと、
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。脳が動き出すの感じる。俺は今夢から覚めたのか。それともこれは夢の中なのか。夢の中で夢から覚めたのか? こっちが夢じゃないことを誰が証明出来るのか。僕は今寝ているのか、起きているのか、
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。私はもう学校に向かってたはず。それは夢の中でだっけ? でも何回も起きたような。
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。僕は起きる。
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。
ピピピ、ピピピ
アラーム音がなる。
アラーム音がなる。
アラーム音がなる。
……
…
読んでいただきありがとうございます。
連載の方も久しぶりに続きを書こうかと思います。