警備員の仕事は怖い
私がこの仕事についたのは給料が良かったことくらい。それでも、辛いと思うことはある。特に昼間だ。夏は特にキツイ。暑さに負けてしまいそうになる。それでもまだいい方だ。深夜の警備ほど怖いものはないからだ。
それはあることがあったから…。
そのある事とは。
先輩から聞いた話だ。
先輩も上司から聞いたらしい。
この話はとても怖い。
だから、この手の話が出た時には1人で警備ははっきり言ってメチャメチャ怖くてつくことができない。
それはとある場所の警備だ。
そもそもそんな場所の警備は必要あるのかさえ疑問だが…。
そう、そこは潰れた病院の廃墟。
新しくリニューアルする予定で工事も始まっており、解体やらなんやらと物がたくさん積まれている。ここはいろいろ噂が絶えないことで有名な場所だと聞かされた時にはちびりそうになったほどだ。
そんな場所だから1人でただ立っているだけというのは不気味だった。車の交通量もさほど多くもなく、たまに通る車がちらほらと。
仕事は夜の10時まで。
とは言えセミの鳴き声ひとつ聞こえてこないこの場所は不気味としか言いようがなかった。もう1人誰か話し相手でもいれば良かったのだが、あいにく今は1人。
もう1人は少し離れた場所を警備している。
物を盗まれないための警備など必要ないと思うのだが仕事だから仕方がない。
お給料をもらっているのだから貰った分は働かないと。
腕時計をチラチラみはじめたのは車が通らなくなって10分以上経ってから。
腕時計の時間は午後9時半。
あと30分。
あと30分我慢すれば解放される。そう考えていた時、車のライトが見えた。
こちらに向かって走ってくる。それはライトの光でわかった。
しかし、その光は道に沿ってと言うより私に向かって走ってくるようなそんな気がした。
無線でもう1人に連絡を取ろうとするもザーザー音が鳴るだけで相手の声は聞こえない。
赤色灯を振り回して誘導をかけようとするが、突っ込んでくるそれに恐怖した私はとっさに横に飛んで車をかわした。
車はそのまま走り去って行った。
冷や汗をかいた私は立ち上がり砂埃を叩いた。その時建物内でガタンと言う音を聞いた気がした。
無線はまだ使えない。
時計の針はまだ9時40分くらい。ブルッと体を震わせたが、見てこないわけにはいかない。物を盗む輩もあとをたたないと聞く。
懐中電灯で照らしてゆっくりゆっくりと建物内へと足を踏み入れた。
ヒヤリとした建物内は不気味としか言いようがない。散財した物はまだ片付けられてはおらず、所々汚れている。
そんな中突然雨が降り始めた。ポタポタと垂れる滴が聞こえてくる。
その音がとても大きく聞こえたのには驚いた。ここは建物の中心部。聞こえてくるはずがない。それでも聞こえてくるそれに背筋が凍る思いがした。
その時何かが通り過ぎたように見えた。
懐中電灯で照らしてみたが何も変わったところはなかった。その時ふと上司の言っていたことを思い出した。
ここは何かいる。
そう…出るらしいのだ。
霊が。
それも壁の隙間から突然ニュッと顔を出す。「目の前までくると怖くて仕方がない。」と言ってた気がする。
頭を振りながら怖いことよりも楽しいことを考えながら辺りを捜索する。
すると突然広い部屋にぶち当たった。
比較的綺麗なようだ。荒らされた感じはない。ただ物が置かれているだけ。
埃がついていた。
それは何年も人の手が入っていないことを意味する。部屋に明かりを灯しながら回ってみたが何も変わったところはなかった。
その時突然手にしていた懐中電灯がチカチカとして消えてしまった。
慌てふためいた私はいろんな物にぶつかりながら何とか部屋から出ようとしたが、月明かりが入ってこないこの場所は暗くて分からなかった。焦り始めた私はもう一度無線を飛ばしてみた。すると今度はつながったようだ。けれども帰ってきた言葉はこうだった。
【ケッケッケッケッ。】
「ヒーッ!!」
私はびっくりして腰を抜かしてしまった。
あわあわあわと言葉にならない声を発するも逃げ出すことができない。
急に生暖かい風がどこからか吹いてきた。
恐怖で錯乱寸前だ。
何とか冷静に冷静にと考えてもなかなか思うように頭の中は思ってはくれないようだ。それでも何とかなったのはもう1人の同僚がやってきたから。パタリと何も無くなったのだ。風もあの生暖かった空気も今は冷たくひんやりとしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね。で、君はどうしてここに来たんだい?警備は?」
「時間になったんで帰ろうかと思ったんですが、一声掛けてからと思ってきたんですよ。そしたら立っているはずの場所にいないから捜しましたよ。ここ、気味が悪いですね。何かこう出そうな感じがします。」その時だ、空気が変わった気がしたのは。
私は周りを気にするようにキョロキョロと見ている。
もう1人もなんだか落ち着かないのかキョロキョロし始めた。
「なんか、こういう場所って出そうですね。」
「君は何も聞かされてないのか?」
「何がですか?」
「出るんだよ。実際、私が体験した。ついさっきの事だ。」
「まっさかぁ?からかわないでくださいよ。怖くなっちゃうじゃないですか。」
「いや、ホントに出るんだ。」
「ならこんなとこ早く出ましょうよ。ただでさえ気味が悪いところなんですから。」
「ああ、そうだな。」
その時だ。何処かでガチャリと鍵がかかるような音がしたのは…。ここは建物の中心あたり。出るとしたら表口か裏口しかない。
さっきのはどっちだ?
とりあえず近い方ということで、裏口へと向かった。ガチャガチャガチャ。動かない。
「な、なんででしょうね〜。どこも施錠はしてないはずなんですけどね。」
「じゃあ表口に行くしかないな。」
「はい。そうですね。」
暫く歩いて表口についた。ガチャガチャガチャ。こっちも開かない。鍵などついてないはず。それなのに何故?
その時生暖かい風が吹いた気がした。
2人とも怯えてしまった。
それが良かったのか悪かったのか…わからないが、どこか遠くで小さくガタッと音が聞こえた。何かが倒れたような音である。
お互いの顔を見やり、同じ場所にライトを当てる。音がした方だ。
遠すぎてよく見えない。
仕方がないので2人で歩き出す。
音がしたのは奥の部屋だ。
足元のガラクタがだんだん増えてくる。
食べ物が散らかされたりもしている。
ここに誰かいたのかもしれない。だとしたら見つけて注意しておかないとという真面目な性格が顔を出した。
「おい、お前はあっちを探せ。私はこっちを探す。」
「え〜?ここで探すんですか?出るんじゃなくて…。」
「ああ、そうだ。もしここにいるのがわかってて解体なんかしてみろよ。事故になりかねんだろが。」
「そうですね。じゃあ、その人を連れ出すんですね。」
「そうじゃないと問題になったら誰が責任を取る?」
「あ、ああ、そうですね。じゃあ、ちゃっちゃと捜して帰りましょう。」
そう言って2人とも怯えはさておき人を捜しに歩き出した。
1時間くらいだっだろうか?
どれだけ捜しても人1人いなかった。
おかしい…。
これだけさがせば見つからないわけがない。
じゃあ、あのゴミはずっと前だったのか?
再度2人でゴミがあった場所に戻ることにした。
もどって見て見たがゴミ一つなかった。見間違いだったのか?
生暖かい空気が2人を包む。
怖くなってきたもう1人が表玄関に向かおうと言って歩き出した。私も慌てて後をついていく。
玄関は鍵がかかっていた。
誰が一体?
風が吹いて首筋を舐めたような感じがした。
もう1人は恐怖で顔が固まっている。
私も顔が真っ青だと思う。それでもなんとか平静を保ちつつ散らばった道具から使えそうなものを探した。
そうして見つけたものから玄関のドアのガラスを破って出られるようにもちなおした。
勢いをつけてぶつけて破ることができた。そこから慌てて出て逃げるように建物から離れた。その時後ろを振り返ったら建物の陰に誰かがいた気がした。
しかしこれ以上関わりたくない為何も言わずに仕事を終えて帰宅することにした。もう1人も同じらしい。時々ブツブツは言ってたが、独り言のようでよく聞こえなかった。
それ以降、この場所の警備は断っている。怖いのだ。2度と同じ目に会いたくなかったから。
今夜は誰が警備しているのだろう…。




