2章「8と3」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一人音楽室を見たしゅんやが悲鳴をあげる。
「どうしたんだ!?」
悲鳴を聞いて他のメンバーも音楽室を見る。
一同の視線の先には、音楽室全体を覆う赤い液体と赤い月光によって照らされた肉塊だった。
「何なんだよ……。」
唖然とする一同。
その中でふと何かを思い出したかのようにしゅんやに話しかけるトオル。
「今聞くのもなんだけどさ、しゅんや。あのトマトが閉じ込められた時アイツなんて言ってたんだ? あの時は俺達は何言ってるかわからないなりに声聞けて安心したんだけど……さ。」
「……助けてって。……アイツはあの時、俺達に助けてって言ってた。」
「そうか……。」
暗い音楽室を沈黙が支配する。
「……あの時、俺がトマトが窓を閉めに行くを止めていれば……。せめて一人にしなかったら……。」
沈黙の中、深い後悔がしゅんやを襲う。
「おい。しゅんや、自分を責めるのはやめろよ。」
力がしゅんやを励まそうと声をかける。
「……でもさ。責任のほとんどが俺にあるんだぜ? ほら? 俺がトマトが窓を閉めに行くのを止めてれば……」
そう言って目から涙をこぼすしゅんや。
「そう言って自分を責めてもアイツは帰って来ないんだよ。だから、せめて……今はまだ……。」
トオルの言葉を聞いて、下を向いていたしゅんやが顔を上げてトオルの顔を見る。
「それをお前が言うなよ……。」
しゅんやがトオルの顔を見ると、目から涙があふれていた。
この田舎の学校では、ひとクラスの人数が少ない分、クラスメートとの間の関わりが深い。
人によるところがあるが、少なくともこのクラスの中でトマトの存在はクラスの人間関係の橋渡し役であり、中心だった。
だからこそ、トマトは誰からも慕われていたし、親しみを持たれていた。
そして今、その彼が死んだ。そのことが、このクラスの中に大きな影を落としたことには間違いは無かった。
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音楽室でのことより少し前
図書室の扉の前で立ち止まる女子3人がいた。
「ほんとにここにお札があるんだろうなー?」
「地図を見た感じだとここだけどね。もしかしたら違うかもねー。」
「違うかもねーってなんだよ! あやしすぎるだろっ!」
腰が引けている真奈と案外乗り気な優花。
そんな2人を見て"もし、2人の平和を脅かすものが現れたら殺る"と決意を固めていく芽生だった。
「じゃ、じゃあ開けるね……」
生気を感じれない声ながらもドアノブに手をかける真奈。
"キィー"
ぼろく錆びついている金属製のドアを開ける音が廊下と図書室に響き渡る。
ドアを開けた先の図書室に3人が入る。
優花は図書室を見渡すと一言。
「うわぁ暗いなー。でも月の光がそこそこ入るから見えないほどではないな」
「まあでも暗いことには変わりはないから電気をつけるね」
そう言うと芽生が図書室の電気をつける。
すると、一部点滅しているところがあるが蛍光灯に灯りが灯されていく。
「じゃあ、とりあえず皆バラバラで探してみようか!」
明るくなり精神的に多少元気になった真奈が探索を始める。
それから、それぞれバラバラに図書室を探していく。
しかし、3人がバラバラに歩き始めた途端にさっきまで元気だった蛍光灯のスタミナが一斉に切れ始めて点滅を始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ホラーがダメな人の悲鳴が響く。
「大丈夫かー? 無理そうなら、手分けして探さずに……」
「大丈夫ダヨー」
「なんで片言なのかは知らないけど本当に大丈夫か? 足震えてるけど?」
優香に指摘された真奈の足は、生まれたて子鹿を超えるほどの震え方をしていた。
「う、うるせー!」
ビビりまくっている真奈を冷やかしながらも3人は手分けして図書室の中を探索する。
「うーん。見つからないねー」
「肝試しってことだから怪談コーナーにあると思ったんだけどなー」
唯一の光源である懐中電灯を床に置き、その近くに集まった3人は、ここ10分程の探索の結果について報告をし合っているが、それは報告をしている段階で実りナシということになるのだがこれはまた別の話。
呑気に話をする真奈と優花。しかしヤル気が違う人もいた。
「2人のためにも絶対に見つける。絶対に見つける……。絶対に見つける……。見つける……。見つける。見つける。」
手分けして探してきたが、一向に見つけることのできない3人組。
彼女達に焦りが見え始めてきた頃。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
校舎に響き渡る悲鳴。彼女達もまた聞こえていた。
「あれって? しゅんやの声だよな? でもあれってトマトなのか?」
「どっちなんだろ? でもなんかあったってことだろ。もしそうなら急いで行ったほうが良いじゃ……」
真奈と優花がしゅんや達に合流しようと考えていた時。
「すいませーん! 来て下さーい!」
図書室のどこかから芽生の声が聞こえる。
「わかったー!」
2人は急いで声の方向に向かうと、そこにはお札が地味に貼られている本棚とその裏にあったと思われる隠し扉があった。
隠し扉のドアは、2人の到着を待つことなく芽生に開けられたらしく、ドアの向こうでは芽生が何かの資料を一生懸命見ていた。
「ここって確か、真奈。お前が調べたとこだよな?」
「そうだっけ? まあどっちにしても怖くて調べるのは無理だったけどね」
「開き直るな!」
2人の会話で2人の存在に気づいたのか、芽生が資料から目を話すのは2人の会話が始まってからだった。
「あっ。2人共来てたんですね。とりあえずこれを見てください。」
芽生は、隠し部屋から日記っぽい資料を持って出ると2人に別々の資料を渡す。
「来てたんですねってなんだよ。まあ見るけど。
」
「ああすいません。真奈の分は関係ないやつでした。皆に見てほしいのはこの優花に渡したやつのこのページです」
ぐちぐちと文句を言いながらもページを見る真奈。その隣で、ただそのページを見つめる優花。
開かれた冊子に書かれていたのは――
夏だからホラー企画第3回(実際には第2話)です。
初めて見た方は、プロローグからはじまる物語ですので目次からどうぞ!(後書きで言うことではない気が……)
今までの2回分も見てくださっている方は、本当にありがとうございます。気まぐれでいいので誰かにトマト語でこの作品を宣伝してみるのはどうでしょうか? かなり引かれること間違い無しです。
遅くなりましたが、この作品を読んでいただきありがとうございます。
寺の中の蛙でした。