ある兵士の奮闘その1
伯爵様は、跡継ぎであるルーファス様を領地に残し、奥様とお嬢様と、お嬢様の婚約者アルフ様の実家、サザランド伯爵領へ行っている。
ルーファス様は羨ましそうにしていたものの、領地を任されたので、日々執務に追われているそうだ。
俺は領地の見回りをしている。
リーコック侯爵家のダンジョンから溢れた魔物の駆除が終わったとは言え、やはり魔物自体の数が増えてしまっている。
伯爵様の運営手腕が良いので寒村は領内にはないものの、村はただでさえ人口が少ないので、魔物に襲われては堪らない。
あの日から領内を見回りつつ、魔物の駆除をする日々が続いている。
まあ、村からすれば、兵士がちょくちょくやってくるので治安は良くなったし、連絡もしやすいしで、悪いことばかりではないそうだ。
今日も今日とて、俺は十五人で領内を回っていた。五人で一組が三つ。見回りの単位として決められていたからな。
「たっ助けてくだせぇ!」
転がるように馬の前に出てきたのは、泥だらけの男だった。
いや、ちょっと危ない!馬もなんとか止まったが、当たりどころが悪かったら、即あの世行きだぞ!
「馬の前に飛び出るヤツがあるか!」
見回りのリーダーが怒鳴ると、土下座をして、懇願し始めた。
「兵士様!オラたちの村を助けてくだせぇ!」
お願いしますお願いします、と何度も頭を地面に押し付ける。
仕方ないな、とみんなでその男の村へとついていくことにしたのだが――モルトハウス領から出ることになった。ここ、リーコック侯爵領だ。
みんな目配せをする。取り敢えず、俺たちがモルトハウスの者だとは知られてはいけない。
かといって、このままこの男の村を見捨てることは……心情的に難しかった。
モルトハウス家の印となるものは隠し、村に着くと――そこには数えきれないネズミと、それに抗う人たちの戦場となっていた。
「一組は馬を守れ!」
リーダーは指示を出しながら馬から降りると、剣を抜き駆け出した。
俺だって走り出した。走っていないのは、詠唱に入った魔術師だけだ。その魔術師が放った火の矢が、固まっていたネズミを吹き飛ばし、火だるまにした。
「ヂュー!!」
いくつものネズミの悲鳴が響くと、家々からネズミが出てくる。
焦らず確実に手負いの物を仕留めながら、数を減らしていく。
「ネズミを外側に誘導してくれ!」
魔術師が次を打つために言うが、そんなに簡単にいくかよ!
それでも槍やら剣を使って内から外へ。弓矢で仕留める物もいれば、焦れたようにネズミが襲ってきた。
「ヂュー!!」
飛びかかるその時に、魔術師が上手いタイミングで俺たちとネズミの間に火の壁を作り出し、ネズミが火だるまになったり、焼け焦げた。
火だるまネズミによって延焼しないように、さっさと仕留め――そんな攻防を繰り返すうちに、なんとか村の中からネズミを追い出すことに成功した。
「……もういないか?」
みんながみんな、肩で息をしている。なんとかなったのか。兵士たちには傷はなさそうだ。
しかし村民は、満身創痍。薬は足りそうか?いや、その前にネズミはいないのか?
「……村の代表はいるか?」
リーダーの目の前に、よれよれの爺さんが来た。
ネズミとの攻防をなんとかしていたものの、自分も戦闘に参加していたらしく、引っ掻き傷が所々にある。
「騎士様たちのおかげでなんとかなりました。ありがとうございます」
村の代表が地面に額をつければ、村民も真似て頭を下げる。
いや、俺たち騎士じゃないんだけど。
「重傷者は何人だ?」
「……それは」
言いよどむ中、子供を抱いた母親が飛び出てきた。
「子供がっ……子供が噛まれてっ」
見れば、二の腕や耳が何ヵ所も噛み千切られて血が流れている。
子供はぐったりとして、他の村民は可哀想にと視線を向けながらも、子供のことは諦めている様子だ。
「……他には?」
「……うちの人が」
ポツリと言った女の傍には、足を引きずる男がいた。先頭だってネズミを相手にしていたらしく、他の誰よりもネズミを倒したが、被害も大きかった。
「……村長。少し話がしたい。そこの怪我人は、話が聞こえない場所で待機していてくれ」
何しろここはモルトハウス伯爵領ではない。取り敢えず伯爵かルーファス様に連絡を取らなければ。
リーダーは村長に部屋を借りて連絡を取るそうなので、俺たちはそこそこ元気な村民数人と、ネズミの後始末と建物の応急措置に取り掛かることになった。




