一年生その5
「ここは天国か」
ケントさんが連れてきた騎士科の一人が言うと――じゃんけん大会で勝ち残った騎士科の先輩だそうです――その婚約者さんともう一組のカップルも頷いています。大げさですねぇ。
「週に二回とはいえ、この贅沢ですものね」
エルシリア様も頷いています。え、贅沢品なんて使っていませんけど。
「虹の鈴商会の料理はなかなか食べられないんだよ」
一般人向けの食堂も居酒屋も、貴族向けのレストランも予約殺到とは聞いています。でも、調味料も売っているから自宅で料理すればいいのに、と思っていました。
「いや、見たことも食べたこともないもん、作れって無理」
うん、確かに。
だからこそ、お母様が料理教室を開いているわけですしね。
ちなみに、本日は杏仁豆腐とマンゴープリンの食べ比べです。男性の意見をもっと聞きたいとケントさんに友人を連れてきてもらったところ、婚約者連れになったのでした。一人だけで食べると、後が怖いそうです。
いえ、違いますね。
実はお兄様達、学園で「今日も可愛い」「愛してる」などなど、本人たちは冗談でやっていたとは言うものの、愛情を伝えあっていたところを何人かに目撃されていたようなのです。
お兄様は、学科としては領地運営にも関わらず、闘技大会で二年連続優勝を成し遂げましたので、嫉妬する人が続出したそうですが、憧れる人もいたそうです。そんな方々が婚約者や恋人に真似をしてみたところ、仲が改善したりより親しくなったり…。
婚約者の方々も、真似をしているだけとは知りながら、悪い気分ではないし、この状態を維持したいと、ブレンダお姉様に相談したそうです。
お姉様は、騎士になったら突然身を挺して、命を懸けて、貴人を守らないとならない場面があるかもしれないのだから、喧嘩別れなんてしたらダメ、と言ったらしいです。
別れ際には必ず笑顔で見送るようになったら、喧嘩自体が減ってラブラブに。
つまり、今日連れてきたのはそんな仲良しさんだからです。
ちなみに。なぜかお兄様の真似をするディラン王子の耳にも入り、エルシリア様に同じように優しく接し始めるとブームにでもなったかのような広がりをみせ、結果婚約者同士の仲が良くなり、それを見たまだ婚約していない人たちがうらやましくなり新たに婚約を決めたため、普段ならなかなか婚約が調わない騎士科の貴族の次男以下の方たちから有難がられ、嫉妬していた人が一人また一人と消えていったそうです。
騎士科の人たちからすると、婚約は決まるわ、婚約者は可愛いわ、良いこと尽くめだったって。
文官の方たちも、そんな感じらしいのですが、政略結婚の多い領地運営ではあまり変化はないようです。ディラン王子を真似しないんですね。
「あ、これは料理長にレシピを渡してありますから」
「なるほど」
ちょっと眉間に皺を作っていたディラン殿下の表情が緩みました。相変わらずのシスコンぶりです。オリヴィア姫に食べさせたかったようです。そこまで気に入っていただけたのなら、これは合格ですね。
「あ、あとサンドイッチもあります」
杏仁豆腐とマンゴープリンだけではお腹がふくれませんからね。
因みに、具はハムカツや厚焼き玉子と食事っぽいチョイスです。騎士科の授業の後にはちょうどいいかと思ったのですが、婚約者さんには重たいかもしれません。
「いえ、いただきます」
一応入れ物も用意しました。女子用に一口サイズにしたので、半分は持ち帰りにでもと渡すと、ほっとしています。寮で友人と食べるとか。
多目に作ったプリンはそれぞれ各一つずつ渡すことにしました。……おやつにしようかと目論んでいたんですけれど、やめておきました。一人でこっそり食べるには罪悪感がありすぎます。
市場調査と人脈づくりを兼ねての試食です。実際に販売するかはまだまだ分かりません。お父様が大変だし。
元文官の人や軍の関係者、薬師が領地に来てくれたので、のんびりした日を過ごせることも増えたのですが、もう少しのんびりしてほしいかなぁ、と思ってしまいます。




