宰相の憂鬱━━その10
随分とご無沙汰しております(;^_^A
今更ムーニー男爵家がサザランド伯爵家に謝罪した。
次男がオアーゼ王国の元聖女と結婚したことにより、色々とおかしな点に気付いたということのようだ。
それはそれとして。
何故、アルフは私に丸投げするのか。いや、まあ。国の役に立ててくれ、という有難い申し出なのだが、「面倒臭いのだろう?」と聞けば目を逸らされた。意外と正直者なのだな、とため息が出た。
そして有難くアルフやミアのアイデアを使ってみたところ、パトリツィア様直々に一度訪れたいと言い出したようで、オアーゼ王国側から泣きつかれた。
仕方なく「距離が離れていてパトリツィア様が来られない分、オアーゼ王国の取引量を増やそうかとサザランド伯爵と話を詰めているところだ」と、教会の人員増員への感謝を述べるとともに伝えれば、渋々国に留まることにしていた。
ハンナには色々と料理や調味料を揃えるように伝えたが、「どうせなら好きなものをあげたいわ」とパトリツィア様の好物を聞かれ、こちらから問い合わせれば、魔法陣を使った長文が届けられた。
長文の中身は料理名だった。
「……カトリーナも食にこだわっていたな」
「元王女もハンナの料理に詳しいってことだよね」
「あちらは料理が出来るらしいが、公爵夫人が料理はさせてもらえないだろうな」
ジョセフがしみじみと呟き、オーウェンが「いいなぁ」とその長文を見ている。
とりあえず明日ハンナにこの長文を渡してもらうつもりだが、我々がまだ口にしていない料理名も多い。
「これは、我々も食しておく必要があるよな?」
何かのやり取りの際にパトリツィア様に渡した料理を知らないのはよくないだろう。
「え?それってこの色々な料理を食べられるってこと?!」
「……まあ、食べ方くらいは知っておいた方がいいだろうが、ハンナに負担がかからないか?」
「一応打診しておいてくれ」
今回ハンナにこの長文を渡すのはジョセフに任せている。
先日いつもの料理教室が終わったばかりで、ソフィアには託せなかったし、早めに渡したかったからだ。
「もう、そういった気遣いはしなくとも大丈夫だとは思うがな」
「そういえば、軍の演習をサザランド領で行っているそうだが、どんな感じだ?」
「ああ。概ね好評だな。指揮官も演習生たちも、旨い食事に魔晶石も使えるからな」
ミアがどうやってあの仕組みを作り出したのか。聞いては見たものの、「えいってやって」と曖昧な表現だったため、さっぱり分からなかったが。
「……ミアがサザランドから出ても使えるのか?あれは」
「アルフが作った過程を見てはいるが、新たには作り出せないと言っていたよ。魔力量が違うからな。今あるものを使うのは問題ないそうだ」
「運営に問題がないのならそれでいいが……たまに実家に帰すようだな」
「領地で収穫祭やら色々やっているだろう?我が家もいっているしジョセフの所も参加しているのだから、ミアもジョシアと参加すればいいだけだろう」
「そうなんだがな。キンバリーに利益がありすぎてな、向こうに悪くないか?」
「アントンたちは気にしていないだろう。そもそも、こんなことになる前に決まった婚約だしな」
ミアとジョシアの仲睦まじさを知っている身としては、横槍が入ることの方が問題だと思うが。そんなことになったら、サザランド伯爵家は一家で、更にジョシアとカトリーナが手を尽くすだろう。……どんな展開になるのか不安しかない。
「それにしても。あれの養女申請を認めたのか」
「書類に不備がないのに取り下げられないからな」
「え?あれ?」
「回復魔法のあれだよ」
オーウェンが、「ああ、あれね」と肩を竦める。
私から見たら、どちらも泥舟なのだが、何か考えでもあるのか。まだまだ悩みは尽きない。
パトリツィア様の所望した料理を試食することを楽しみに、難題を乗り越えるか。仕方がない。




