『あな恋』の少女その3
一ヶ月。
入学式から一ヶ月たったのに、未だにディラン達の誰ともまともに話せていない。
女子からは相変わらずぶつかられるいじめを受けているけど、ディラン達との仲が発展しないことには、話を進めようがない。
そうこうしていると、男爵家から週末に来いと連絡が来た。
「……これで全員揃ったな」
え?何?
なんで男爵じゃない人が偉そうなの?
「モモ!静かに!」
え?どうしたのよ、お父さん。
「ほう。私が男爵ではないと?」
「え?だって男爵はそこの人でしょ」
私が指さしたのは、男爵領でいつも会っていた男爵だ。お父さんと色々話して計画だって練っていたんだから、見忘れるわけないわ。
「あれは私の弟で、私が王都で社交や仕事をして、男爵領のことを任せていたのだよ」
「え?じゃあ私の養父って?」
「私だが、そのことで今日は話がある」
心なしかお父さんも、男爵の弟も項垂れているみたい。え?なんで?
「君たちの不正が発覚してね。もう弟には領地を任せられないから、次男を領地に呼び寄せることにしたよ」
「はあ?不正?」
「魔力検査会でのことだよ。教会の人間が検査内容を偽って報告していたことが分かった」
魔力検査会って、あのどっかの商人の子が私よりも魔力があるって光ったあれね。
ヒロインの私がかすむようなモブなんて要らないわよ。
「彼女が稀有な属性や魔力量でね。それが他領に流出したのは手痛い」
「そんなの、私の回復に比べたらなんてことないわ」
「……君程度ならそこまで希少でもないんだよ」
この男!私がディランやザックリーやジョシア、ブレントと結婚したら絶対に許さない!!たかだか男爵じゃない。
でも、そうね。それだとケントは攻略から外さないと駄目ね。
デリックは国が違うし、こっちも除外かなぁ。
「すでに支払っている今年度分の学園の費用は、こちらの勉強代と思うことにしよう。来年度からはムーニーの者ではない。費用が支払えないのならば、学園を去るように」
「そんな!」
だって、私がヒロインなのよ?希少な回復魔法の持ち主なのよ?
私が男爵を睨んでいると、ノックの後に男爵が許可を出し、一組の若い男女が入ってきた。
「君とは違い、すでに男爵領で回復魔法を使ってもらっている」
「……あなたが回復魔法の使い手?全然魔力もないみたいだけど」
「なっ」
「まるで努力していないのね。赤く光らせたのなら、今頃もっと魔力量が高いはずよ」
何なのよこの女!
私が思わず右手を振り上げると、隣の男が私の手首を掴んだ。
「いたっ」
「彼女に手を出すと、国際問題になるかもしれないんでね。なにしろオアーゼ王国パトリツィア王女と共に聖女の一人だったしね」
「……聖女?」
「まあ、私はパトリツィア様みたいに、御伽噺レベルの回復魔法なんて使えませんけど」
「それでも魔物退治をする部隊からの人気は凄かったじゃないか」
オアーゼ王国?パトリツィア王女?なにそれ。聖女って他の国でもそういう存在がいるの?
「……君はあまり勉強もしていないようだね。なんのための積立金だと思っていたのか。領民がためていたものを使っているというのに、ありがたがることもないしな」
「何言ってるのよ!そんなの、あとで国からお金がもらえるって知ってるのよ?ちょっとの間だけ立て替えるだけのくせに、恩着せがましいわ」
私は席を立つとお父さんを連れて男爵家をあとにした。
男爵の弟だという男とその一家は、家からも領地からも立ち退かされたらしいけど、そんなの私のせいじゃないし、もうどうでもいいわ。
問題は、来年度からのことだけど、これはお父さんが素早かった。
ある侯爵家と上手く話をつけて、今度は養女とはいえ侯爵令嬢になったのよ。
あんな男爵たちなんて、いつでもつぶせるんだから。




