一年生その1
とうとう、私も学園に入学です。
お母様もカトリーナ様も、未だにゲームの内容を教えてくれません。気にせず、青春を謳歌しなさいとのことです。
前世では中学に入学したところまでしか記憶がないので、多分今の私の方が年齢は上になったはず。なのに、今の方が幼いような……。
お兄様がしっかりしてて手がかからなかった分、お母様もお父様も私を甘やかしたせいです。そこに更にお兄様も甘やかす側に加わり……良く我が儘な女の子にならなかったと思います。危ないところでした。
近所に私よりも小さい子達がいて、私も甘やかす側にまわれたからに違いありません。今だと、従兄弟の子供達━━コーディとマイラがいますもの。
そのマイラに泣かれ、コーディも普段よりベタベタに甘えて来て、更にシロは私の側に付きっきりで、大変でした。
寮に向かう前の三日間は、夜寝るときに二人と一匹がベッドに入ってきたほど。ジョシアには秘密にしていますけれど。
「完成ですわ」
お兄様と同じで、私も侍女や従者を連れてきていないので、自分のことは自分でします。サイドの髪を編み込み、ハーフアップにしています。
制服は、ジャンパースカートと丸襟ブラウスです。
ジャンパースカートは、足首あたりまでとかなり長く、それはこちらの世界らしいなと思います。
色はパステルカラーのブルーかピンクかグリーンから好きな色を選べるので、貴族の令嬢達は気分でその日着る色を選んだりするらしいです。正装の時は、丸襟のブラウスに同色のリボンをします。そして、ボレロを羽織ります。
私はピンクが似合わなかったので、ブルーとグリーンだけを二着ずつ持っています。
一般人の中でも、特待生の子達は、各色一つずつ学園から配布されます。季節ごとに新しいものと交換なので、育ち盛りの年齢でも問題ないようです。
男子の正装は……うん、普通の学生服ですね。学ランではなくてジャケットタイプの学生服です。そもそも正装は、入学式や卒業式に使うだけなので、特待生はその時ジャケットだけ借りているようです。
前世の学生服との違いと言えば、ボタンとか高価な物を使っているくらいですか?それでもこの世界では、一般人が普段そんなの着てられないと思います。
色は三色、グレー、濃紺、モスグリーンですね。普段はジャケットではなく、セーターやカーディガンでいいそうです。
あ、ジャケット以外は卒業後に文官武官ともに仕事場に着ていけるそうです。奨学生はありがたいらしいですわ。
慌てなくていいように、少し早めに寮の部屋を出ました。それでも、廊下にも寮の玄関にも人がうようよいます。
通勤ラッシュの駅のようです。懐かしいけれど味わいたくない世界です。
「ミア様」
名前を呼ばれて振り向くと、すでにエルシリア様とステイシー様がいました。待ち合わせていたのですが、どうやら私が最後のようです。
「お待たせいたしました」
「それでは参りましょうか」
「はい」
女子と男子の寮は離れているので、ジョシア達とは別行動です。そうは言っても向かう式場は一緒なので、向かう途中で、声をかけられました。
「ミア!」
「ジョシア」
ジョシアに、ザックリー様とディラン様、ブレント様もいました。
ディラン様とブレント様を除き、私達はここ最近、お母様の料理教室の度に会っていました。
その時に家にいれば、お兄様が色々と勉強を教えてくれていたのですが、そのため成績が上がった私達にディラン様は危機感を覚えて、「私もアルフに習いたい」と言い出して、結局王城で揃って教わる機会を設けることになりました。
お兄様は、前世の記憶があるからか、教え方が上手で、ディランさまの家庭教師が自信を無くしたそうです。それでも、貴族や他国のことなど、王族に必要な知識はわからないから、とお兄様がフォローを入れて、現在も家庭教師をしているそうです。
若干お兄様が疲れていたので、多分色々教えられるけど、家庭教師の仕事を残しておいたんじゃないかと思います。
そんなこんなで、私達五人は満点で試験に受かり、ディラン様はほっとしています。ええ、ステイシー様が数問間違えて、満点ではなかったのです。それでも例年ならトップ合格みたいですけど。ブレント様はお兄様には教わっていませんが、ステイシー様と変わらないほどの成績だったようです。
自然と婚約者同士で並んで歩き出すと。
「今日も仲がいいな」
ブレント様が若干呆れています。あら、仲がいいのは良いことですわ。
「ブレント様は、婚約者とご一緒ではないのですか?」
「まだ婚約者がいないんだ」
こんな会話をしながらホールへ向かいます。
ディラン様の側にはブルーノさんとクレイグさんがいて、護衛をしています。今日は入学式で生徒以外も参加するので、二人がいるそうです。
安心ですね、と思っていると━━
「キャーどいてどいて!」
背後から慌ただしい足音と声が聞こえ、思わず、とっさに、魔法を使ってしまいました。
「キャー危ない!………ぐえっ」
私が思わず張った結界は透明だったため、境目が見えなくて、慌ただしいその女の子は突っ込んできて、ベタンとぶつかって止まった。
漏れた声がちょっとカエルみたいだなんて思ってしまいました。ぐえって言ったんだもん。
あっ。思わず魔法を使ってしまいましたが、どうしよう。と思ったら、ブルーノさんが一歩前に出ます。
「殿下に怪我をさせる危険があったので、結界を張らせてもらったよ。君も、危ないから自分で止まれない早さで走らないように」
ブルーノさんが女の子に話している間に、クレイグさんに誘導されて私達はホールへ向かいます。
私の魔法は、どうやらブルーノさんが使ったことにするようです。ブレント様が何か言いたそうに私を見ましたが、今はここから離れたいです。
「……なんなんだ?あれは」
「関わらずにいた方がいいでしょうね」
「当たり前だ」
三人とも眉間に皺が出来ています。
私はと言えば、久々に見たあの髪色に、どうしても不安になってしまう。
分かっていたけれど、彼女もこの学園に通うのだ、と。
━━モモ・ムーニー男爵令嬢。
きっと転生者なヒロインだ。




