深窓の令嬢その1
今日の王子とのお茶会のお菓子は、事前にお願いしてボーロというお菓子になりました。
食べやすいようにと、丸型ではなく、とても短いですがスティック状です。
クッキーのようにつまめて、一口サイズと、子供やわたくし達のような少女を含め女性にも嬉しい形状となっています。
小さい子どもでも手にしやすいそうです。口に入れてすぐに溶けるので、喉に詰まらせる心配もないのだとか。
サザランド伯爵家では、子どものためにお菓子も考えるのですね。
わたくしとディラン王子は、婚約者とは言っても、ミア様とジョシア様みたいに仲睦まじくもなく。ステイシー様とザックリー様みたいに、徐々に距離が縮まるようにも感じられず。
貴族の婚約ですから仕方ないのかもしれせんが、二組に加えてミア様のお兄様のアルフ様とブレンダ様を見てしまえば、わたくしも羨ましく感じてしまいます。
本日も、最近国を訪れる各国の対応について、陛下のご意向からわたくし達の役割など、まるで連絡事項ですわね。
それをお茶会と称しているだけです。
しばらくして、止めようとしている侍女の声と、いやっというおそらく姫の声が聞こえます。
どうやら二人のお茶会の終了です。
トテトテと走ってきて、パタンと転びました。ガタッとディラン王子が立ち上がりましたが、姫様は泣き出すことなく立ち上がると、再びトテトテと走って来ました。
「ん!」
テーブルの上のお皿に手を伸ばして、けれども届かないのでむっとされます。
「オリヴィア様、摘まむ前に手を洗いましょう」
「や!食べるの!」
侍女の言葉にバンバンとテーブルを叩きますが、だからと言ってお菓子に手は届きません。
私は一つ摘まむと姫様の口の前に持ってきます。
「はい、あ~ん」
「あ~ん」
姫様が大きく口を開けたので一つ口にいれると、とたんに目がキラキラします。どうやら美味しかったようです。
「ん!」
もっと食べたいのでしょう。更にテーブルを叩くので、私が「手を洗ったらもっと召し上がれますよ」と言えば、侍女に両手を差し出します。
少し頑固なところもありますが、姫様は素直ですわね。
手を洗い終わると、さも当然とばかりにわたくしの膝の上に座りました。
あらあら。どうやらご自身で手にするつもりです。
ディラン王子が手にしているものに見向きもしません。
わたくしがお皿を姫様の前に引き寄せると、鷲掴みしたので、その手をとめます。
「オリヴィア様。これは一つずつつまんで食べると先程みたいに口の中でサックリしたあと溶けて美味しいのですわ」
「ん!」
分かった、と短く頷き、姫様は一つだけ手にして、口にします。
美味しさから、わたくしの膝の上で体を左右に揺すります。可愛らしいですわね。
わたくしの弟は二歳しか下ではないので、こんなに可愛い時期を覚えていません。
「ん!」
「あら、いただけるのですね」
姫様が「あ~ん」とわたくしの口に向けるので、ボーロをいただきます。ガタッと音が聞こえたので、またディラン王子が立ち上がったのでしょうか。
「美味しいですわ。ありがとうございます」
「はい」
「あら、ディラン王子も召し上がりたいみたいですわ」
「ん!」
姫様はわたくしの膝から降りて、テーブルの反対側のディラン王子の膝の上に座りました。
わたくしは姫様が取りやすくなるようにお皿をディラン王子の方へ置きなおしました。
それからは、姫様があ~んしたりされたりと、兄妹の仲睦まじい様子を眺めながらお茶を飲みました。
帰り際にディラン王子にお礼を言われました。姫様には抱きつかれ、泣かれました。お二人に楽しんでいただけたようです。
ミア様の案は、正解ですわね。
ザックリー様とステイシー様のように、少しずつ仲良くなれますかしら。
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