D&D━━その7
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
今日も言動を真似して淑女のレッスンです。
いえ、本当はお母さん……お母様による料理教室なのですが、ついでに私とステイシー様の令嬢としての勉強会ともなっています。
先生は、ライトフット公爵夫人ソフィア様、スクリヴァン公爵夫人シェリル様、キンバリー侯爵夫人カトリーナさん……カトリーナ様です。
お母様は料理を教えていますし、ギボン辺境伯夫人イヴェット様は、こういったことは苦手とおっしゃって、クッキーをつまみながら見ているだけです。モルトハウス伯爵夫人ビアトリス様は、私が口出しするなんて、とおっしゃってイヴェット様とお茶しています。ブレンダお姉様は学園です。
先ほどから私たちに真似されているエルシリア様が、段々と顔が引きつってきています。真似しすぎでしたか。
ここは王都のタウンハウス、とは言ってもサザランド伯爵家のではなく、キンバリー侯爵家のタウンハウスです。だって家、そんなに広くないのですもの。
来ている料理人だけでもギリギリとはいえ二桁ですからね。
一家族一人の料理人なのですが、王城だけ五人も送り込んできました。パーティとかで沢山作るので、料理できる人が必要らしいです。
「思うんだけど、ミアちゃんはもう敬語でいいんじゃないかしら?」
「カトリーナ、そうやって甘やかしては駄目ですよ。侯爵夫人になったら、伯爵家に敬語を使ってはいけないのですし……」
「学園では子爵家や男爵家とも関わりますからね。目上の爵位にのみ敬語ならばともかく、全員に敬語はいけませんわ」
「……頑張ります」
こうして私達はお茶会のていでまた話し始めますが、如何せん私とステイシー様も共通の話題は多くなく、エルシリア様となると全く何を話してよいのか分かりません。
「そう言えば。エルシリア様はディラン王子と良くお茶会されるのですか?」
「え?ええ。月に何度か王城でお会いしますわ」
「オリヴィア姫は……お茶会はまだ早いですよね」
「え?ええ。でも、毎回途中からいらっしゃって。ただ、小さい子供とは食べられる物も違いますから……」
「子供って、同じものを欲しがりますよねぇ」
カフェインが駄目だからって一人ほかの飲み物を用意すると拗ねますよね。きっとお茶会のお菓子もそうかな?美味しそうって手を伸ばしたら周りのみんなに止められていじけていそう。ほっぺたぷーって膨らませてね、ふふふ。
「……笑い事ではないのですわ」
「ふふふ。それなら一緒に食べられる物にしたらよろしいのですわ」
「……え?」
領地では、従兄弟の子供をはじめ、小さい子供もいて、子供用にとコメットさんが前世の記憶から子供のおやつを色々形にしています。三人育て上げたって言っていました。その成果だそうです。
子供と触れ合う機会の多い、先生役のマーガレットさんからも評判がいいです。
「あの。そのレシピは……」
「え?王城に知らせて……ない、かしら?あ、領民のレシピだから伝えていないかも……」
これはコメットさんに確認を取らないとなりません。
「一応確認しておきますね。レシピが駄目でもそのものをお渡しできるかもしれませんし」
「ミアちゃん、ちなみにそのおやつはなあに?」
私たち三人の会話には入らないはずのカトリーナ様がにこにこと笑っています。言外に私も食べると言っている気がします。
「ボーロやソフトせんべいですよ?ちっちゃい子用なので味も薄いですし、大人は大人のものを」
「でもボーロは今までなかったわよね?」
食べる気満々です。ええと、話を戻しましょう。
「あとで確認してから連絡しますね」
「ええ、お願いしますわ」
エルシリア様にぎゅっと手を握られました。
ちゃんとコメットさんやお母様に話を通したところ、臨時の料理教室が急遽組まれました。




