宰相の憂鬱━━その8
朝っぱらからオーウェンに呼び出されて行けば、神託が下ったとのことだ。
何を馬鹿なことをと思ったが、直ぐにオアーゼ王国にある教会本部から遠話の魔道具により連絡があり、サザランド伯爵領の教会に、朝夕二回供物を捧げよとのことだった。
オーウェンが言った神託と内容が同じで、粛々と受け止めざるを得なかった。
「……俺、ちゃんと言ったのに」
「すでにサザランド伯爵は供物を捧げているようだ」
教会本部とのやり取りの直ぐ後に、サザランド伯爵に連絡をとれば、今朝から納めているとのこと。
まさか百年近くなかった神託が、オーウェンに下ったとはな。これで反国王派は悔しがるだろう。なにしろ教会本部が、今回の神託を公にしたのだ。
反国王派と言っても単純に全てのことに駄目出しをするだけで、代替え案一つ出さない派閥だが。以前王女が降嫁した家だから、妙なプライドで突っかかってくるだけだ。
「他国から問い合わせが来るだろうな」
「神と同じものを食したいって?俺だって滅多に食べられないのに!」
「王城の料理長への講習を引き受けてくれたからな。これから食べられる頻度があがるんだから、そう苛つくな」
「……ライトフット家も料理長を派遣するんだろ?」
「他にも、キンバリー侯爵家やギボン辺境伯、モルトハウス伯爵家だな」
「……全部サザランド伯爵と繋がりがあるところか?」
「キンバリー侯爵家とモルトハウス伯爵家はそうだな。ギボン辺境伯はステイシーが家のザックリーに嫁ぐからだろう。
ディラン王子の婚約者の家はどうするのかと確認が来たから、頼んでおいた。王城の料理長とともに向かうことになっている」
「食べ方をマスターしないとな。食べなれていないと思われても困る」
「あとはどの順に受け入れるかだが。今のところ決まっている大使との謁見をそのまま行う。大使に土産を持たせればいいだろう」
それとは別に、問い合わせのあった国は日持ちのするものを送り届けるつもりだが、その相談をハンナとしなければならないだろう。
それとも魔道具を使って、保存したまま届けるか。
他にも何かいい手がないか聞くか。
「アントンが死に体だよ」
「……領民を集めないとやっていけないと言っていたな」
今は夏休みでアルフの手伝いがあり、人間らしい生活を送れているそうだ。
「領民かぁ。あそこは審査が厳しいからなぁ」
「ミアや甥の子供が小さいからな。慎重になるのだろう」
「……文官とか、辞めないよね?」
「チェスター博士のご子息が手伝うために辞めたな」
「ああ。博士が移住しているから仕方ないか」
「その伝伝で、引退した文官が十数人移住する」
「え?そんなに?」
「武官も、クレイグの伝で移住が決まったのがいたな」
「……まあ、サザランド伯爵は伝がないからしょうがないよね」
「幸い、現役ではなく引退した者だからな」
あまりにもアントンが疲れきっていて、周りが心配して自主的に動いたらしい。
それにダンジョンの調査で、冒険者ギルドに雇われていた冒険者が、ダンジョンの側でも構わないから移住したいと打診されたそうだ。
サザランド伯爵領に既に移住している者も、知り合いに勧めたりしているらしい。
「……スラムから連れていってはくれないかぁ」
「領民募集した時に、他領のスパイが混じっていたからな。難しいだろう」
移住者のための領都拡張計画が出されており、ブルーノの貸し出しを打診された。
ダンジョンの魔力による魔晶石の補充が魅力的なため、貸し出しは決定している。
「別にブルーノが行かなくても、ミア嬢がやれちゃうんじゃないの?」
「……ミアの実力を隠したいのだろうよ」
「いやいや。ダンジョンでの暴れっぷりから無意味だよね?」
サザランド伯爵家との繋がりがあるクレイグを向かわせたが、他の者たちは軍の者だった。
その彼らがミアの実力に驚愕していたのだ。
一応守秘義務があると他言無用だと言っておいたが。
「……料理長が採取物を見て、途方にくれていたな」
「どう料理していいのか分からないんだっけ?」
「サザランド伯爵家でも試作段階だから仕方ない」
最近のサザランド伯爵家の運営する食堂やパン屋、スイーツショップの料理に自信をなくしている料理長には、今回の件は追い打ちをかけているようで、いつ講習を受けられるのかと毎日のように聞かれている。
取り敢えず、再来週からに決まった。アルフの学校が始まる頃だ。
「美味しいものを食べられるんだなぁ」
「……移住されなければな」
「え?」
なんとも頭の痛い問題だ




