D&D━━その5
ダンジョンの調査が終わって領都に帰ると、すでに教会に朝夕二回供物を捧げていました。神様やることが早いです。
何でも神託が下されたのが百数年ぶりらしく、色々騒がしかったみたいです。その内容がまさかのおねだりとは。ビミョーな感じがしますけど。
「これが採取したのと、ドロップアイテム」
「アーモンドにカカオに胡椒ね。肉類は豊富ね」
「ロック鳥の卵もあるよ」
蟹も海老もあります。食材の宝石箱ですね。
「う~ん、お茶も色々な種類が手に入ったのね」
「抹茶も烏龍茶もありますよ」
コメットさんが私が調理台の上に並べていった食材を腕を組みながら見ています。
「ココナッツっぽいのはとる時間がなかったの」
「まぁ、それはおいおいね」
「沼地に蓮根があったのは鑑定出来たんだけど」
調査に来た人とは別に、私のメモも実はあります。全部とるのは時間の都合で無理そうだったので、?マークのものは後日確認が必要ですけど。
珍しいものをサザランド伯爵領以外の人がいるのに、とったりしたら秘密になりませんからね。
あんなに暴走モードだったのに調べられるのかって思われるかもしれませんが、それこそ狙いなのです。
じっと見ていたら他の人まで鑑定してしまうかもしれないので、パパッと鑑定しながらはしゃいでました。
「サザランド伯爵領として、詳しい調査をもう一度しないの?ミアちゃん必須でね。
他の人じゃあ、分からないでしょう?」
「……」
「えっと。お母さん?」
コメットさんと話しながら、私はお母さんの膝の上に捕獲されています。
お兄ちゃんからダンジョン内の様子を聞いたお母さんは、それから私を放してくれません。
お風呂も久しぶりに一緒に入ったし、夜のベッドも一緒でした。
「ミアは女の子なのよ?」
「調査書を見てくれたら分かると思うけど、十階までは採取がメインで、たいした魔物もいないから」
「……十階までで済むの?」
「……お兄ちゃんと一緒でも駄目?」
「ワイバーンなんて駄目に決まっているでしょう?!」
正論なのですけれど。ワイバーンは美味しいらしいんです。今のところ時間を止める魔道具の中で待機中ですけど。唐揚げ食べたいなぁ。
「お兄ちゃん、ドラゴンも倒せるのに」
「それはそうだけど……」
「レベルがどれくらいになったらいいの?」
「そういう問題じゃないでしょ?」
お母さんが心配性です。
私の体感では、余程の無茶をしなければ、無理なく攻略出来るダンジョンなんですけどね。
「う~ん。お母さんの許可制で、下りていい階数を決めて?それ以上は下りないから」
「……だんだん慣らすのね?」
「蓮根は食べたいし」
「……アルフと一緒よ?私が言った階より下に行ったら、二度と行かせないわよ?」
「うん」
「……仕方ないわね。えっと、調査書調査書」
お母さんが安全な階数を調査書で確認しています。十階までは下りたいなあ。採取出来るものを確認したい。
「……確かに十階までは採取がメインね。じゃあしばらくはアルフと一緒に十階までよ」
「はい!」
これでちゃんと確認出来ます!
調味料の材料以外にも、なにやら野菜や茸があったんですけど、鑑定しきれなかったんです。
「アルフ君もいたら安心だね。ミアちゃんが行かないと、食材の見落としがありそうだから、ほっとしたわ」
「……まあ、アルフには無理だしね」
いかに鑑定スキルがあるとしても、それを鑑定しなければ分からないので、そこにセンスが必要ですよね。
お兄ちゃんは料理する側ではないので、苦手かと思われます。
「マンゴーもとりそびれちゃった」
「今度はもう少し長めに潜る?」
「うん。もっと詳しく調べたいかなぁ」
今回持ち帰ったものだけでも種類は多いのですが、他にもまだあったんです。
腕さえあれば料理に困らないってお願いを叶えてもらっちゃった気がします。
まぁ、十中八九、神様本人が美味しいものを食べたかったからだと思うんですけどね。
「国王様がね、神様がどのようなものを召し上がっていらっしゃるか知る必要があるって言い出しているのよ」
「それ、食べたいだけですよね」
「いい体裁が出来たってわけよ」
月に何度か王城の料理長が、タウンハウスでお母さんに習うことになったそうです。
神託が下されたことは教皇様が明らかにしたそうで、国内外の教会関係者や信仰心の強い方がサザランド伯爵領に興味津々らしいです。
かといって、ウチは国内外問わず、上流貴族をもてなしたことがないし、余裕もないので、国王様が代わりに迎えるためにもいくつかの料理が必要なんだとか。
国内の人は王都のパン屋や食堂などにすでに来ていますが、それとこれとは別みたいです。
「……王城の料理長だけ?」
「公爵家も侯爵家も来るわよ。未来のお嫁さんのところもね」
「ステイシーやディラン王子の婚約者のところは?」
「辺境伯は呼びましょう。王子のフィアンセは、聞いてからの方がいいわね」
どうやら講習会は規模が大きくなりそうです。
「さぁてと。まずはこのカカオをチョコレートにしないとね」
「蜂蜜も最高級品でしょう?」
「ワイバーンのお肉を唐揚げにして食べたいの」
「明日の夕御飯ね」
「マジックボアを味噌漬けにする?」
「ロック鳥の照り焼きも捨てがたいわ」
ワイバーンは食べられそうなので、あとはお母さんとコメットさんにお任せです。
ふわぁ。ちょっと眠いです。
「ミアちゃんは、休んだ方がいいんじゃない?」
「はい。お休みなさい」
二人に挨拶して、お昼寝です。
起きたら山のように様々な料理が出来上がっていました。




