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出番ですか?  作者: 五月女ハギ
D&D
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兵士は見た━━その2

「アーモンドだ!」

「おい、ミア!」

「あっちはカカオ?チョコレートきたー!」

「ミア、待て!」


 ……なんとか止めようとするアルフ様だが、ミア様は暴走している。

 おかしいな。確か魔術省の人間に、ミア様は攻撃魔法が使えないと聞いたことがあったはずなのだが、ダンジョンに入ってから風魔法を使いまくり、魔物を倒してはアイテムを獲得している。

 たまに魔物ではなくダンジョンに育っている植物も採取しているが、何なのだろうか?


「あ、今の胡椒だったんだ!」

「ミア!いい加減に落ち着け!」


 アルフ様が首根っこをつかまえている。


「お兄ちゃん、ここ凄いね」

「……凄いのは分かったから、おとなしくしておけ。ダンジョンなんだから罠もあるかもしれないんだ」

「……え?」

「罠だよ罠。だからおとなしく、な?」

「……はい」


 そこからやっとミア様はおとなしくなった。

 ダンジョンに入る前に、危ないからと俺達や冒険者ギルドの人間や、もちろん領民の元冒険者にも防御が上がる魔法をあれこれ付加してくれていたのだが、まだ魔力があるのか。


 そんなこんなで、二泊して下りていった。

 安全地帯に入るまで、毎日ミア様は初日のテンションで魔物を倒しまくる。アルフ様が罠があると言ってからは、勝手に走り回ることはなくなったものの、現れる魔物を片っ端から片付けていく。

 護衛を兼ねていた俺達は、出る幕もなかった。


「あっという間に二十五階?」

「始めの方は初心者向けだったけどな」


 角兎やボア、トレントがいた。

 蜂の群を倒して、蜂蜜とプロポリスを入手している。魔物化した蜂のため、普通の蜂よりも大きいが、ミア様が結界を張り、その中に煙を充満させて倒していた。

 ……そんな退治方法があったのか。

 二泊したのに、ミア様は魔物を目にすると相変わらずのテンションで、瞬殺していく。


「そろそろダンジョンボスにならないか?」

「ミア。こっちの安全地帯で休憩だ」

「はい」


 魔物がいないと素直だ。目線がチラチラと植物を見ているが、手をアルフ様に向けて伸ばしている。

 それをアルフ様がとると、周りの誰もが安堵の息を吐いた。


「どの階に何がいたか、書いていきます」

「採取した物も書いて欲しいです」


 ミア様はあんなテンションだったのにも関わらず、どの階で何を倒したか、明確に覚えていた。とった物まで。

 初日の暴走でも覚えていた。なのでダンジョンの調査に問題はなかったのだが。


「ダンジョン内に海もあるんだね」

「たださ、サザランドには海があるから、有り難みは低いかな」

「うん。それより胡椒とかだよね」

「カカオがとれたから……ここからチョコに加工か」

「ちゃんとチョコレートに出来たら、貿易品になるのかなあ」

「だろうな」

「胡椒がとれるから、王国軍の演習のついでに国王様たちの胡椒をとって行って貰う?」

「そうだな。ここのもので旨いものが出来たら、その方法がいけるんじゃないか?」

「他の領地の私兵の訓練も受け入れたら、溢れることもないかな?」

「そうだな。それも考えるか。そっちは魔晶石の補充はなしだけどな」


 ……サザランド伯爵家の思惑が目の前で練られているんだが。

 飯が旨いと評判のサザランド伯爵領とは言え、ここは僻地だから期待出来ないな。


「お母さんとコメットさんにお願いして、料理人を育てないと」

「二泊……更にもう一泊するとして、携帯食の開発か」

「三日分の食事が入るアイテムボックスっていうか袋を作る?そうしたらスープとサンドイッチやバーガーを入れればいいよね?」

「ダンジョンから出たら、がっつり系の食堂が欲しいだろうな」

「やっぱり料理人を育てないと。元冒険者だと強いから安心なんだけどなぁ」

「引退を考えている冒険者か。なんとかならないかな」


 二人の話を聞き逃すまいと冒険者ギルドの調査に参加している冒険者が、耳を傾けている。

 いや、兵士の中にも何人かいるな。


「よし、そろそろ行くぞ!」


 クレイグ様が出発を告げる。

 皆が陣形を整えながら進めば、三羽のワイバーンが現れた。


「ちょっ、ワイバーン三羽って!」

「ごちそうきたー!」


 ……は?

 いや、ワイバーンが旨いらしいという話はしていたが。ごちそうってなんだ?!

 ミア様は瞬時に竜巻を起こし、三羽のワイバーンを巻き上げる。

 ……ワイバーンが悲鳴をあげている。なんて光景だ。

 竜巻が消えてワイバーンが落ちてくると、その周りに結界が張られる。所々結界がないのはそこから斬りかかれということらしい。

 ミア様が風魔法で首を切り落とそうとしたものの、僅かに傷がついたくらいだった。


「お兄ちゃん」

「結界ちゃんと張っておけ」


 言うが早いか、アルフ様がワイバーンに向かって走って行く。元冒険者のサザランド伯爵領の領民、クレイグ様も向かって走って行った。

 いや、俺達も行かなければ!

 そう思って駆け出せば、クレイグ様とアルフ様で既に一羽片付いていた。

 ……は?!ワイバーンが一瞬で?!

 サザランド伯爵領の領民が斬りかかっているものは避けて、もう一羽のワイバーンに斬りかかる。

 一振りでなかなかの手応えがある。ミア様の魔法で切れ味がはねあがっている。


「あと一羽か!」


 領民の方は片付いていた。

 この目の前の一羽だけだ。


「よし!討伐完了!」


 最後の一振りはアルフ様だった。

 ダンジョン内の魔物なので、解体することなくアイテムを落としていく。

 今回は三羽ともワイバーンの肉を落とし、更に皮を二羽が落とした。


「……お肉、少しだけ?」


 しょんぼりとミア様が言うが、三羽倒したのだから少しだけなわけがない。一羽で軽く百人いけるだろう。


「……唐揚げ二つくらいかなぁ」

「こんなにあるのにか?」

「ん。領民みんなって考えるとそのくらい?」

「ああ、領民みんなか」


 アルフ様が納得して頷いているが、ワイバーンを領民に分ける?そんなこと普通はしないぞ?!


「月一で潜る?」

「……そうするか」


 それって月に一度領民にワイバーンを振る舞うってことか?

 ごくり、と冒険者が唾を飲む。兵士の一部もだ。あいつら引退を考えているのか。


「どうやらボスだったようだ」


 クレイグ様が言い、ワイバーンの奥にある転移陣を指す。


「戻りますか」

「そうですな」


 こうしてなんとか俺達はダンジョンの調査を終えたのだった。

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