D&D━━その4
気づけば翌日のお昼になっていました。
あれからお父さんが王都に連絡を入れると、ひょっとしたらサザランド伯爵領に新たにダンジョンが出来て、その影響ではないかという話です。
ダンジョンがなくなると、新たに他の場所に出現するらしいのです。リーコック侯爵領のダンジョンがなくなりましたから、それではないかと考えられるのでしょう。
ダンジョンが出来ると魔力が溢れて周りに影響が出るので、国際問題にならないように、他国にも連絡してあったそうです。
まさかあんなことになるとは思いませんでしたけど。
私が寝ている間のことを説明しているお兄ちゃんの肩から私が寝ているベッドに降りたシロは、なんだか落ち込んでいます。
「我が助けるべきだったのに」
シロは従兄弟の子供マイラと一緒に、教会にある保育所というか託児所というか、そこにいたので、その場にいた子供達と大人を守っていたそうです。
だから落ち込むことなんてないのに。
「ちょっと魔力にあてられただけだから」
「そうはいっても……」
ブルーノさんも大丈夫と言っていたそうなので、心配はいらないと思います。
「無理はするなよ?」
「うん」
詳しいことは良く分かりませんが、やっぱり魔力の多い場所に行ったので、その影響だそうです。おとなしく街の中にいれば、私はさほど影響を受けなかったはずだとか。
でもそうしたら、他の人たちの症状がもっと悪くなっていたはずだそうです。過剰な魔力の侵入を断ったことと、すでにあった過剰な魔力を使ったため、数日だるさを感じるくらいですんだみたい。
「お父さんとお母さんは?」
「父さんはダンジョン関連の手続きに追われてるよ」
「手続き?」
「魔力が落ち着いたら調査をして、冒険者の受付を考えないと。溢れたら大変だしな。宿とかも作らないといけないし。冒険者ギルドとも色々あるしな」
「調査はどうするの?」
「家からは俺が行くよ。あとは、クレイグさんとブルーノさん、それから軍を借りることになっている」
「私も見に行きたいな」
お兄ちゃんが顔をしかめます。駄目かなぁ。
「それにしても、あの石垣はケントさんも驚いていたよ」
「本当は万里の長城をイメージしたかったんだけど、良く知らなかったから」
ケントさんは領民になった元冒険者で、なんと日本人だった記憶がある人なんです。
領民募集のチラシの絵に惹かれてやってきたそうなので、私のおかげです。多分。
「石垣もあれで大丈夫?状態維持の魔法陣をつけないと」
「ああ。ブルーノさんが石垣を調べながら刻んでおいてくれたから大丈夫」
「調べながら?」
「この辺りにあんな石垣ないんだよ」
……私のせいですか。
「とりあえず、特に不調ではないよな?」
「うん。お腹が空いたくらい」
「サンドイッチでも持ってくるよ」
「ううん。もう起きる」
「今日は駄目だ。おとなしく寝てろよ」
お兄ちゃんが腕を組みます。どうやらおとなしくしているしかないようです。
「はぁい」
「よし。何かもらってくるよ」
私の返事を受け、お兄ちゃんが部屋を出ました。そういえばお母さんはどうしたのでしょうか。
「シロ。お母さんは?」
「ハンナは体調のすぐれない者の代わりに食事を作りに行っている」
お母さんも辛そうだったのに。大丈夫かな?
「領主一家としての役目だと言っていた」
「明日からは私もお手伝いしなきゃ」
「そのためにも今日はきちんと治さないと」
「はぁい」
シロにまでこんなこと言われるなんて。信用ないなあ。
お父さんが国と話し合った結果、調査は来週となりました。
もし、リーコック侯爵領のダンジョンみたいに初心者用もしくはそれ以上のクラスにまで対応できるダンジョンであったなら、冒険者ギルドの支部も出来るし、ダンジョンで獲れる素材によっては商業ギルドも支部を作るだろうし、やってくる冒険者や商人用の宿屋諸々の施設も必要になります。
「建設は、またブルーノ氏に頼むとして、それでも運営していくには、人手が足りなくて賄えないのが実情だ」
「また領民を増やすの?」
「ダンジョンの側となると、集まらない可能性が高いな」
もし魔物が溢れたら、一番被害が出る場所ですからね。
「そこそこ強い冒険者の募集かな?」
「ケントさん達みたいな?」
「そう。家が貰えるとなったら、少しは来るかもしれない」
「……食堂は、順番に領都の食堂で研修を受けられるってしたら、何人か来るんじゃないかしら?」
「もし、いいダンジョンなら、国にも協力してもらう?」
「ん?協力?」
「そう。だって、また溢れたらダンジョンなくなっちゃうでしょ?軍や騎士団の練習や鍛錬ってことで順番に滞在してもらって、その間の宿泊費とかはウチでもつとか」
「……そうなると、安全性は高まるか」
「国もいいダンジョンを手放せないでしょ?」
まだどんなダンジョンか調べていませんけど。どんな物が採取できて、どんな魔物がいるのかなぁ。ドラゴンは要りませんけど。
「なんだかんだで、ダンジョン次第か」
お父さんがため息をつきます。お仕事ばかりですが、大丈夫でしょうか?




