8歳━2
商店街は賑やかです。さすが侯爵領。
「絶対に手を離すなよ!」
「うん!」
こんなとこで迷子なんてごめんです。そもそも来た道を覚えてないから帰れない。
私は両手でお兄ちゃんの手を握り、商店街に入っていきました。
左右に店舗があるので、私達は人の流れに乗るように左側通行をするため、行きは左側の店舗を見ることにしました。
反対側は帰りにチェックすれば大丈夫なので。
肉屋には肉が多く置かれていました。ソーセージにサラミにベーコンも沢山。
住んでいた町の3倍は軽くあるようです。
こんなに商品が置いてあるってことは、それだけ売れるってことで。凄いなあ。
塩漬けの肉以外にも生肉もあります。生肉なんて、魔道具で冷蔵庫みたいなの使っても、2日がいいとこなはず。その量が見たことない量で圧巻です。
更にチーズ屋さんも。
ムーニー男爵領では扱ってなかった種類もあるみたい。とろけたらいいってこだわりのない私には、匂いがキツくなかったらそれでいいので、興味がサッパリないから良く分かりません。
どうやら酪農が盛んな領地みたいです。山羊のチーズもありましたし。
はぐれないように先に進むと、乾物屋さんを見つけました。店先の商品を見ると、豆類に干し椎茸に切り干し大根があります。なんて日本的な。
昆布も有りましたが、大量に買って空間収納にしまってあるので、ここでは購入見送りです。が。
「寒天?!」
産地を確認すると、東の海沿いのホースウッド産ってなっています。伯爵領でしたか。
キンバリー侯爵領は海がないから、他の領から輸入しているんだね。変わったものを取り扱っているのは不思議ですけど。
「乾物は軽いから、取り敢えず買っちゃうね」
ささっと小豆と干し椎茸と切り干し大根と寒天を購入しました。
侯爵領という大都市なので、他にも色々有りそうな予感がして、うきうきしてしまいます。
お兄ちゃんはそんな私を笑って見ていますけど、お兄ちゃんだって足取りが軽やかなので、人のことを笑えないんですよ?もう。
お菓子屋もあったけど、寒天があったのに羊羹はありません。あれ?
さっきのお店に小豆と寒天があったから、てっきり羊羹があると思ったのに。あんみつだって出来るのに。
「羊羹好き?」
「……作れるのか?」
「おばあちゃん直伝だよ」
「じゃあ作って」
話し合いながら先に進めば、魚屋がありました。けど、海がないキンバリー侯爵領は、淡水魚か干物ばかり。新巻鮭はないです。
「新巻鮭?」
干し鱈やニシン。うん、魚屋はもういいかな。
テンションが落ちつつも歩いていきます。お茶屋さんが……紅茶の茶葉を売っています。
緑茶はやっぱりないです。う~ん。
確か木は一緒で緑茶も作れるんじゃなかったかなぁ?だけど、加工前の葉っぱを買うなんておかしいし。
「小豆も寒天も切り干し大根も干し椎茸もあったんだから、よしとしよう」
「……うん」
私達は折り返し、反対側の店舗をてくてく歩いて帰るついでに確認です。
八百屋が……はっ、何だって?
「どうした?」
オリーブの実を発見しました。実があるなら、オリーブオイルが安いってことはないでしょうか?安かったら揚げ物をしやすくなるのですけど。
お、茄子があります。これは味噌田楽をしろという暗示に違いないです。
「味噌田楽か……いいな」
「味噌に成功して良かったよね。本当に」
会話しながらも並んでる野菜を見ていく。大根もある。まあ、切り干し大根があったくらいだしね。
あ、蕎麦もある。
「さすがキンバリー。種類が多いな」
「お蕎麦食べたいなぁ」
ぼそっと呟くと、お兄ちゃんが握る手の力が強くなった。
「……蕎麦?」
「しまった、道具がない」
蕎麦打ち道具が、足りないです。普通の麺棒で代用……かなり長さが足りないかな。でも食べたい。
まだ子供の体だけど、なんか打てるかもしれません。つゆはお母さんにお任せです。
「……まあ、ないなら仕方ないな」
「一回試してみようかなぁ」
「……試す?」
お兄ちゃんがちょっと怖いです。食べ物が絡むと途端にこうだ。
「蕎麦がきやガレットでもいいし」
「それはありだな。でも蕎麦がいい」
「宿では作りづらいから、材料を買うだけかなぁ」
「……はぁ。そうだな」
お兄ちゃんががっかりしています。うん、期待させる発言でごめんなさい。
今日明日でどうにか出来るものではないので、蕎麦は購入はしません。
お父さんが明日から市場か市で商売するんだし、値段を確認だけして安い方を買えばいいですから。
最後は油屋さん。
値段を確認したら、やっぱり安い。でも、市場と比べたらどうだろう?
一応値段を覚えるだけにして、今日はおしまいです。
乾物は勢いで買いましたけど、蕎麦粉の重さに我に返った結果です。うん、テンションのせいですね。仕方がなかったんですよ。
まだ5時の鐘は鳴っていなかったけど、私達は宿へと向かいました。