D&D━━その1
モルトハウス伯爵家には半月ほど滞在して、王都に帰ってきました。
国からリーコック侯爵領のダンジョンが消滅したと発表がありました。しばらくの間は、リーコック侯爵領近辺では魔獣がまだ多いとのことですが、軍から兵士が派遣されるとのことで、モルトハウス伯爵は肩の荷がおりたようです。
それからドラゴンの素材のことがあり、私達と伯爵とブレンダお姉様とで王都へ向かい、王都でお父さんと落ち合ってから宰相様達とお話し合いらしいです。
私は子供なのですが、私の空間収納にドラゴンをしまっているので、伯爵様とお父さん、お兄ちゃんと共に王城へと来ました。ブレンダお姉様はタウンハウスへ向かいました。
伯爵様がお兄ちゃんの活躍を話すと、国王様と宰相様の視線が私に向きます。え?なぜでしょう?
「ふむ。それでは、ドラゴンの素材の半分を国に納めたいと。更には販売先の選定か」
「はい」
国に対抗する意思がないことを示したい、ということです。
あと、面倒な買い取りの打診や脅迫紛いの上流貴族からの接触を避けたいんです。
「……そうだな。スクワイア王国でドラゴンなど、そうそう入手出来ぬから汚いテにでる者もいることだろう」
「して、そのドラゴンはどこだ?」
「ミアの収納に入っているので、新鮮ですよ」
お兄ちゃんがこたえますが、……新鮮って言い方はどうでしょうか?
お肉は食べるから、間違ってはいないのでしょうけど。美味しいそうです。お母さんとコメットさんにお任せしましょう、うん。
「……まさかとは思うが、血も取れるか?」
「すぐにしまったので、大丈夫じゃないでしょうか?今、出してみますか?」
首をかしげると止められました。うん、この場所で出すわけにはいきませんね。
「解体を冒険者ギルドに頼んでいるのだが、ドラゴンの解体一式の金額となると、な」
「物納では駄目なんでしょうか?」
「物納?」
「ああ。解体料金をドラゴンの素材で払うのか」
「手放してもいい素材でってなりますよね」
「……なるほど」
なんでも今回の騒動で、兵士の派遣がまだまだあるので、国庫の負担になっているそうです。
リーコック侯爵から罰金を搾り取るとのことですが、今すぐ支払えるとは限りません。
「では、素材の分配と、その物納の素材を決めるか」
宰相様がテーブルの上に、素材の一覧表を広げました。すでに国が欲しい素材には印がつけられていますが、おおむね半分と記載されています。
「冒険者ギルドには、肉と血液で支払えないか交渉してみよう。
それから、加工はどうするつもりだ?」
「サザランド家としては、しばらく素材で置いておくしか……」
「モルトハウス家は、魔獣対策に、兵士の装備を作りたく考えております」
「父さん、家も作った方がいいんじゃないか?順番としてはモルトハウス伯爵家を優先してもらって」
「……装備を作っても兵士がいないだろう?」
「元冒険者がいるから、万が一の時の備えにもなるし。そういった時には、国から派遣されている兵士に使ってもらえばいいよ」
「……そうだな。
サザランド家もモルトハウス伯爵家の後に加工していただきたいと思います」
「分かった。国の後に作らせよう」
大人のお話が順調に進んでいるようです。
私一人ついていけなくて、ぼんやりしていますが。
ドラゴンの素材で凄い薬や武器、防具が出来るらしいのですが、ピンときません。
薬だって、この世界には魔法があるのだから、何だって治せそうなのに、と不思議に思っていたら、「回復魔法が使えるのは珍しいんだよ」とお兄ちゃんに説明されました。
そういえばそうでした。自分が使えるから失念しやすいのです。
王家の分に4つは必要だと宰相様が言えば、国王様がお前に倒れられたら困ると宰相様の分も上乗せしました。国のためだからと国庫から費用が出るそうです。家も何個か作っておかないと。
分配が決まり、国が冒険者ギルドと交渉してくれることになりました。とは言え、私はドラゴンを渡しにまた来ないといけませんけど。仕方ないですね。
素材になってから、錬金術師ギルドで薬を作ってもらえるように交渉するらしいです。
これはなかなか出来ない経験なので、すんなり請けてもらえるだろうとのこと。まあ、ドラゴンの素材なんてそうそう入手出来ませんからね。
あと、何かあったかなあ。あ、そうだ。
「宰相様。片栗粉のレシピってまだ公開してはいけないのでしょうか?」
「片栗粉か」
「食糧事情にもいいかもしれませんし」
私はいももちの利便性を語ります。他にも片栗粉のとろみで冬に冷めにくいとか。色々です。
貴族だから一般人の生活なんて知るか、と言われたらそれまでなのですが国民のためなんですから、宰相様なら大丈夫だと思ったのです。
「公開しても、そう上手くはいかないだろう」
「なぜでしょうか?」
「地域によっては、パンを焼く窯や小麦をひくのに金を取る領主がいるのだよ。それを国は特に止めていない。領主の権利とも言えるからな」
「?いももちにしたら、お金を払わなくても大丈夫ですよね?」
「そうなると領主に金が入らなくなって、他の何かから金を取ることを考えるだろうな」
「……そんな」
領主もピンきりだそうです。家も以前住んでいた男爵領では酷い目にあっています。隣の子爵様がいなかったら、どうなっていたでしょうか。
「駄目なところに合わす必要もないのでは?」
「アルフ?」
「小麦の栽培が厳しい地方では、歓迎されるでしょうし、国から公開していただきたい」
「……なるほど。確かにな。北部の者は人格者が多い。そこのために公開するのも手か」
片栗粉とそれを使ったレシピ━━いももちやとろみのついたスープなどが国から配布されることになりました。
これにより次の社交シーズンに、北部の貴族とお父さん達が仲良くなりました。あまり交流のなかった方達ですが、実直な方達だったそうです。
「では、冒険者ギルドとの話し合いが終わったら連絡を入れる」
「かしこまりました」
私達は宰相様に任せて王城をあとにしました。




