モルトハウス伯爵領━━その4
朝食の後、副料理長が手ぐすねを引いて待っていました。単にゼリーを作るだけです。
ブレンダお姉様のお兄様━━ルーファス様は、早速テールとタンの仕入れを手配してくれました。今日の夕方までには届くそうなので、お兄ちゃんにお母さんとコメットさんに処理の仕方とレシピを聞いてもらうようにお願いしました。
後でハイテンションで「お土産よろしくね」と書いてあるおまけに、レシピ等が届きました。サザランド伯爵領の牛は乳牛だし、まだ若いから現役で、領内ではお肉になった牛はいないんです。
この国では、どうやらタンもテールも食べられる箇所の扱いではないようで、今まで入手出来なかったので、溢れるパッションが押さえきれなかったと、言い訳されたのは領地に帰って品物を渡した時でした。
私は副料理長に引きずられるように厨房に入ります。
昨日の試食の後、ちょっと棒寒天を軽く洗って水につけておいたので、ゼリーはすぐに作れます。ので、餡子からですね。
餡子のレシピは前世のおばあちゃん直伝です。お母さんも特に手を加えていないレシピなのです。
羊羹以外にも使えるものなので丁寧に説明していきます。たっぷりのお水とか、必ず小豆はお湯から出ないようにとか。注意事項を言いながらすすめます。
今日はこしあんの羊羮にするので、煮た寒天の中に入れるときに裏ごしします。
ぎゅうぎゅうっとしていると、アシスタントさんが代わりにこしてくれます。皮は入れませんよ。
「ええと、こうやってこさなくてもいいんですけど、こした方がなめらかな舌触りな感じかなぁ?こさないと食物繊維が多いから、便通の改善にいいかも?」
「……なぜ疑問形なのですか?」
「つぶあんも好きだから?舌触りはなめらかじゃなくても、食感もいいですし……う~ん、これは好みですよ」
納得いかないのか、副料理長は眉根を寄せます。それなら残りはこさないとしましょうか。
「後で食べ比べましょう」
「分かりました」
結局、ベリーのゼリーと、こしあんとつぶあんの羊羮、牛乳寒天にさらに残ったあんでぜんざいにしました。
……ぜんざいはほんの味見程度しか作れなかったので、三人でこっそり食べるつもりが、この段階になって、ブレンダお姉様をはじめ伯爵家の四人がいらっしゃいました。
……昨日食べられなかったのが相当悔しかったみたいです。
お兄ちゃんがその後ろで肩をすくめています。
「えっと。今から食べるのは残ったものを使ったので、本当に味見程度ですけど」
「お汁粉?」
「お餅はないんですけどね。あ、そうだ。いももち入れようかな?確かじゃがいもも買ったからあるし」
手早くじゃがいもを茹でて潰してもらって、更にお湯を沸かしてもらいます。
「潰したじゃがいもに片栗粉を入れて混ぜます」
「片栗粉、ですか」
「この片栗粉はここでも作れるのですけど、お母さんとお父さんに確認しないと公開していいレシピか分からないので……」
要確認です。調味料とか、こういった今までなかったものは、国から非公開を求められている場合があったはず。
一口大の平たいお団子にして、湯がいてぜんざいの中に入れます。ついでにお湯とお砂糖を足して、ちょっと味見。うん、多分大丈夫。
「……お兄ちゃんはまた今度ね」
「分かってる」
うん、この状況じゃあ、仕方ないですよね?
という事で、伯爵家の皆さんと副料理長とアシスタントさんに、少量ずつ器に入れて渡します。
「!!」
「これよこれ!」
ブレンダお姉様、前世の口調になりすぎです。
「いももちどうですか?簡単に出来るし、スープの具に入れてもいいですから、領民に広めてもいいかもしれませんよ」
「……確かに腹持ちも良さそうだ」
「焼いて食べてもいいですし。じゃがいもは長期保存しやすい野菜ですよね」
「……確かに」
「じゃがいもをさつまいもやカボチャに変えると味に変化も出ますよ」
中に具材やチーズをいれたものとか、色々出来ます。
味に変化をつけて、食事からおやつまで。
……ちょっと料理長が怖いんですけど。睨まれてももうありません。
「後はゼリーと羊羹と牛乳寒天なんですが、固まるまで時間がかかります」
「それまで待たないといけないのね」
ブレンダお姉様が寂しそうに言いますが、魔法でちょちょいと固めるのは、違うと思うのでしません。
お味噌とか発酵させる時に使っていますけど、最近では領内で魔法を使わずに生産していますよ。
「これは夕食のデザートですね」
「お昼じゃないの?!」
「夕食にしましょう。その方がそわそわしないんじゃないですか?」
「それじゃあ、一日そわそわしちゃうわ!」
ええっ、そうですか?
伯爵家の皆さんを見ても、副料理長も頷いています。どうやらお昼のデザートになりそうです。
「ええと。ではお昼に……」
「ええ!やったわ!」
ブレンダお姉様がガッツポーズをし、まわりの人たちも拳を握っていました。
そんなに楽しみなんですね、ええ。ちょっとプレッシャーを感じてしまいます。ううん。




