宰相の憂鬱その7
リーコック侯爵領内のダンジョンから魔物が溢れたと連絡が来た。
あの金の亡者め。間引きは順調だなどとぬかしていたではないか!
第二陸軍を派遣することにし、リーコック侯爵にどのような罰を与えるか考えていると、文官が部下をつれてやってきた。
「先程モルトハウス伯爵から連絡が来ました。ドラゴンが現れたそうです」
「なに!リーコック侯爵領から流れたか!」
「あの、既にサザランド伯爵家のご子息が討伐されたので、ドラゴンの危険はないそうです」
「……アルフが?」
呟きながら、そう言えばモルトハウス伯爵家の令嬢がアルフの婚約者だったな、と思い出した。
たまたまアルフがいた時だったから良かったものの、そうでなければ国の食糧庫の一つでもあるモルトハウス伯爵領がどうなっていたことか。あの領地が被害を受けたとなれば……考えたくもない。
「モルトハウス伯爵の指摘により、リーコック侯爵領に隣接する他領にも魔物が溢れたことを報告してあります」
「ああ、そうだな。警戒してもらう方がいいだろう」
リーコック侯爵が内密にとしつこく食い下がって遅々として対策が進まなかった。
軍を動かすために色々と厄介な手続きをしたり、必要な物資の手配をさせたり、他領に対して行動が後手にまわってしまったな。
そもそも、リーコック侯爵領のダンジョンがあふれたとしても、他領にまで流れたことはスクワイア王国が始まってからなかったはずだ。
「他領に魔物の被害が増えていないか、確認してくれ」
「はい、分かりました」
「後日補填することも同時に伝えてくれ」
「はい」
文官は頭を下げ部屋を出ていった。急いで伝えてくれそうだ。
まあ、補填はリーコック侯爵からむしりとるか。
「アルフは相変わらず強いねー」
「……ミアも一緒にいただろうな」
ワイバーンの退治の内容を聞いたことがあるが、今回もその延長だろう。
アルフがだいぶ強くなったことは報告を受けている。
ミアについては、特に魔法を教えていないため、国が領地の整備を手伝い終わってからは、どのような実力か全く分かっていない。今も時々領地を整備しているらしいが。シロの散歩のついでだそうだ。
「もう一層のこと、アルフに魔物を一掃させたら?」
「子供にそんな事させられるか」
「でもさー。とうとうドラゴンスレイヤーだよ。どうするのさ」
「……サザランド伯爵領があるからな。婚約者もモルトハウス伯爵家の令嬢だ」
「うん、まあ。そこは心配していないけどさ」
アルフは軍や騎士団に関わるつもりはないらしく、訓練に参加はするものの、職務内容に関する質問を受けた者が一人もいない。
サザランド伯爵家は商会を持っているし、どうやらこういった職につくつもりがないようだ。
「商人だと、他国にいかないかなあ。この国って安全な生活をおくれるほかに魅力がそんなにないよね」
「…魅力か。外交もその辺りが厳しい状況だからな」
「それだって、ハンナに頼りっきりだしね」
練乳にソースに柚子こしょうか。ああ、最近では山葵もあったな。おでんにつけた黄色いあれはまだ輸出していない。
それも全てこちらの思惑の乗った形で取引をしてもらっている。そのものは売るが、製法は未だ秘匿している。
「…ミアがジョシアと結婚するから、大丈夫だろう」
「まあね。でも、ドラゴンかあ。素材どうなるの?」
「魔物退治が終わったら持ってくると言っていただろ」
「持ってきて、それで?」
「ん?」
「ドラゴンの素材を国で取り上げる、なんて出来ないよね?何もしていないんだし」
「…アルフの性格からいって、モルトハウス伯爵家とわけるだろうがな」
「でもさ、ドラゴンの素材を使った武器や防具って、作るのにお金がかかるよね?」
「…国が買い取ること打診するか」
「ミアちゃんから買い取った魔晶石があるから、色々強化出来るね」
そうだな。最近貿易は黒字だし、少しはいい武器でも作るか。
俺の反応を見て手ごたえを感じていたオーウェンだが、その後モルトハウス伯爵家とサザランド伯爵家からドラゴンの素材の半分にも及ぶ寄贈に歓喜した。更に、武器や防具にするための金策としての素材の売却先を聞かれると国で買い取ると言い切り、スクワイア王国に新たな魔法剣が数本出来ることになった。
魔法剣に関わりたいのならさっさと仕事を終わらせろとオーウェンに言い、その間の政務がはかどったのだった。




