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出番ですか?  作者: 五月女ハギ
キンバリー侯爵領
6/96

8歳━1

 ムーニー男爵領を出て、幌馬車の旅は順調です。

 雨が降っても幌馬車全体に結界を張れば、馬も濡れずにすむという……うん、さすが便利。

 初夏だから段々と暑くなってきていて、結界はほぼ張りっぱなし。結界内は温度を一定に保っています。ベンさんがおじいちゃんなので、これで夏バテは回避出来るのではないかと思う。


 この話をお兄ちゃんに言うと、遠い目をされた。「便利アイテム?」と、私の魔法の能力を分かってくれないようです。「いや、魔法はアイテムじゃない」何か言ってるけど、うるさいです。


 各地で行商が参加できる市や市場で商品を売り、お父さんは生き生きしていて、根っからの商人なんだなあ、と改めて思います。

 そんなお父さんについていって、市場で色々見ていたら、また頭の中に声が流れてきました。

 今回は、《鑑定のレベルが上がりました》っていうアナウンスです。

 いつの間にか、鑑定スキルを得ていたようです。あ、お父さんに師事している扱いなのかな?

 さっきから見ていましたが、市場の品々のランクや品名など、今の方が分かります。

 それでも低レベルなので、詳しくは分からないのですけど。


 お父さんは御者台で幌馬車を操っているので、お兄ちゃんから今回の話を聞きました。

 お父さんもずっと私のせいじゃないって言ってたけど、そういうことだったのか、と納得した。ウチが潰れなかったら、ムーニー男爵領の商会や領民の生活は困窮しただろう、とのことです。


「競争相手がいなくなったら、値段を上げても客は買うしかないだろう?」

「セコイね」

「村はやっていけなくなるよ。だから、手助けをお願いして、こういったことになったんだ」


 それでもウチが潰れたのは、私のせい……痛いっ。お兄ちゃんにはたかれました。


「ミアのせいじゃないって。

 他の商会だと、もっと時間がかかって色々障害が発生しただろうし」

「……ウチだから、短時間で済んだの?」

「モーガンがむきになって手段が荒くなったからな」


 だから気にするな、とお兄ちゃんは頭を撫でてくれました。

 私は揺れる幌馬車の荷台でお兄ちゃんに寄りかかり、小さくうん、と頷いた。




 □ □ □ □ □




 見たことないほど高い壁が都市を囲っています。何、ここ?


「さすがキンバリー侯爵領だな」


 お兄ちゃんも感嘆し、見上げています。

 ムーニー男爵領は、大都市なんてなかったし、こんな立派な城壁(街の壁だから違う名前かもしれないけど知らない)は、見たことないですよ。


 思わず壁を撫でる。三メートルくらいの高さ?魔物を防ぐためだそうだけど、この辺り、そんなに出るの?


「人が勝手に入らないように、だろう」


 入る時も出る時もお金がかかるんです。

 ウチみたいな行商は高め。それでも、国内の行商の権利書があるから、そこそこらしいのですが。

 権利書は直接見せないで、代わりに商人ギルドで発行されるタグを見せるのが主流です。

 タグで個人認証が可能らしいので。逆に権利書だけだと、商人ギルドに問い合わせたりと、時間がかかる。たまに盗んだ権利書で商売をしようと目論む人もいるそうで、タグを持っていないと問い合わせ、他の人にタグを発行している時は取り調べられる。そこは厳しい。そうしないと、行商が盗賊に襲われるリスクが上がるので。

 そこまでシステムが確立されている分、権利書は商人ギルドでしか売れないっていう面もあるけど。


「タグで個人認証って、ハイテクだな」


 タグは魔道具らしいです。

 ムーニー男爵領の商人ギルドで、今回の同行者を登録してきたため、楽に手続きは済むそう。


 ただ。そう、ただ。ここが大都市で手続きまでに並ぶ時間が長いんですよねぇ。


「宿、とれるかなあ」

「馬と幌馬車があるから、宿が限られるからな」




 朝から並んで、10時頃、ようやく私達は街中に入れました。

 早速宿をとり、馬は裏の囲いの中に放します。

 幌馬車も裏に置いてよいと許可を得ています。

 魔道具の袋に入っているのは部屋に運んだけど、樽と木箱の荷物もあるので結界を張り、これでよし。

 お父さんは商人ギルドに行って、市場で商売する申し込みをするそうです。

 ここのところ、ずっと移動だったので、キンバリー侯爵領ではちょっと長めに滞在するそう。


 部屋は続き部屋がとれ、お父さんとベンさんとお兄ちゃん、私とお母さんと部屋割りも決まりました。

 単に男女で分かれただけですが。


「散歩してきていい?」

「お兄ちゃんと一緒ならね。

 アルフ、5時に鐘が鳴るから、鳴ったらすぐに帰ってきなさい」


 ……お母さんが、過保護です。私って信用ないのかな。


「はい、行ってきます」


 お兄ちゃんが私の手をとる。こっそり「こういう大都市では、女の子を一人にしたら誘拐されるんだよ」と言われる。

 誘拐?!

 ぎゅっ、と両手でお兄ちゃんの手を握ったら、苦笑された。


「ちょっと脅しすぎた」

「からかったの?」

「ない話でもないしな。裏通りとかはどこでも危ないし」

「……うん、分かった」


 取り敢えず、お兄ちゃんといたら間違いないです。そういうことにしておこう。


「何が見たいんだ?」

「市場はお父さんが行くから、商店街かな。今までの町では見て回っても何にもなかったけど。

 ここは大都市だし、何かあるかも」


 キラン、とお兄ちゃんの目が光る。 お兄ちゃんのヤル気がアップしました。


「確かに必要だな」


 そろそろ他の食材や調味料や料理に巡り会いたいと思います。今まで手打ちで生パスタを作ってきましたが、乾麺ないかな、とか。

 ラーメン食べたいとか。


「カレーもな」

「チョコレートも欲しい」


 大都市だからって欲望が止まらない。あれもこれもないかな。

 ウキウキと私達は、商店街に向かうのでした。

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