モルトハウス伯爵領━━ その1
サザランド伯爵領でのピザ会の後、私はステイシーとこまめに文通をしています。
ステイシーの家も王都にタウンハウスがあって常時使用人がいて、辺境伯領と連絡をとるための魔道具があったので、私の書いた手紙を送ってもらえることになりました。
ただ、私とステイシーの間に、カトリーナさんとソフィア様が入って、私達の手紙の書き方を添削されるんですけどね。
最近やっと合格する手紙を書けるようになったところです。
そんな手紙のやり取りで、社交シーズンになったらお茶会をしようと約束しています。美味しいお菓子を新たに作りたいけど……何かあったかなぁ。
シーズンが始まるのはまだまだ先ですけどね。
ステイシーと文通することになって、ジョシアとも手紙のやり取りを始めました。
以前は勉強の邪魔になるんじゃないかって、遠慮してしまったんですけど、構わないと言ってくれたので。
こちらの手紙は添削なしです。お兄ちゃんが絶対に駄目だとカトリーナさんに強く言っていました。子供だからってプライバシーの侵害だとか。前世で何かあったのかな?
今は学園が夏休みに入り、お兄ちゃんと私は、カントリーハウスに帰るブレンダお姉様と一緒にモルトハウス伯爵領に向かっています。
シロとハクは着いてきません。シロはお留守番に不満げでしたが、領地を守ってもらわなくてはならないので、お土産を買ってくるからとお願いして、なんとか納得させました。ハクはソレイユ王国のブルーランド族のところにいるので、前に来たときにしばらく留守にすると伝えてあります。
モルトハウス伯爵領は王都から十日かかるので、町に寄りながら進みます。
今回私もいるのは、ブレンダお姉様のお誘いがあったからです。そうじゃなかったらこんなお邪魔虫なこと、しませんよ。
二人きりで馬車に乗るのを避けるための侍女は、モルトハウス伯爵家の人がいますしね。
うちは使用人が足りないので同行していません。
王都や領地、商会の人手がまだまだ足りないので、こういう時にちょっと困ります。
王都と領地の邸はまわるようになったので、次の人材育成に取りかかっているみたいです。
護衛だって、お兄ちゃんが強いからいらないしなぁ。装備だって、次期伯爵に相応しいくらいのいいものに買い替えています。クレイグさんがいい武器屋を紹介してくれて、更に見立ててくれました。
「もうすぐモルトハウス領よ」
「湖、綺麗~!」
「森が広いな」
「自然は自慢出来るかしらね」
この森を抜けたところで、伯爵様と待ち合わせです。領地の南側に用事があったということですが……多分、伯爵様の言い訳ですよね?
ずっと会えなかったから、お迎えに来ているんだと思います。
「モルトハウス領は自然くらいしか見所がないけど」
「農業が盛んなんだっけ?」
「そうね。あと避暑にはもってこいよ」
「うん。うちより涼しいよ」
サザランド伯爵領は、梅雨から夏へ蒸すのです。台風みたいに大雨も降るし。
それに比べるとモルトハウス伯爵領はさらりとしています。
かわりに冬の寒さは厳しいそうです。
森を抜けるまでずっと湖を見ていても飽きません。サザランド伯爵領は海は有りますが、湖は有りません。
前世でも湖は側になかったので、この穏やかな風景が旅行気分を盛り上げてくれます。
絵はがきがあったら、ジョシアとお父さんお母さんに出したいけど、ないだろうなぁ。残念です。
「あの馬車が伯爵の馬車かな?」
「ええ。あれが我が家の馬車よ」
前方に見つけて、馬車の速度が落ちていきます。
事前に、伯爵様と合流したら、ブレンダお姉様は伯爵様の馬車に移動することと決めていました。
あと数年でうちに嫁ぐので、それまでは実家を優先しろとお兄ちゃんが言ったので。
なんとなく伯爵様が寂しそうなのがお父さんとダブったみたいです。
お兄ちゃんとしては、自分がこういった行動をとることで、ジョシアもそうしてくれるんじゃないかってことみたいです。
私達は伯爵様と挨拶するために、一度外に出ます。
夏だというのに涼しい。さすが避暑地。
「ようこそ、モルトハウス領へ」
「お世話になります、モルトハウス伯爵」
「よろしくお願いいたします」
お兄ちゃんに続いて挨拶をします。まだまだ慣れない腰を落とす貴族の挨拶は、それでもカトリーナさんに合格をもらったので、おかしくないはず。
伯爵様にお兄ちゃんから、これからの道中はブレンダお姉様をそちらの馬車にって話しています。伯爵様は何でもないように頷いていますが、口角が上がって嬉しそう。
それでは馬車に乗って移動しましょうとなった時に、急に森が騒がしくなりました。動物達が、慌てて走り去って行きます。集団暴走ってやつですか?
「一体何が?」
伯爵様が訝しそうに呟くと、それに被せるかのように、空から何かの咆哮が聞こえた。




