アルフ13歳その3
蕎麦の会の後は、領地でピザ会だ。
今年からはトミーとモルトハウス伯爵家も呼んで、更に、ザックリーの婚約者、ギボン辺境伯夫妻とステイシー嬢も来ていたのも関係あるのか。ミアが張り切っている。
でも、あのアニメのオープニングを歌いながらピザを作るのはどうなんだろう。コロッケを作る歌でピザが出来ていくのは、シュールだ。
しかも、ミアの年齢だと知らないアニメなんじゃないか?
父親のDVDコレクションにあった?ミアの父親はアニメ好きだったのか。
「……シュールだ」
「まぁ、まだ子供だしな」
「子供って、前世はアラサーだろ?」
「?十代だよ?」
「え?まさかのティーンエージャー?」
「ううん。十二歳だから、まだ違ったよ」
「ティーンエージャーは十三歳からだからね」
「……え?」
ん?なんでかトミーが固まっている。
「ミアちゃんってアルフの妹だろ?」
「今回はね」
「え?前世で妹がいたって━━」
「前世も妹はいたけど、ミアじゃない。何だって兄妹で転生するんだよ」
トミーが凍りついた。どうやら誤解していたようだ。
「ピザ焼けたよー。食べたいピザを作ったら焼くから言って下さ~い」
「ミアちゃん。今年はスイーツはないの?」
「デザートは食後のお楽しみですよ。冷たくしてあります」
「いや~、何かしら?!」
カトリーナさんが身悶えているのを辺境伯夫妻とステイシー嬢が呆然と見ている。
更に、公爵も侯爵も、みんなが手でピザを食べ始めると、見開いた目がこぼれ落ちそうだ。
「カトラリーもあるから、フォークとナイフで召し上がられても」
「いや。ここは郷に入りては、と言うしな」
俺の言葉を遮り、辺境伯は見よう見まねでピザを口にし、再び驚いた顔をした。
「……旨い」
「まだまだ沢山ありますよ。お酒も召し上がって下さいね」
ミアが酒のつまみをテーブルに並べる。
フライドポテトやソーセージの定番料理の他に、今年は天ぷらやからし和え等が並んでいる。
時期は違うが、ミアの収納に入れれば旬は関係ないからな。色々な野菜を揚げたり、マヨネーズ焼きにしたり、彩り鮮やかだ。
「……サザランド伯爵領では、毎年このようなことを?」
「今年はじめての小麦の収穫ですからね。収穫祭の代わりです」
「……収穫祭は秋にはやらないのか?」
「秋もやりますね。秋の方が大掛かりですよ」
辺境伯の問いに父さんが答えるけど、やっぱり他の領地ではこの時期に祭はないよなあ。
冬ごもりの後に、ちょっとどんちゃん騒ぎするくらいだろう。
「そう言えば、毎年ピザ会をやっているわね」
「カトリーナが『今年はやらないの?』って聞いてくるんじゃない」
「え?私?」
「三回やったら、恒例になるわよ。みんな楽しみにしちゃうし」
母さんが肩をすくめ、焼き上がったピザがテーブルに置く。
「これから忙しくなるし、ピザを食べて良く働いてくれるなら問題ないしね」
「ブレンダは、料理をしたことがないんだが……」
「料理人がいるし、人数を増やしているから大丈夫になるわ。
私が料理をするのは、単にストレス解消だもの」
母さんの答えにモルトハウス伯爵が明らかに安堵した。
俺だって、ブレンダに料理の腕は期待していないから、問題ないんだけどね。
「私は料理は出来るけど、社交がからきしだし。人それぞれじゃないかしら」
「……そう言っていただけると安心ですわ」
モルトハウス伯爵夫人がほっとした顔で笑う。手にはピザがある。どうやら気に入ってもらえたようだ。
飲み物も、今年から梅酒が加わった。
今まで梅は梅干しばかり作っていたが、ミアが「梅ジュース飲みたい」と言って、作り始めると、「梅酒も欲しいわね」と母さんが言い、結果大量の梅酒が出来上がっている。
その大量の梅酒も、母さんとコメットさんをはじめ領内の女性陣からの支持の高さから、今年の仕込みは更に増やさないとならない消費量だ。
『今年も唐揚げは旨いな』
『ミア、とり天をくれ』
ミアの右側に、シロとハクが小さくなり、テーブルの上の料理をミアに取らせている。
二人というか二匹というか、彼らは野菜は食べたがらない。肉食獣だな。
「ジョシアは何食べる?」
「……ミアのおまかせで」
こまめにジョシアの世話をやく様子は、恋人同士だな。父さんが寂しそうだが、気づかなかったことにした。
「……え?」
ん?ステイシー嬢が二人を呆然と見ている。
「ザックリー。婚約者に料理の説明してくれよ」
「分かりました」
ザックリーが隣のステイシー嬢に色々説明すれば、頬を染める。初々しい。
辺境と名がつく通り王都から遠いため、なかなか会う機会がないようだ。今日はお互い仲良くなるきっかけの一つになればいい。
そんなことを考えていたら、ステイシー嬢が緊張した面持ちで、ミアに視線を向けた。
「あの、私ミア様に謝らなければなりません」
「え?何をですか?」
「お茶会で、ドレスに紅茶をかけたことについてです」
ステイシー嬢の言葉に、この場の空気が凍りついた。




