アルフ12歳その5
誤字をなおしました。
毎週末、俺とトミーとアガサは帰宅していたが、半月経って、ようやく宰相と時間が合うことになった。
その晩、侯爵家で母さんの料理を堪能するという名目で、宰相の家の四人、侯爵家の三人、ウチの四人に加え、ブルーノさんとクレイグさんがいる。
そして更に、トミーが参加だ。
「つまり、この世界が『another life 』と言うゲーム?の世界だと?」
「アルフから聞くと、大分違ってますけどね。
冒険者から見た世界なので、今の俺とは視点が違うし」
「ふむ。それでその『another life』の中で、我がスクワイア王国はどういう国となっている?」
「スクワイア王国は、普段は平和ですね。
いきなりワイバーンが王子一行を襲ったり、霊獣に攻められたりと、なんで?って感じのイベントがあったりはしましたけど」
トミーは「普段は初級から中級クラスの冒険者にうってつけなのに、突発イベントだと急に難易度が上がるんだよね」と肩をすくめる。
いや、ワイバーンが王子一行を襲うって、身に覚えがかなりあるんだが。
「王子一行はどうなったんだ?トミー」
「レベルが足りなかったからか、同行していた騎士達が重傷で。
一人はダメだったんじゃないかな?」
トミーの答えに、皆の視線がクレイグさんに集まった。
「霊獣って、どんな霊獣なんだ?」
「白蛇と白虎が襲って来たんだよ。
それが強くってさ。中級でも歯が立たないし、普段は攻略組がいない場所なんだけど。
たまたま、スクワイア王国で入手出来るアイテムを求めて来ていたパーティーが何組かいて、ギリギリ勝てたんじゃないかな」
白蛇と白虎という言葉に、俺はソファーの背もたれに身を預け、天井を見上げた。
それってシロとハクか?
そんな事を考えていると、母さんが口を挟んだ。
「ブルーランド一族のデリックを攻略すると現れる霊獣って、やっぱりシロとハクよね」
「……もしかしたらって思っていたけど、出番が早すぎない?しかも、ミアちゃんが封印を解いたんでしょう?」
カトリーナさんが、眉を寄せる。
なんだか、大分原作と変わっている。それに、『another life』と同じネタとは……使い回しか?ゲーム会社は。
いや、そもそも同じゲーム会社だったのか。
「あれ?あんまり驚かないんだね」
「……その霊獣、もう結界から解放されていて、サザランド領に白蛇がいるんだよ。
白虎はソレイユ王国のブルーランド一族のところにいるし。
たまにウチの領地に唐揚げ食いに来るよ」
「唐揚げ?いいなあ、唐揚げ」
いや、唐揚げがメインの話じゃないだろう?
「……霊獣の脅威はないと思っていいのか?」
「どうでしょう?俺にはそこまでは分かりません。
スクワイア王国であったイベントは、それくらいしか知らないですね。基本的に平和なんですよ」
トミーはそう言って、紅茶に口をつけた。
「……聖女については、何かないか?」
「聖女、ですか?
聖女なら、オアーゼ王国パトリツィア王女の能力が凄かったはずですね。
俺のキャラ程度では王女の回復魔法なんて受けられないから、話に聞いただけですけど。普通の冒険者はポーションで治しますし。
一般人でも受けられる回復魔法ってなると、スクワイア王国の回復魔法は、大陸の中でも質がいいので、他国の国民に羨ましがられていた、って感じでしたけど」
「……スクワイア王国の聖女はどうだ?」
「ゲームの中では特になにも……あ、王妃様が元聖女って話くらい?」
トミーには乙女ゲーの話はまだしていなかった。RPGの内容と混ざる前に話を聞きたかったからだ。
「トミーが言ったワイバーンも、もう終わっているよ。怪我人は出たけど、それくらい」
「逃げ切れたんだ?」
「いや、倒したけど」
「は?え?ワイバーンを?」
「そう。それでサザランド伯爵の爵位を賜ったから」
「はあ?」
トミーはすっとんきょうな声をあげ、目を見開いた。
「倒したってアルフが?」
「ミアが魔法で色々してくれたしな」
「……アルフだけじゃなくってミアちゃんもか」
「トミーのしていたゲームとも話がずれてきているみたいだし、少しは安心していいのかもな」
「なんかさ。二人が絡んで話が変わっていってない?クラッシャーだね!」
トミーは呆れたように言うけど、こっちは本気なんだよ。
「……霊獣に攻められた時は、ギリギリ勝てたのだな?」
「そうですね。ただ、アルフとミアちゃんがワイバーンを倒せるなら、もう少し楽に倒せるかもしれないですけど。
あ、レイドだったから、他にも腕のいい人達が必要でしょうけど」
「トミーはどうなんだよ?」
「いや、ワイバーンは無理だから」
「ミアも直接倒した訳じゃないさ。武器と防具の性能を上げて、結界でワイバーンを拘束してたんだし」
「いやいやいやいや。その魔法がワイバーンに効くのが既に凄いんだよ!」
そういうものか?
俺がゲームで使っていたキャラは、色々と武器と防具を得ていたから、ワイバーンは簡単ではないけど、そこまでの強敵では……うん、伝説級の武器も防具もないと辛いな。それのおかげか。
「取り敢えず、シロとハクに嫌われないようにするね」
ミアが何かを決意し、ぎゅっと両手で拳を作る。
「変に構えなくてもいいんじゃない?なんかミアちゃん、クラッシャーっぽいし」
「クラッシャー、ですか?」
「ワイバーンにも霊獣にも関わっていて、結果が変わっているんでしょ?フラグ折りまくりだよね」
肩をすくめるトミーに、何も言うことが出来なかったのは、まあ、仕方がないよね。
「……大丈夫かなぁ」
ポツリ、とミアが視線を床に落としながら呟いた。
「ゲームの強制力があるかもしれないし……」
「強制力で今からワイバーンに襲われるの?霊獣がまた封じられるの?それはないって」
「でも、ヒロインが転生者なの。ゲームも知っているみたいだし、何があるか分からないの」
大人のピリピリした雰囲気が、ミアをナーバスにさせたみたいだ。
母さんとカトリーナさんは、ミアが攻略対象のジョシアの婚約者であることを気にして、なるべくミアにゲームの内容を知らせていない。
それも不安にさせているのかもしれない。
「何があるのか分からないけど、だからってそんなにマイナス思考だと、周りも疲れるよ。
まだゲームも始まってない時期なのに、そんなんでどうするの?」
トミーの言っていることは正しい。
それでもムーニー男爵領でウチの商会を解散しなければならなかったことも、ミアの中にずっと残っているだろう。
「ミア」
ジョシアがこちらにやって来て、座っているミアと視線を合わせようと片膝をついて、手をとった。
「俺は『強制力』になんて負けない。母上も無事だったんだ。俺達だって大丈夫だよ」
「でも……」
「大丈夫にするよ。母上の時だって、俺は諦めなかった。
ミアとのことも、絶対諦めない」
「……ジョシア」
ミアがやっと顔をあげ、頷いた。
俺の隣でトミーが肩をすくめる。
「婚約者じゃないと、励ますのも難しいね」
「あれで励ましていたのか」
「う~ん、強制力なんてないと思ったしね。
だって二つのゲームが混ざっているんだよ?another life の方だと、元からいくつもエンディングが用意されてるんだし、乙女ゲーの方にだけ強制されるとは思えないよ」
そもそも乙女ゲーだけなら、ミアがジョシアの婚約者にはならない。
頭では分かっていても、ミアは不安に駆られてしまったのだろう。
ジョシアによってミアにも笑顔が戻り、ここで母さんの料理が運ばれてきて、食事会へと移っていった。
まだゲームは始まってもいない。
俺には何が出来るだろうか。




