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出番ですか?  作者: 五月女ハギ
ムーニー男爵領
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ムーニー男爵領・アルフ10歳

 魔力検査会は最悪だった。

 前世の妹がやっていた乙女ゲーの世界に何が悲しくて生まれ変わってるんだよ、ホント。

 更にはミアが目の敵にされて、ウチの商会がターゲットにされた。


「ウチは潰す」


 父さんは迷うことなく言い切った。

 前世の俺とそう変わらない年齢の父さんの覚悟は、簡単に出来ることではないのが分かるだけに、父さんの凄さを見せ付けられた気分だ。

 俺は父さんのサポートを出来る限り手伝うと告げると、父さんが頭を撫でた。

 ちょっと恥ずかしいが、悪くない。

 どうやら生まれ変わって、精神年齢もそれなりに下がっているような気がする。それに、前世の記憶があるものの、家族といえば今の家族だ。前世の記憶は使えるし、多少ませているくらいで、やはりこの世界の住人なのだろう。


 父さんとの話し合いがあってから、俺はミアが一人にならないようにずっと一緒にいた。

 俺の訓練の時も、庭に誘った。

 ミアも何となく分かっているようで、大人しく俺の側にいつもいた。




 そんな毎日も、もうおしまいだ。

 他の商会や土地に移って行った人達を見送っていたが、今日は俺達の番だった。

 他の商会のお偉いさん達が、父さんに謝っている。


 ヒロインの父親モーガンの『金色の海』商会は、ついにやらかした。

 サント子爵領の商会を潰しかけたのだ。

 こうなる前からサント子爵に事情を話していて、何かあったら躊躇なくやって欲しいとお願いしていたので、子爵は男爵にも商会にも遠慮しなかった。


 サント子爵は『金色の海』商会に、出入りの両方で高額な税金を課した。商会を潰しかけた手段が悪質で、そのペナルティだとしている。

 モーガンは謝罪したものの、ウチの『海鳥の巣』商会が潰れているため前科があると、サント子爵は取り合わなかった。


 更に、男爵領の港よりも整っていて大きい港を持つ子爵は、ムーニー男爵領を使うところの船の入港を禁止した。

 当然、ムーニー男爵領の港を使うことを避け、サント子爵領の港を使う。これでは港の使用料が取れない。

 こちらは『金色の海』商会を取り締まれなかったことに対する報復処置だとしている。


 この報復処置により、恩寵で免れていた『金色の海』商会も税金を払うことになるだろう。他の商会と同じ扱いになれば、子爵領でのペナルティの分、『金色の海』は分が悪い。

 頃合いを見て、子爵には男爵領へのペナルティを解除すると仰っていただけているそうだ。一度痛い目にあえば、自分たちのしでかしたことが分かるだろう、と。


 この一連の流れのために、『海鳥の巣』商会は、潰されなくてはならなかった。

 『金色の海』商会の前科として、だ。

 それをみんなが分かっている。分かっていても申し訳ないと謝っている。

 父さんは笑顔で大丈夫だと言い、ウチの社員だった人達をお願いしている。


 ミアは詳しい話を知らない。だから自分のせいだとまだ強く思っている。

 これから王都に向かう中できちんと説明すると父さんは言ったが、理解できるまで何度でも話そう。


「ベンさん、そろそろ出るから乗って」


 俺達は二頭の馬で幌馬車を引き、王都を目指すことにした。

 年寄りだからと再就職はせず、息子さんがいる王都に行くというベンさんも、一緒に行くことにした。

 乗り合い馬車は高い上に、時間短縮のため飛ばすので乗り心地が良くなく、60歳近いベンさんには、きついだろうと誘ったのだ。

 ミアだって8歳。きついだろう。

 自分達の幌馬車ならゆっくり進めるし、この場所での営業権は売却したが、国内の行商の権利は安いため、売り払わなかった。

 父さんは王都までの道のりで商売をするとのことだ。たくましい。

 幌馬車には商品が沢山積み込まれた。商品は樽と木箱の他、魔道具の袋に入っているため、見た目以上にある。ほぼ10倍入る袋だ。ホントたくましい。見習わなくては。


 旅の仲間である馬は、足の一本にそれぞれ靴下みたく、または靴みたいな白い模様があるため、ソックとシューとミアが命名した。見たままか。


「ミアも乗れ」

「うん」


 みんな元気でね、と手を振って幌馬車に乗り込む。何人か、ミアの手を握ろうとしていたが、俺がさっさと手をとり、乗り降り用に荷台につけた梯子を上らせる。油断も隙もない。

 母さんがクスクス笑っている。


「母さんも乗って」

「はいはい」


 仕方ないわねぇ、って。仕方ないのはあのガキ達だろ。まったく。

 母さんに次いで俺も乗り込み、梯子を荷台に引っ張り上げた。


 商品ばかりの荷台の中、四人が座るスペースは確保してある。

 家具や時期外れの洋服、旅では使わない食器や雑貨等は、ミアの一部屋以上の大きさの空間収納に押し込んでいる。


「みんな、元気でな」


 父さんが言うと、馬に指示を出し出発した。

 社員だった人達が涙を流し、他の商会の人達も手を振った。何人かのガキがミアの名を呼ぶ。……まったく。


 社員だった人達は、どうか幸せに暮らして欲しい。

 ミアが別れる度にみんなに渡していたポプリの袋を開ける必要がないように。

 何かあったら、夜に自分のベッドで一人、こっそり開けてね、と言って渡したミアの気遣いに気付くことがないように。

 中に、一ヶ月暮らしていける黄色の魔晶石があるなんて、一生気付くことないほど、みんな幸せに。

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