新米伯爵のお仕事その3
感想やご指摘等ありがとうございます。
場合によっていかせたり、手直し出来ずにそのままだったりします。
目を通していますが、作者の限界が(^_^;)スミマセン
カトリーナ様が、見学会の宴でピザを焼いたことを聞きつけ、いじけているとハンナが苦笑しながら報告してきた。
「王都の邸で焼いて食べるかい?」
「ピザ釜が領地にしかないから、無理よ。
しばらく忙しいし、落ち着いたら招待しましょ」
「それで大丈夫なのか?」
「これから冬で寒いじゃない。春になってからの方がいいんじゃないって言っておいたわ。
冬には冬のお楽しみもあるし」
と言うことは、春にこちらに来るということだろう。
しかも冬も何かあるのか?
「冬は、お餅を食べようかと思って。
きな粉でしょ、餡子でしょ。大根おろしにゴマもあったわね。
お雑煮も作ろうかしら?」
そこまで言い、ハンナが固まった。
「あ。杵と臼がないわ」
「木工工房に頼むの?」
「そうね。今年はおあずけとか、したくないわ」
アルフが何かを描きはじめた。
「臼はこんな感じ。杵は━━」
どうやら作る臼と杵の絵を描いて、木工工房の職人がイメージしやすいやように、準備をはじめたようだ。
ちらりと手元を覗いてみても、俺には見知らぬ物でしかなかった。木工工房ということは、木で出来ているのだろうが。
「ゲイル、進捗はどうだ?」
商会は、太陽の瞳商会の場所を使っているので、一部を除きそれほど手を入れずに済んだ。
すぐ側にあるパン屋も、そろそろ内装も外装も出来上がってきた。
正確に言うなら、パン屋だけではない。
菓子も取り扱いたいと言うので、その部分の内装はちょっと変わった造りになっている。
ショーケースというものを使って、中に商品を並べ、店員が取り出すらしい。
イートインスペースも確保したので、一階のスペースはもうない。調理場と倉庫は必然的に二階となった。
しばらくは、領都で作ったものを転移陣で運ぶのだが。
「会長、お疲れ様です」
俺に挨拶したのは、ゲイルでもシェリルでもバーナードでもなく、社員だ。
商会には、ゲイルの元で働いていた者達が噂を聞きつけ、雇って欲しいと訪ねてきた。
ゲイルが自分の寿命が短いと思い込むまでは、普通に商会の社長として優秀だったはずだ。シェリルとバーナードの結婚が決まった今なら、心配事が減っていることもあって、多くの者達が再び働きたいとやって来た。
俺としても、一からそだてる必要もないので、ゲイルに使える者達を雇うように言っておいたのだが、十人ほど雇うこととなった。
「取引先は、太陽の瞳の頃からの付き合いのある商店や工房が多い」
「他の商会と取引しなかったのかい?」
「辞める前に大量に購入してくれてね。いや、して下さって……」
俺の立場が変わってしまい、今までのようにため口とはいかなくなった。少し商売がやりづらいが、いい面もあるのだから仕方ないか。
「引き続き使ってくれるのは、ゲイルの人柄だな」
「新たに取引となると、曖昧なニュアンスが伝わりにくいって弊害がありますから。社員も引き継いでいる『虹の鈴商会』の方が安心なのでしょう」
「確かに」
扱う商品は、太陽の瞳や海鳥の巣で扱っていたものにした。過去に取引がある分、互いに相手の良し悪しを探らずに済む。
ただその中で、これから領地の特産になるはずのチーズや調味料、米等は除いた。数年しか買い取れない取引は、後で相手の反感を買いかねない。
逆にハンナ達が入手したがるものを増やした。昆布や寒天、侯爵家のお茶等だ。
侯爵家とは仲良くさせていただいているが、この辺りはきちんとしておくべきだろう。
新たに始めたのは、古着の買い取りと、その古着をリメイクし販売する部門だ。
これはミアがシェリルを見て、考えついた部門の一つだ。
古着をそのまま販売するより、今の流行を取り入れたり、一般の人が着やすい服にした方がいいとハンナが考えた。なのでリメイクすることになった。
買い取った服は、ミアとアルフが作った魔道具で綺麗にする。物によっては新品同然だ。
ボタンやレース部分は、鍍金やレースの繊細さから、時間を遡る魔道具を使いたいらしいが、魔力量がかなりかかるらしく、今も二人で試行錯誤している。
もう一つは、化粧品や香水、髪の手入れの品などで、「シェリルさんが、私も使っているって言えば大丈夫」とミアは自信満々だった。
年齢と比較して、肌や髪の毛がいいのか俺には分からなかったが、ミアがハンナがいつも作って使っている化粧品等をシェリルに使うように言えば、一週間でその効果が分かった。明らかに違う。
シェリルは「どこで買ったのって聞かれるんです」と困った顔をするが、ミアは満足そうだ。
ハンナは、「少量なら作るわ」と自宅で作るつもりだが、それで足りるのは僅かな間だけだろう。
潰れた工房を買い取ることを提案し、ゲイルが良さそうな場所を見つけに行っている。
職人は、「体につける物だから誠実な人」とハンナが要求してきた。いい加減な作り方で肌が荒れたら、二度と誰も買わないから、と。
そして、これを商会の一階部分に入れるため、スペースを作るのに四苦八苦した。
壁を厚くしないと、店の客の声が商会の商談中にマイナスになりそうだからだ。
「ご夫人達は、また何か仰ってますか?」
「ああ。木工工房に頼みたいものがある。量産するものではないが」
「木工工房なら、いいところがあります」
「後でアルフ達に来させるよ」
その後、俺は商会の進捗を聞き、新たな指示を出したり昔の馴染みに手紙を書いたり、あわただしくも来月から立ち上げる商会の仕事をこなしたのだった。