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出番ですか?  作者: 五月女ハギ
王都・到着
20/96

9歳━2

 商会を出て、脇の細い道をクレイグさんが歩いていくのを後からついていきます。

 あてでもあるのかと思っていると、扉が開き、商会の使用人の一人が出てきました。


「あ、あのっ」

「バーナードのいる場所に心当たりがあるのか?」

「はい。安宿の区画で、少し治安も……あの」

「ああ。あの界隈か」

「はい。そちらへと向かう道で見かけたので」

「そうか、助かった。

 周りに疑われないよう戻った方がいい」

「はい」


 使用人はクレイグさんに頭を下げると、すぐに扉の中へ戻っていった。




 私達ではあの界隈がどこか分からないので、クレイグさんに連れられていった。

 薄暗い街並みで、それでもスラムとまではいかない感じだ。

 クレイグさんを見て、警戒している人が多い。

 明らかに貴族で武装しているからだとか。


「……見つけたら取り敢えずベンと同室に泊まらせる」

「もちろん、そうしましょう」


 お母さんはカンカンに怒っています。

 一応お父さんをたてて商会では何も言わなかったものの、今は抑えてません。

 自分達が欲しいと言ったくせに、靡かないからとよってたかって罪を着せたのだから当然ですね。

 故郷を離れた年若い者になんと言う仕打ちか、と自身も生まれ育った村を出た身として許せないそうです。

 怒りにまかせて歩くので足早になり、私が軽く走るほどだったのでお父さんが宥めました。




 私達は宿屋を片っ端から聞いてまわるつもりでしたが、『太陽の瞳』商会にいたバーナードと言えば、はじめに聞いた宿屋が泊まっている宿屋を教えてくれた。

 ついでに、バーナードさんのことは向こうの勘違いで、ギルドの情報も訂正されるって話しておいた。

 宿屋のおかみさんは、元々何かを察していたらしく、「そういうことに落ち着いたのね」と言った。

 あの三人は、周りに自分達がどう見られているのか、分かっていなかったんだろうなあ。


「ゲイルもちょっと可哀想だけどね」

「可哀想?」


 お父さんが眉を寄せます。おかみさんはそんなお父さんを見て、苦笑した。


「まあ、あの若い子には気の毒なことになったけどさ。

 実は、先見の占い師にゲイルが余命を告げられて、娘の結婚を急いでいたんだよ」

「それがバーナードか」

「そりゃあねぇ。あの娘っ子が惚れてたからねぇ。

 泣きついてくるのを待ってたのさ。

 番頭は、自分が結婚して跡を継ぐつもりだったみたいだけど」

「……本当に先見の占い師なの?」


 私の声に、おかみさんは苦笑します。

 ━━それがもう答えですよね。


「あの若い子に奪われたくなかったんだろう。占い師を買収して言わせたみたいだよ。

 若い子には商会を任せられないだろうと高を括っていて、自分が結婚して商会も娘も、貰うつもりだったんじゃないかねえ」

「それが、バーナードさんに商会も結婚も、話がいったんですね」

「そうだねぇ。浅はかな考えだね」

「では、占い自体が嘘なんだね。

 ……バーナードのことは許せないが、奥方も亡くしているし……ゲイルに教えてやった方がいいな」

「優しい旦那だね」


 お父さんが言えば、おかみさんがうんうんと何度も頷く。

 バーナードさんを預けた頃は、ゲイルさんも娘さんを溺愛していたものの、商売は真面目で誠実だったそうだ。


「変な占いのせいか」

「一人残していくのは辛いだろうね。

 かといって、今回のはやり過ぎだよ」


 おかみさんは、自分のことのように怒っています。

 お父さんは改めてお礼を言い、私達はバーナードさんの所へ向かいました。




 私達はバーナードさんが泊まっているという宿屋に向かい、呼び出してもらった。

 宿屋の人が、ちょっとホッとしているように見え、すぐに呼びに行ってくれた。


「バーナード!」

「……え?」


 バーナードさんが表れた途端にベンさんが声をあげ、抱き締めた。


「旦那様……父さん。どうして王都に?」


 驚いている顔が、痩せていてがりがりです。

 目の下にあるくまが、バーナードさんの苦労を物語っているようだ。


「ゲイルにギルドの情報は訂正させたよ。もう大丈夫だ」

「……旦那様」

「私達が王都に来たのは━━後でベンから説明を受けなさい。

 私達はこれから王都で暮らすつもりだ。少し休んでから━━まずは行商しながら王都でも商会を立ち上げることになる。

 人がいないから、バーナードもウチで働いてくれ」

「自分でお役に立てるのなら」

「旦那様、ありがとうございます」


 ベンさんもバーナードさんも頷き、お父さんはホッとしています。

 お母さんはもらい泣きして、私に抱きついています。


「世話になっただろうが、この宿からベンの部屋へ移りなさい。二人部屋だから丁度いいし、商売の話もある。

 近くにいる方がいい」

「はい。今荷物を持ってきます」


 バーナードさんが部屋へ戻ると、宿の人が話しかけてきた。


「宿泊は今日までだね?」

「ああ。急にすまないね」


 言いながらお父さんは代金を支払います。

 ベンさんが慌てて払おうとするのを片手で止めます。


「変な噂が流れてるよ」

「先程『太陽の瞳』商会が、誤報の報告をしているから、大丈夫だ。

 わざわざ、忠告をありがとう」

「いやいや。

 誤報ということになったのなら良かったよ」


 さっきの宿の人といい、この界隈の人は優しいのですね。

 治安があんまりな場所じゃなかったっけ?


「そっちの旦那がいるから、何かの犯人でもいるかと思っちまった」

「え?」

「俺は市民間の捕り物はしない」

「市民じゃなきゃあり得るんじゃないか」

「ええ?」


 驚く私を宿の人は笑いながら、ベンさんに視線を向けた。


「こうして助けが来て良かったよ」

「息子がお世話になりました」

「いやいや。それが仕事だからね。

 それでも若者が罪を作られて捨てられるのは見てられないさ」


 この人も『太陽の瞳』商会でのことを知っている。

 駄目だなあ、あの人達。いや、ちょっと可哀想な面も……う~ん、でもなあ。


 バーナードさんが戻ってくると、私達はこの界隈を出たところで別れて、ベンさん達二人は宿屋へ、私達はクレイグさんに連れられて行きます。

 あれ?そう言えばどこに向かっているのでしょう?


「ああ。ここだ」


 ずうっと続く壁にある門を見て、クレイグさんはそう言います。

 いやあの。王都に初めて来た私でも分かりました。

 高い壁が続いてはいますが、ずっと見えていました。


「……王城」


 高くそびえる塔も立派な城壁も、分かってた。

 それでもここは通り道だと思ったんだけど、違いました。


「簡単に身体検査がある」

「中に入るのですか?」

「なに、悪いようにはしないさ」


 私達は顔を見合わせるとクレイグさんのあとについていった。

 見逃してもらえないのは分かっていたからだ。




 □ □ □ □ □




 身体検査は思っていたより時間がかかりました。原因は私ですが。

 久々の魔力検査で光っています。


「やっぱり虹色だね」


 声のした方を見ると、魔力検査会で本をくれた魔術省のお兄さんがいた。


「本、ありがとうございました」


 私が頭を下げると、少し困ったように笑う。


「うん。まあ、再検査はもう少し早く受けて欲しかったけどね」

「ウチが色々ありまして、申し訳ございません」


 私のかわりにお父さんが謝ります。私も合わせて頭を下げます。


「いやいや。わざとじゃないのは知ってるから大丈夫です。

 でね。これから中に入るのに、お嬢ちゃんだけブレスレット着けてね」


 お兄さんは言いながら私にブレスレットを着けた。

 ブレスレットは特に光るわけでも何でもなく、けれど私は急に気分が悪くなり、立ちくらみをおこしそうになった。

 フラフラしたところをお兄ちゃんに支えられる。


「ミア?大丈夫か?」

「……」


 返事をしようとしても言葉よりも吐き気が口を開かせてくれません。

 寒気までしてきた。


「あちゃー。やっぱり子供にはキツイかなぁ」

「キツイ、とはどういうことですか?」

「それは魔力封じのブレスレットだからね。魔力があればあるだけ封じる力も強くなる。

 強引に封じられるから、不快感がね……」

「すまないが、これから行く場所と会う御方との関係で、子供とは言え、魔力の高い者をそのまま通せないのだ。

 今日のところは我慢してくれ」

「たぶん次回以降はコレいらないからね」


 クレイグさんと魔術省の人に言われ、お兄ちゃん達は顔を見合わせてます。

 次回以降という言葉が何を意味するのか分かりませんが、このまま行くしかないようです。ううう。気持ち悪い。


「彼女は私が運ぼう」

「いえ。俺で大丈夫です」


 クレイグさんの申し出を断るお兄ちゃんに歩けると言いたかったのですが、そんな余裕もなく、気付けばお姫様抱っこされてます。

 魔術省の人はオーバーに両手を広げ肩を竦めた。


「警戒されちゃったね」

「申し訳ございませんが、娘から早くブレスレットを外したい。

 案内願えますか」


 お父さんが言えば、クレイグさんは頷く。

 はぐれないように、と念を押されてその場所へと向かいました。

 ええ。私は抱っこのままです。




 身体検査を受けたのは、頑丈そうな場所で、豪華さはさほどなかった。

 それが、城内に入った途端に毛足の長い絨毯や派手な額に飾られた絵画が目に入り、これから向かう先に不安を覚えます。

 クレイグさんは時折ついてきているか確認するように振り返る。後ろに魔術省のお兄さんがいるんですけどね。

 そのクレイグさんが、重厚な扉の前で止まった。その扉の前には二人の男の人が、剣を身につけて立っている。


「クレイグ・リプソンだ」

「はっ」


 片方の人が扉を開けてくれて、私達はクレイグさんに連れられて中に入った。

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