8歳━1
お兄ちゃんとお母さんと、転生者だと分かってからあっという間に4年。
お父さんの鑑定とお母さんの料理の腕と時間短縮で、お米を使って日本酒や焼酎、それから味醂と米酢など━━特にお母さんのやる気が凄かったです━━作れました。
お母さんの機嫌がとても良くなったのは特に日本酒です。大吟醸が何とか色々……未成年には分からないので、お兄ちゃんに丸投げしましたけど。
前世で呑みながら、そのお酒の出来る過程をネットで見ていた成果らしいです。
お母さんのおかげで、美味しいご飯が食べられるので嬉しいからいいかな、とは思うのですが。ちょっと飲み過ぎだったので、お父さんがいない時の飲酒が禁止されました。記憶がなくなるまで呑んだらダメです。
何はともあれ、お母さんのチートぶりが凄いです。作れないものなんてないのかもってくらいです。
そのお母さんに師事している私のレベルもかなり上がっています。その辺の料理人くらいかも。
醤油にも取りかかり、一応成功しています。もっと美味しく出来るのでは、と改善している最中です。
味噌は成功しているので、お味噌汁を飲みたいのですが。そのために鰹節や昆布を探したところ、なんとか昆布は見つかりました。鰹節は難しいかもしれません。
でも、出汁と言えば鰹節なので、ちょっと困ります。あ、椎茸を見つけたので干して使ってもいますが、やっぱり鰹節は欲しいところ。
それでも久々に食べた豚汁は美味しかったです。
ウスターソースも出来ていて、コロッケを食べた時はお父さんが一番旨い旨いって言って食べていましたよ。
お好み焼き用のソースは研究中です。
それから。大豊作でジャガイモが値崩れした年に、お父さんに大量に仕入れてもらい、自家製片栗粉を作りました。
これで薄焼き玉子が作りやすくなったし、天津飯は美味しかったです。
ジャガイモと混ぜていも餅にしたら、評判も良かったし。カボチャバージョンとさつまいもバージョンも作ってしまったほど。
調味料以外にも思い出したレシピをお母さんに色々作ってもらいました。
まだ揚げ物はさせてもらえないので、その手前までのお手伝いです。炒め物はようやく解禁。身長が足りなくて、コンロが危ないって言われたら我が儘言えません。
餃子を何個も何個も包んだり。肉まんを包んだり、春巻を巻き巻きしたり、などなど。食生活は大分豊かになりました。
お父さんにはお願いして、粗悪品だけど安い紙もノート十冊くらい買ってもらった。
また変わった調味料や料理のレシピか?って笑いながらも買ってきてくれました。だってお父さんも食いしん坊ですからね。反対するわけがありません。
最近もちまちまと思い出す度に前世からの記憶や知識の書き出しを続けている。
相変わらずお兄ちゃんの暗号は分かんないです。
「暗号じゃなくて公式な」
「数学のね」
「……これは物理のだけどな」
「………」
ひっかけがあるとは。なんてこった。
「ひっかけてないけどな。まあ、いいか」
うん。気にしない気にしない。
□ □ □ □ □
今日は教会にやって来ています。
私の魔力検査会です。
《条件を満たしたため一部システムが開放されました》
うん、魔力検査会の会場に入ったから、魔法関連のステータスが表示されていることでしょう。
ここでは開かないように、とお父さんにきつく言われているので、おとなしく検査の順番待ちです。
二年前、お兄ちゃんが魔力検査を受けると、お母さんと同じ属性の魔法が使えることが分かりました。
魔力量はお母さんとお父さんよりは良かったものの、少ない方らしいです。
空間に入れられる容量が、もう少し多かったら、と残念がっていました。なぜならお兄ちゃんは、冒険者になりたいって剣の訓練をしているから。
水と火は嬉しかったみたい。水を用意しなくていいから、移動に便利なんだって。きちんと飲み水に出来る水が出せるそうです。
火はわざわざ道具を用意しなくていいので、夜営とか便利なんだって。
お兄ちゃんは弱冠10歳にして、たまに出没する魔物の退治に参加して━━更にはきちんと戦力になっています。
なんでも、前世で剣道経験者だとか。強かったの?って聞いたら、何度か全国大会に出たって……。勿論、スキルにも反映されていて、剣術が30台です。まだ子供なのに。
凄いしずるい。私なんて凡人なのになんで転生しているの?
ぼーっとそんな事考えながら順番を待っていると。
「ええっ?!そんなっ」
なんか騒がしくなっているようです。
何かあったのかな?
検査を受けているのは……え?
私はお兄ちゃんとお母さんを見た。頷いたということは知ってるんだ。あ、お兄ちゃんは前世も妹がいたって言ってたからかな?
ええ、見つけました。
ピンクの髪のツインテールの乙女ゲーのヒロイン(仮)を。
確か……フルでの題名思い出せないけど、略して『あな恋』。フルだと何だったろう?
内容は、一般人だったヒロインが、実はあまり使える人がいない回復魔法の能力が高いことが分かり、男爵家に養子に入り、王都の貴族の学校━━裕福な商人や少しの優秀な奨学生もいる━━に通うってやつです。
学校で同級生と恋愛するけど、すでに婚約者がいて、ままならぬ恋だけど、障害を乗り越え最後は二人幸せになるのだとか。
やだなー、この展開。婚約者を障害物扱いってなんなのでしょうか。
とはいえ、私は一般人です。なので悪役令嬢じゃないので没落やら断罪からの回避行動は必要ないはず。
あ、そうか。
この場面って、チュートリアル前のskip出来ちゃう場面ですよね。
ってことは、モブじゃないですかモブ。今日で出番はおしまいかあ。じゃあ、別に問題なし。
「嘘っ私が?希少な回復魔法の使い手だなんて」
ちょっと棒読みかもしれません。こんなセリフだったかなぁ。私じゃなくて妹がやってたゲームだから、記憶があいまいです。
でも、棒読み。頬に手をあて、ぶりっ子してる。
……前世の記憶持ちだとしたら、私より年上だろうなあ、あのポーズ。前世のお母さんが冗談で可愛い子ぶる時のポーズだもん。
「君には、みんなを助ける力がある。魔法の勉強をちゃんとしなさい」
「私……自信はないけど、頑張ります!」
まさかの司祭様までもが棒読みでした。それとも回復魔法の使い手が現れたらこう言うって決まりなのかな?う~ん。
《イベント終了により一部システムが開放されました》
うん?何かが頭の中に響きました。イベント?システム?あれ?魔力検査会のアナウンスはさっきありました、よね?
それは後でお兄ちゃんとお母さんに確認しましょう。私では全く分からない場合は後回しです。うん。
さて、ヒロイン(仮)さんは、モモって名前でした。髪の毛ピンクで名前がモモ。
魔力検査会は8歳って決まりなので、私はなんと同い年。……嬉しくないけど。
国内でもあんまりいない回復魔法の使い手だから、多分ずっとムーニー男爵領が税収で積み立ててたお金で王都の学校に行くんでしょう。
男爵様にとっても、自分の領地から輩出できたら鼻が高い。
領民も少し上がる税金を、しかし回復魔法の使い手がいたのに王都へ送り出せないのは恥と、みんな払ってきた。
ま、ヒロイン(仮)さんが国のお役に立ったら出身地に謝礼金が入るから、けっして損って訳でもない。
何はともあれ、背景の一部な私も検査を受けないと。
「はい、次」
「はい。ミアです」
私は名乗ると魔力検査機の大きな水晶玉みたいな部分に両手で触れた。