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出番ですか?  作者: 五月女ハギ
マッキノン街道
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マッキノン街道・アルフ10歳━2

 俺が幌馬車に向かうと向こうから貴族の子供と魔術師がこちらに走ってきた。

 すれ違うが互いに急いでいるので会話も挨拶もない。


「アルフ!」


 母さんがぎゅっと抱き締めてきた。

 ちょっと恥ずかしかったけど、震えていたので抱き締めかえし、安心させるように背中を軽く叩く。


 母さんが俺を止めれなかったのは、冒険者になりたいと言っていたからだろうか。

 まだ子供の俺が、男爵領で弱いとは言え魔物相手の退治をしていたのも。


 ━━冒険者になりたい。

 俺は商会の跡取りだ。それなのに物心ついた頃から、冒険者になると思っていた。

 別に商人の才能がないと言われた訳じゃないし、商人が嫌な訳でもない。

 剣の練習だって、前世では日課だった、その程度だ。

 ダンジョンがある訳でも強い魔物が出る訳でもない、そんな男爵領に来た冒険者は、たいして格好いいこともない。

 それなら父さんの方が格好いい仕事の仕方だろう。一代で商会を作ったのだ。

 なのに、当たり前のように俺は冒険者を目指している。

 家族はワイバーン相手に送り出した。

 ━━なぜ?何かおかしくないか?


 俺は、そこまで考えて頭を振った。今はそれどころじゃない。

 母さんをもっと安心させたかったけど、急いで戻らないと。


「もう大丈夫だから」

「そうね……怪我もないのよね?」

「俺は大丈夫。

 父さん、ポーションはある?」

「ちょっとした怪我なら治るのがあるが……」

「一人、深傷を負っているんだ。

 ミアは?回復は出来るか?」

「転んだ時の傷くらいしか治したことないけど……試してみる?」


 不安そうにミアが言いながら、本を片手に馬車から降りてくる。

 魔力検査会で魔術師からもらった本だ。

 俺は父さんのいる御者台に母さんを座らせる。あとは父さんに任せた。


 俺達が走っていくと、子供の一人が泣きながら倒れている人に呼び掛けている。


「クレイグ!起きてよ!」


 揺さぶりそうなのか、二人がかりで押さえられている。


「回復魔法は使えないんですか?」

「あれは希少な属性だ。そう多くない」


 偉いと思われる人が眉を寄せる。

 その間にミアは本を何度も読むと俺に渡してきた。

 倒れている人の側に膝をつき、服の釦を外して、肌をあらわにする。


「いったい何を━━」

「バシャバシャっと水で綺麗にして」


 ━━は?

 動きが止まったのは俺だけじゃない。

 ミアが独り言を言えば、その通りのことが起きた。


「おい!お前!」

「血が洗い流れたらおしまい。

 で、傷口から入った汚いものは全部ポイポイっと外にうっちゃって、と」


 泣いていた子供が怒鳴るのも放っておいて、ミアは続けている。

 ミアの動きに合わせて、赤黒い固まりがいくつか地面に捨てられる。

 倒れている人がうめき声をあげ、子供が止めようと手を伸ばしてきた。


「中も外も元通り。きちんとくっついて、筋肉もそのまま。穴もなく。ちゃあんとくっついておしまい」


 くっついてくっついて、と何度も唱えながらミアが傷口に手をかざすと、淡い光が倒れている人を覆い、徐々に傷口がふさがっていくのが分かった。


「……そんな、まさか?」

「ちゃあんとシックスパックでかっこ良く」


 たまにこっちの世界では通じなそうな単語も出てくるが、ちゃんと傷口はふさがっていく。


 俺も軽く読んだ魔術の本には、魔法は呪文よりもどれだけ正確に術者がイメージを持てているかが大切だ、とあった。

 周りにはおかしな独り言にしか聞こえない言葉は、ミアにとっては必要なことなんだろう。

 もっといい言葉をその内考えてあげた方がいいだろうけど。


「うっ」

「クレイグ!」


 倒れている人が苦し気に、うっすらと目を開けるとまるでミアを突き飛ばすように子供が側に向かった。

 俺はふらついたミアをそっと支える。

 ━━助けた人間にすることか?

 俺の機嫌が悪くなったことに気付いたのか、側の人が小声ですまないと謝罪してきたが、本人以外が謝ることじゃない。


「体に違和感は有りませんか?」

「少しだるいくらいだ。

 いや、だが。俺はワイバーンの爪に当たったはず……」


 困惑している人とは別の人に、「後できちんとした人から診療を受け直して下さい」とミアが告げると、父さんがゆっくりと幌馬車をこちらに近づけてきて、止めると御者台から降りてきた。

 母さんは幌馬車の中にいるようだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ。おかげで助かった。礼を言う」

「いえいえ。

 あの、このことは内密にお願いします」

「……内密に?」

「娘は魔力検査会で再検査を勧められてまして。これから王都に行くのでそちらできちんとしますから」


 あまり大事にしたくないと父さんは頭を下げる。

 助けたこっちが頭を下げるなんて変な感じだが、ミアのことは、たぶんオープンにしない方がいいのだろう。

 この人達も驚いていたしな。変な貴族に囲いこまれたくないというのが本音だ。


「回復魔法は国の宝だ。内密になんて出来るか!」


 ミアにぶつかった子供が怒鳴る。こいつは融通はきかないわ、周りが見えてないんだな。


「じゃあ、元に戻させます」

「━━は?」

「元に戻ったら回復していないことになりますからね」


 俺が言うと、その子供は口をパクパクとさせるが、何も言葉は発すことが出来なかった。


「すでに魔力検査会には参加しました。属性も出ています。

 国の行ったものですから、再検査の必要もないでしょう」

「……まさか、属性は」

「回復魔法はないとされました。ですからこれは何かの間違いです」


 俺がにっこり笑うと、ミアに助けられた人が苦笑し、父さんに視線を向けた。


「私の命の恩人だ。

 内密にしてあげたいのだが、そういうわけにはいかない」

「?ちょっとした回復魔法ですよね?」


 途中からずっと首を傾げていたミアが、理解出来ずに口を挟んだ。


「ワイバーンに致命傷を受けた者を回復させるのがちょっとした魔法であるはずがないだろう」

「……え?」


 ミアは本気で驚いている。

 俺はため息をつき、父さんに視線を向けた。


「悪いようにはしないつもりだ。このまま放置して誰かに知られたら……」

「私達家族は魔力があまりなくて、どうしたらいいのか正直申しまして、再検査を受けてお伺いしようと考えておりました」

「なら、丁度いい。案内しよう。

 ━━私は騎士団に所属する、クレイグ・リプソンだ」


 クレイグさんに手を出され、父さんは両手で受けた。


「よろしくお願いいたします」


 魔力検査会からずっと、ミアを一人にしないようにとしてきた。ミアなら、それほど大男でなくても簡単に連れ去れるからだ。

 そんなところに騎士団員が現れて、父さんは明らかにホッとしていた。

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