マッキノン街道・アルフ10歳━1
お兄ちゃん頑張る編
作者の描写力のなさでこんなもんですが……
少しばかり変更しました。内容的には変わりません。
俺は駆け出した。
ワイバーンに近付くと、紋章はないものの立派な造りの馬車と、上流貴族と思われる質のいい服を着ている子供二人と、その二人を守ろうとしている━━前世のゲームの記憶だと騎士団や護衛かと思われる大人が五人。魔術師らしい人が二人。
他に侍女が二人。
いや、もう一人いた。しかしすでに深傷を負って倒れている。
「大丈夫ですか!」
「子供は避難しろ!」
怒鳴られたその時、ワイバーンの周りに透明の青い光が壁を作る。
みんなが目を見開く中、後ろを振り向くと、ミアがピョンピョン跳びはねながら手を振っている。
ワイバーンの結界は、コの字形の上に蓋をしたような形のものが二つ。それぞれ首から上、胴体と囲っていた。
その結界が段々と狭められ、下げていた頭を上げようとしたワイバーンが上の結界に当たり、地団駄を踏む。
「家族が結界を使って、ワイバーンを拘束しています。今のうちに、向こうへ。
家族のところにも結界が張ってありますから」
言っている最中もミアが結界を狭めているらしく、ワイバーンは首を振るスペースを徐々に奪われていっているのが、色つきの結界のため良く分かる。
色んな色をつけて遊んでいたのがこんなところで活かされている。
俺の台詞に、貴族の子供と侍女が動き出す。
子供一人が倒れている人にしがみつこうとしたが、魔術師に引き摺られていった。
ほぼ魔力切れらしく、そのまま一緒に一度下がるそうだ。
「お二人が無事なら、大丈夫だ」
「倒さないと問題解決しませんよ」
俺が言えば、たぶん今いる中で一番偉い人が苦笑する。
ミアの結界は、まだ練習段階にすぎず、色つきだから張られていない箇所も良く分かったが、それは危険な場所でもあった。
━━首のつけね。
前肢は翼になっているとは言え、ワイバーンが何かを感じ取ったのか、体勢を崩しながら後ろの片肢を結界の外に出している。そのため、気を抜けない。
「口と尾を気にしなくていい分、大分ましだ」
尾の毒と鋭い牙がないのは、確かに有り難い。あれが一番厄介だ。
俺は倒れている人を見た。まだ息がある。早く倒して治療に専念出来るようにすれば、きっと大丈夫だ。
他の誰よりも早く俺は結界の切れ目に飛び出し、力の限り剣を振る。
『ヴィギャアアアア!』
手応えというより、あまりの固さに手が痺れる。
それでもミアがかけた魔法か普段の成果か、ワイバーンの首にくっきりと傷をつけた。
痛さにワイバーンが体を動かすも、結界に阻まれ、頭も尾も自由がない。
片足が俺を踏もうと動いたので、後ずさった。
「……一撃であの傷をつけたのか」
驚かれるということは、この世界でワイバーンはかなり強いのだろう。
前世の他のゲームでは、すでにワイバーンを倒せるレベルと装備を手にしていたからピンとこない。いや、レベルが高かったからだけど。
俺は結界の外に出ている片足を気にしながら、再び剣を繰り出す。
『ヴィギャアアアア!』
溢れだした血が俺にかかる。が動く前に後方へ避難する。
血で視界が悪くなり、袖で拭えば、逆サイドから一人がワイバーンに斬りかかっている人がいた。
「子供に遅れをとる訳にいかないんだよ!」
俺とは違い、両手持ちの剣は鈍い音をさせて━━それでもワイバーンにつけた傷は大きくなかった。
やっぱりミアの魔法のおかげだろうか。
ワイバーンがそちらに気を取られているうちに、俺が再び斬りかかろうと近寄ると、痛みに体を動かしていたワイバーンの片足が至近距離にあった。
「!」
「危ない!」
俺は盾で爪の攻撃をそらし、後ろへ跳んだ。
盾とは言うものの、俺のは安物の鉄で出来ている程度の物だ。男爵領では弱い魔物しか出て来なかったので、これで充分だったのだけども。
ワイバーンの攻撃でも壊されていない━━ミアの魔法のなんて有り難いことか。
「お前が普通じゃないことは分かったよ」
苦笑が聞こえる。
普通じゃないのはミアだが、馬鹿正直に教える必要はないだろう。
「さっさと片付けましょう」
「言われなくても!」
偉いと思われる人が再び攻撃を仕掛ける。
俺もそれに続き剣を振り下ろすと、今までとは違う感覚がした。
飛び散る血が視界を悪くするので下がったが、どうやらうっすらと骨が見える。
「後少しだ」
ワイバーンがあまりの痛みに暴れようとして、結界にガンガン当たっている。
当たる度にきらめく何かが、結界から落ちていく。
「結界が破られるかもしれない。気をつけろよ!」
「はいっ!」
あのきらめきは、結界が綻び始めのサインなのか。結界にヒビが入って崩れていっているのかもしれない。
特に首から上に多くその現象が見えるのは、ワイバーンがそれだけ激しく抵抗した箇所だからなのか。
「頭の結界がなくなったらキツイ━━」
騎士団らしき一人が言うと、まるでタイミングを合わせたかのように結界が砕け飛んだ。
「下がれ!!」
偉いと思われる人が叫ぶ。
ワイバーンは自由になった首を振り、尾で地面を叩いている。当たり前だが機嫌が悪い。
首を左右に振り、更に口を大きく開けている。
牙の攻撃がくる、俺達が身構えると━━再び青い光がワイバーンに立ちはだかった。
「また結界を?!」
たかだか二度目の結界になぜ驚いているのか、その時の俺は分からなかった。
後になって、ワイバーンの大きさで更にワイバーンに耐えうる強度の結界を張るということがどれ程凄いことなのか、教えられたけど。
『ヴィギャアアアア!』
再び狭められた結界に体をぶつけ、ワイバーンが唸る。
暴れているため、今攻撃を仕掛けると危ないので下がっていると横を一人走り抜けていく。
「下がれ!」
偉いと思われる人が叫ぶが間に合わない。
二度目の結界でも、ワイバーンは片足を出すことに成功してしまっていた。その脚に弾かれ、軽く五メートルは飛ばされた。
『ヴィギャアアアア!』
弾き飛ばしたのも気にせず、ワイバーンはまた結界を壊そうと頭と体を意図的にぶつけている。
一度力を落とし、再び結界にぶつかるため脚に力を込めた。その時は脚を踏みしめているため、こちらに攻撃は出来ないだろう。
俺はまたワイバーンが結界を押し上げようとした、その時を逃さず駆け寄ると━━俺より先に偉いと思われる人が剣を叩きつけていた。
その素早さに驚きつつも、俺も剣を振り下ろす。
『ヴィギャ━━』
先の攻撃にあげた唸る声が、俺の攻撃を受けて途中で切れた。
どおおおおん、と地面を揺るがす大きな音が響く
胴体と首が切り離され、ワイバーンの瞳から光が消え━━ようやく終わりを告げた。




