9歳━1
話の流れのための変更を若干しました。
ジョシアのところ━━キンバリー侯爵領を出てから、お父さんに赤い魔晶石を作るように言われました。人には見つからないように、そこは念を押されましたが。
魔術の練習には、赤い方がいいからだって。虹色はあまりにも危ないので、練習には良くても絶対に駄目だと言われています。
なので、私は幌馬車の中で魔晶石を作ったり、侯爵様からいただいた本を読んだり、昼寝をして過ごしていました。
でも、五日もたてば暇です。
今日はお父さんの隣に座り、景色を見ています。
「今日は勉強しないのかい?」
「今日はお休み」
「ミアは飽きっぽいね」
お父さんに苦笑されます。
う。だって毎日同じことの繰り返しはちょっと……。
元々歴史や地理は苦手だ。
今世でも何回か迷子になっているくらい。最近迷子になっていないのは、お兄ちゃんと手を繋いでいるから。ただそれだけです。
「今ってどの辺り?」
「夕方には王都に着くよ」
「え?もう王都?」
さっきまで見ていた地理の本を思い浮かべます。
少しゆっくりとしたペースの私達は、本物の行商人より時間がかかる。
確か、キンバリー侯爵領は王都に近く、三日くらいしかかからないところ、私達は五日かかった。
もう着くというより、やっと着くの方が正しいようです。商売とすると完全に駄目だろう。
お父さんとお喋りしながら馬車に揺られていると、馬車を引くシューとソックが足を止めた。
あれ?と思って前方を見れば━━巨大な何かが空を飛んでいる?!
「ワイバーン?!」
おおう。
後ろからお兄ちゃんの声がした。ビックリしたぁ。
「襲われてる馬車はないかな?」
「……遠くてそこまで見えないな」
固い声でお父さんが返します。
ワイバーンって一応竜に分類される魔物だったような……。
私は慌てて幌馬車を囲むように結界を更にもう一つ張ります。
幌馬車に沿って、ではなく。
だって、馬車だけ結界に入れたら、ソックとシューが結界に入らないんです。だからです。
いつも一つ張りながら移動していたのですが、予備として更にもう一つ張っておきます。
『ヴィギャアアアア!』
大地が揺れるほどの轟きが、ワイバーンの鳴き声なのでしょうか?
このままでは、王都に向かえません。それに、ワイバーンがこちらに気付くかもしれない。
「父さん、他の道は?」
「遠回りになりすぎるが、安全のためには時間がかかるくらい仕方ないなあ」
お父さんがため息をついたその時、前方でいくつもの氷の槍がワイバーン目掛けて降り注いだ。
『ヴィギャアアアア!』
どおおおおん、と地面が揺れる。
だけど氷の槍ということは、あの辺りに人がいるということですよね。
「まさか、誰かいる?」
お父さんが呟く中、お兄ちゃんが馬車を降ります。
お兄ちゃんが身に着けているのは、冒険者なら初級者から中級者が使うような、そこそこ良い剣と盾と革鎧です。
お兄ちゃんの強さは、一緒に魔物退治をした町の人達から幾度となく聞いています。
それでも、これでワイバーンとやりあうのは何をどう考えても無茶苦茶です。装備に問題ありです。
「お兄ちゃん、ちょっと待って!」
私も降りて、お兄ちゃんの服と革鎧、盾に魔法をかけます。
それから剣にも。更に切れ味をあげるように。
物質魔法はまだ練習が少なかったけど、ないよりましなはず。
私が魔法をかけている間も、雷撃や氷の槍が、ワイバーンの起こす地響きが、否応なく感じられる。
ふいに後ろから、震える声がした、
「アルフ━━死んだら承知しないわよ」
「絶対に無事でいるよ。母さん、ありがとう!」
「無理はするんじゃないぞ」
「分かってるよ、父さん」
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
「ああ。行ってくる!」
走り出したお兄ちゃんの安全を私達は祈った。




